第17話:遺品整理(前編)
俺は40代の男。小さな便利屋――要するに、ゴミ屋敷の片付けから遺品整理まで何でも請け負う業者をやっている。
ある日の午後、長年付き合いのあるアパートの大家から電話が入った。
「一〇二号室の住人が半年前に突然行方不明になってね。警察も探したんだけど手がかりなし。もう荷物を全部撤去して、新しい住人を募集したいんだよ」
依頼を受け、俺はトラックを駆って現場のアパートへ向かった。
部屋の鍵を開けると、半年分の埃と独特の生活臭が鼻をついた。
元住人は駅員だったらしく、壁には鉄道会社の制服が掛けられ、机の上には時刻表や運行ダイヤの資料が散乱していた。
「まあ、荒れてるわけじゃないな」
散らかった書類を片付けていると、乱雑に積み上がった本棚の真ん中に、ぽつんと一冊の『白いノート』が置いてあった。
表紙も背表紙も真っ白。文庫本サイズの無地ノートだ。
手にとってみると、中身は完全にまっさらだった。
「きれいなままだな。……まあ、メモ帳にでも使えるか」
俺はまだ使えそうなテレビや洗濯機、小型の家電と一緒に、そのノートをダンボール箱へ放り込み、トラックに積み込んだ。
◇
翌日。
残りの家具の搬出と、部屋の簡単な清掃を行うために再び一〇二号室を訪れた。
大型のタンスをトラックへ運び出し、最後に掃除機をかけて部屋をがらんどうにする。
すべての荷物を運び出し、引き渡しのチェックをしようとしたその時だった。
「……あ?」
何もないはずのフローリングの真ん中に、ぽつんと一冊の『白いノート』が落ちていた。
昨日、確かにダンボールに入れてトラックへ運んだはずのノートだ。
「なんだ、積み忘れがあったか……?」
首を傾げつつも、深くは考えずにノートを拾い上げ、トラックの助手席のダッシュボードの上にぽんと置いた。
会社へ戻り、回収した荷物を選別する。
まだ使える備品を保管する『使用可・再利用ボックス』の中にその白いノートを放り込み、その日の業務を終えて自宅へと帰宅した。
◇
夜、くたくたになってアパートの自室へ着き、玄関のドアを開けた時だった。
靴脱ぎ場の真ん中に、ポツンと『白いノート』が落ちていた。
「え……?」
会社に置いてきたはずだ。鍵もかけてある自分の部屋の玄関に、なぜこれが落っこちている?
嫌な汗がじわっと額に浮かぶ。
翌朝、どうしても気になった俺は、出勤途中にあのアパートの大家へ電話をかけた。
『え? 白いノート? さあ……そんなものについて何か聞いてたわけじゃないけど。駅員の彼、真面目な人だったから日誌でもつけてたんじゃないの?』
大家の呑気な声を聞いて、俺は「まあ、会社で荷物を整理した時に、作業着のポケットにでも入ってたのを無意識に自宅へ持ち帰ったのかな」と、自分に都合よく納得することにした。
楽観的に考えようとした――その時はまだ、事態の異常さに気づいていなかったのだ。




