第10話:終着駅(後編)
ハッとして目を覚ました。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ」
自分の部屋の天井。布団の中だった。
びっしょりと冷や汗をかいており、心臓が激しく脈打っている。
「夢……か……」
あのみんな俯いた四人の男女と、どこまでも止まらない一両だけの電車。
あまりにも生々しい悪夢だった。
時計を見ると、出勤の時間までまだ余裕がある。
だが、あんな不気味な夢を見たせいか、居ても立ってもいられなくなった僕は、早めに身支度を整えて早朝の駅へと向かった。
◇
早朝の駅は、朝霧の中に静まり返っていた。
始発列車が来るまで、まだ一時間以上ある。
鍵を開けて改札をくぐり、昨日『白い本』が置いてあったホームへと足を進めた。
ベンチの上には、もう本はない。
だが、ホームの端まで歩いた時、僕はその場に凍りついた。
ガラガラガラ……。
始発電車が来るはずのない時刻。
誰もいないはずの線路の奥から、乾いた重い走行音が近づいてきたのだ。
朝霧を突き破るようにしてホームに滑り込んできたのは――昨日の夢で見た、あの『一両だけの古い電車』だった。
プシューッ……。
乾いたエアの音とともに、目の前のドアが開く。
車内には、薄暗い蛍光灯の下、四人の男女が並んで座っていた。
私服の男、警備員、女子大生、配送ドライバー。
全員が深く首を垂れ、土のような顔色で微動だにしない。
その膝の上には、それぞれ『真っ白な本』が、抱え込まれるように置かれていた。
「ひっ……!?」
悲鳴を上げて後ずさろうとした。
だが、足が動かない。まるで目に見えない手に足首を掴まれたかのように、身体が勝手に前に傾き、吸い込まれるように車内へと一歩を踏み出してしまう。
プシューッ、ガタトン。
ドアが閉まり、ロックされる。
カタ……カタカタカタ……。
静まり返った車内に、異様な音が響き渡り始めた。
四人の膝の上に置かれた『白い本』が、誰も触れていないのに一斉にページをめくり、白紙の上に黒いインクで文字を刻み込んでいる。
そして、僕の目の前。
空いていた座席の上に、ぽつんと置かれた最後の『白い本』。
その表紙が勝手にめくれ、誰もいない空間でペンが走るような音が鳴り響いた。
『……駅員。終電後のホームで本を拾った。踏切の音が聞こえた。夢の中で一両の電車を見た。朝のホームで、その電車に乗り込んでしまった。今、四人の男女とともに、二度と止まらない電車の中にいる――』
カタカタカタ……。
『――電車はどこへ向かうのか。僕たちを乗せて、どこへ行くのか。次に乗ってくるのは、あなたですか?』
文字が刻み終わった瞬間、四人の男女が一斉に顔を上げた。
生気のない、落ち窪んだ瞳。
その四人の視線が、そして本に書かれた最後の文字が、まっすぐに僕へと――いや、この記録を開いている『誰か』へと向けられていた。
ガタゴト、ガタゴト……。
電車は朝日すら届かない闇の奥へと、永遠に走り続けていく。




