第14話:リアルタイム実況(後編)
1:**13話の男**
マジで助けてくれ。
さっきから部屋のどこに置いても、目を離した瞬間にPCのキーボード前に戻ってくる。
燃やした灰すらゴミ箱に残ってるのに、新品同様のノートがここにあるんだよ。
8:**名無しの怪異好き**
つり乙。
画像UPできないなら解散な。
15:**13話の男**
画像あげたいけど、スマホのカメラで撮ろうとするとアプリが落ちる。
画面がノイズだらけになるんだよ。嘘じゃないって。
頼むからどうすればいいか教えてくれ。お祓いとか行った方がいいのか?
23:**名無しの怪異好き**
> > 15
> > マジレスすると、その手のヤツは「開くな」「読むな」「触るな」が鉄則。
> > 視界に入れないようにして放置が一番いい。
>
>
31:**13話の男**
> > 23
> > 放置しようとした。でも無理なんだ。
> > 部屋の隅に投げ捨てても、首を横に向けるたびに視界の端でノートが『こっちに近づいてきてる』気がする。
> > 一回まばたきするたびに、数センチずつデスクの方に移動してんだよ……。
>
>
◇
画面に打ち込む指がガタガタと震える。
スレッドのレスを追っている間も、目の前の『白いノート』は圧倒的な存在感でそこにあり続けていた。
見たくないのに、視線が吸い寄せられる。
「あ……ああ……っ」
耐えきれなくなった俺は、23の忠告を無視して、引き寄せられるように手を出してしまった。
震える指先で、白い表紙をめくる。
そこにあったのは――びっしりと印字された黒い文字だった。
それは、俺がたった今、掲示板に書き込んだ内容そのものだった。
『……15:画像あげたいけど、スマホのカメラで撮ろうとするとアプリが落ちる。画面がノイズだらけになるんだよ――』
『……31:放置しようとした。でも無理なんだ。一回まばたきするたびに、数センチずつデスクの方に移動してんだよ――』
「な、なんで……掲示板の書き込みが……そのまま書かれてるんだよ……!?」
俺がスレッドに打ち込んだ言葉、そしてまだ書き込んでいないはずの頭の中の恐怖までが、リアルタイムで紙面に刻まれていく。
カタカタカタカタ……。
キーボードを叩いていないのに、PCの画面上に文字が自動で打ち込まれていく。
俺のスレッドの『レス欄』に、勝手に文章が生成されていくのだ。
45:**13話の男**
あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ノートを開いてしまったノートを開いてしまったノートを開いてしまった
俺の書き込みが全部この本に書かれてる
次は俺が書かれる次は俺が書かれる次は俺が書かれる
52:**名無しの怪異好き**
おい>>13話の男、急にどうした?
連投すんな、怖いだろ。
60:**13話の男**
逃げられない逃げられない逃げられない逃げられない
部屋から出ようとしてもドアが開かない
PCの画面も部屋の壁も全部真っ白になっていく
分からない分からない分からない分からない分からない
◇
画面の向こうのスレッドは大荒れになった。
だが、俺にはもう掲示板のレスを見ることはできなかった。
PCのモニター画面も、部屋の壁も、天井も、すべてがノートの紙面のような『不気味な白』に染まっていく。
俺の目の前で、白いノートがパラパラと勝手にめくられ、最後の白紙に文字が書き込まれた。
『――30代男性。自室でノートを拾った。燃やしても捨てても部屋に戻ってきた。ネットに助けを求めたが、逃げ場はなかった。今、白い部屋の中で、自分の存在が消えていくのを理解している。』
文字が刻み終わった瞬間、俺の手元からノートがすうっと消えた。
ノートは消えた。
けれど、俺の部屋から『色』と『ドア』が戻ってくることは二度となかった。
78:**名無しの怪異好き**
> > 13話の男、返事しろよ。
> > おい、マジでどこ行ったんだよ……?
>
>




