第13話:リアルタイム実況(前編)
俺は30代の独身男。趣味は深夜のネット掲示板巡りと、どうでもいい日常の書き込みだ。
ある日の深夜一時過ぎ。
近所のコンビニで弁当と缶チューハイを買い、自室に戻ってきたときのことだった。
「……あ?」
パソコンのキーボードのすぐ手前に、一冊の『白いノート』が置いてあった。
表紙も背表紙も真っ白。文庫本サイズの無地ノートだ。
通販で何か買った覚えもないし、部屋に誰かが入った形跡もない。
「なんだこれ……大家が間違えて入ったのか?」
首を傾げつつ手にとってみると、ページはすべてまっさらだった。
気味は悪いが、紙質は結構いい。捨てるのも勿体ないし、メモ帳にでも使うかと思って、デスクの引き出しの奥に放り込んだ。
その夜はそのまま酒を飲んで寝た。
◇
翌朝。
目が覚めてパソコンの前に座った俺は、思わずフリーズした。
「は……?」
キーボードの手前に、昨夜引き出しの奥にしまっちまったはずの『白いノート』がぽつんと置いてある。
引き出しを開けて確認するが、当然中は空っぽだ。
「マジで何なんだよ、気持ち悪いな……」
ちょっと薄気味悪くなった俺は、ノートをゴミ箱の底に押し込み、ゴミ袋の口を固く縛って集積所に捨てに行った。
だが――その日の夜。
仕事から帰宅して部屋の電気をつけると、パソコンの前に、あの『白いノート』が当たり前のような顔で鎮座していた。
ゾクッと背筋に冷たいものが走る。
「おいおい……冗談だろ……」
俺は半ばヤケクソになり、台所からライターを持ち出してきた。
ベランダに出て、缶の灰皿の上でノートの端に火をつける。
紙はパチパチと音を立てて黒く焦げ、煙を上げて灰になった。完全に燃やし尽くしたのを確認して、灰をゴミ袋に捨てた。
これでもう出てくるわけがない。そう思ってベッドに入った。
――だが、夜中の三時。
ふと目が覚めてパソコンデスクを見ると、暗闇の中で、あの『真っ白なノート』が光を反射するようにぽつんと置いてあった。
燃やしたはずなのに。灰になったはずなのに。
時間の経過も関係ない。捨てることも、破壊することもできない。
どこへ逃げても、俺がふと目を離した隙に、必ずパソコンの前に戻ってくるのだ。
恐怖で手足の震えが止まらなくなった俺は、逃げ場のない絶望感の中でパソコンを立ち上げ、いつもの掲示板にスレッドを立てた。
『【不可解】燃やしても捨てても部屋に戻ってくる白いノートの対処法教えてくれ【リアルタイム実況】』




