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見えない本~あなたにはこの本が見えますか?~  作者: CASCADE


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11/31

第11話:夜勤病棟(前編)



深夜二時。

築四十年の古い総合病院の四階病棟は、薄暗い廊下にナースステーションの緑色のモニター光だけが不気味に滲んでいた。


ナースシューズがリノリウムの床を擦るカサ、カサという音だけが静かに響く。

看護師になって二年目の私は、ナースステーションで夜間巡回の記録をPCに入力していた。


点検すべき病室はすべて回り終えた。重症患者はおらず、ナースコールも鳴っていない。

静かな夜のはずだった。


「……あれ?」


カウンターの端、普段はカルテのファイルを並べている棚の前に、見覚えのない物体が置かれていることに気づいた。


近寄って手を伸ばす。

それは、表紙にも背表紙にも何も印刷されていない、文庫本サイズの真っ白な無地の本だった。


「誰かの忘れ物……? 面会時間はとうに終わってるのに」


不審に思いつつ手に取ると、凍りつくような冷たさが指先から肘まで一気に駆け抜けた。

ズシリと重い。紙の重さではなく、湿った重肉でも詰め込まれているかのような異様な感触。


胸騒ぎがして、パラパラとページをめくってみる。


白紙。

どこをめくっても、文字どころか線ひとつ書かれていない。


「……気味が悪いな」


ナースステーションの遺失物引き出しにそれを放り込み、しっかり鍵をかけた。


◇


それから三十分後。

廊下の奥にある男子トイレへ向かった夜勤ペアの先輩看護師が、どこか落ち着かない様子で戻ってきた。


「ちょっと……○○さん。四〇二号室の前の廊下に、変なもの落とさなかった?」


「え? 何も落としてませんけど……どうしたんですか?」


「……廊下の真ん中にさ、真っ白な本がぽつんと落ちてるのよ。誰かのノートかと思って拾おうとしたんだけど、なんか嫌な感じがして触れなくて……」


「え……?」


血の気が引いた。


私は急いでナースステーションの引き出しを開けた。

鍵はかかったままだ。だが、中に閉じ込めたはずの『白い本』は、影も形もなく消え去っていた。


震える足でナースステーションを出て、四〇二号室へ続く長い廊下を見通す。


薄暗い非常灯の明かりの下。

真っ直ぐに伸びる廊下の寸分狂わぬ『真真ん中』に、あの真っ白な本がぽつんと横たわっていた。



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