第16話:拡散するスレッド(後編)
33:**名無しの怪異好き**
> > 25
> > おいおい、今度は>>1が自作自演引き継ぎかよww
> > 昨日のスレ主の仲間か?
>
>
41:**名無しの怪異好き**
> > 25
> > ネタでもやめろって。
> > 昨日から流れが気味悪すぎるんだよ。
>
>
48:**名無しの投稿者**
ネタじゃない!! マジなんだって!!
触ったらめちゃくちゃ冷たいし、重いんだよ!
部屋のドアも窓も全部閉まってる! 誰が入れるわけないだろ!
閲覧者が一気に増え、スレッドの勢いが増していく。
だが、いくら言葉を尽くしても画面の向こうのスレ民たちは俺のパニックを半信半疑で面白がっているだけだった。
「頼む……信じてくれ……!」
その時、PCから『ピコン』とファイル受信を告げるシステム音が響いた。
画面の中央に、新しいレスが自動で投稿される。
投稿者は、俺のIDだった。
55:**名無しの投稿者**
[画像添付:img_99482.jpg]
62:**名無しの怪異好き**
うわ、画像きた!!
うわ……なんだこれ……マジで言ってる……?
70:**名無しの怪異好き**
ヒッ……! ネタにしては不気味すぎるだろ、おい!!
78:**名無しの怪異好き**
待って、>>1これお前か??
冗談だろ?? 画像消せよ!! ヤバすぎるって!!
「え……? 画像……?」
俺は一度もカメラを起動していない。画像など添付して投稿した覚えもない。
血の気が引き、ガタガタと震える手でその添付画像をクリックした。
画面いっぱいに表示されたのは――間違いなく、今の俺の部屋の風景だった。
PCの前に座り、画面を凝視している俺自身が、正面から真っ直ぐに撮影されている。
部屋のどこにもカメラなんて設置していないはずなのに。
そして、その写真に映る俺の姿は、異様極まりなかった。
俺の顔面は、真っ黒なインクで塗り潰されたように漆黒の渦になっていた。
そして俺の身体には、着たこともない黒い喪服が狂いなく着せられている。
さらに——写真の中の俺は、胸の前で一つの『黒い額縁』を抱え込んでいた。
額縁の中に飾られているのは、顔を真っ黒に塗り潰された、俺自身の遺影だった。
「ひぁっ……!?」
喉から変な声が出た。
写真の中の『黒塗りの顔』が、画面越しにじっとこちらを見つめている気がした。
カタカタカタカタ……!
目の前に置かれた『白い本』が、誰も触れていないのに激しい音を立ててめくられ始めた。
ページがめくられるたびに、部屋の明かりが明滅する。
蛍光灯がパチパチと弾け、真っ闇が訪れるたびに、PC画面の白い光だけが部屋を薄気味悪く照らす。
89:**名無しの投稿者**
あかさはまやらわあかさはまやらわ
画像俺じゃない画像俺じゃない
遺影持ってる顔がない顔がない顔がない顔がない
助けて助けて助けて助けて助けて助けて
95:**名無しの怪異好き**
> > 89
> > おい!! マジでヤバいって!! 誰か警察呼べ!!
> > 89返事しろ!! どこに住んでるんだよ!!
>
>
100:**名無しの投稿者**
ほんのなかにいるほんのなかにいるほんのなかにいるほんのなかにいる
画面の中でスレ民たちがパニックを起こし、警察を呼ぼうと騒ぎ立てている。
だが、もう手遅れだった。
白い本が開かれたままピタリと止まる。
そこに刻まれたのは、狂ったような黒い文字。
『――閲覧者。スレッドの書き込み。トイレから戻るとテーブルの上に本。正面からの写真。顔は塗り潰され、喪服を着て己の遺影を抱く。スレッドは絶叫で埋まり、男の存在はネットの海へ溶けて消えた。』
文字が刻み終わった瞬間、パソコンの画面がプツンとブラックアウトした。
闇の中、俺の身体から感覚が消えていく。
自分が部屋に立っているのか、それとも『黒い額縁の遺影の中』に閉じ込められているのかすら、もう分からなかった。
112:**名無しの怪異好き**
おい……>>1?
返事してくれよ……頼むから……。




