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天女ネオンの生還  作者: 味醂味林檎
共同防衛同盟

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2/3

帝国に抗する同盟者

 ひとまず、八年前のことを、お話しすることにいたしましょう。

 閣下もご存じのことでございますが、当時、東方ではシャーム帝国が周辺の国家を征服しようと、各地で争いを起こしておりました。皇帝エリスロの軍隊は強大で、力なき小国は瞬く間に呑み込まれ、滅んでいきました。

 我がロート王国もまた、シャーム帝国の標的にされておりました。ロートの鉄鉱山を欲して、幾度か使者を送ってきていました。戦争のために武器が必要なシャームにとって、鉄は重要な資源だったはずです。しかし、シャームの要求は協力をすれば見逃すというもので、ロートを属国のように扱おうとするものでした。いかにシャームが大国であろうと、それは我々が受け入れられるものではありませんでした。ロートが協力を渋っていると、痺れを切らした帝国は軍を差し向けてきましたが、険しい山岳地帯も多い土地ですので、それが自然の要塞となって、しばらくは持ちこたえることができていました。

 不幸だったのは、先王ゼノンが崩御したことでした。偉大な戦士であったゼノンも、流行り病には勝てなかったのです。このとき、老若男女問わず、多くの命が失われました。

 ロートでは王位継承は男児が優先される決まりでしたので、次世代の王は弟であるヘリオスが指名されました。しかしヘリオスは当時まだ五歳で、国の混乱を抑え込むには幼すぎ、その隙を見逃すシャームではありませんでした。戴冠式を前に、身を清めている最中の無防備であったヘリオスを攫ったのです。

 病の流行が落ち着いても、すぐに兵士を補充できるわけではありませんでした。人はすぐには育ちません。残る戦士も、都の守りをさせねばならぬので、全てを動かすわけにはいきません。わたくしはヘリオスを取り戻すため、僅かな若い戦士を率いて自ら下手人の山賊どもを追いかけることとなりました。ヒポグリフで空を駆ければ、どのような山道も関係ありませんから、国境を越えられる前に追いつくことはできたのですが、数の多い山賊どもを討つには、当時のわたくしも家臣たちも力不足でございました。幼きヘリオスを人質とする山賊どもを相手に、恥ずかしながら思うように戦えず、次第に追い詰められたのはわたくしどものほうでございました。

 そうして窮地に陥ったところを、栗毛の馬に乗った勇士が助太刀してくださったのです。この方が、ベルトラン様だったのでございます。




◆◆◆




「まあ、お兄さまが現れたわ」

 同盟国の王女であるネオンが語る昔話なのだから、登場して当たり前なのだが、アルミナにとっては新鮮だった。兄のことである。妹としては内側から見た姿しか知らないのだ。そのうえ、アルミナは国内に引き留められている立場である。他国の人間からの評価を直接聞ける機会は少ない。

 過去のことは兄から直接聞いた話もあるが、全てを詳しく知っているわけではない。それはかつてのアルミナが幼かったために、血生臭い内容を避ける配慮があったということでもあるのだが、当のアルミナも政敵に命を狙われたり、悪精霊の災害で悲惨なものを見てしまっている。そして今では頼れる騎士たちも身近に増えた。今更何を聞かされたところで恐れるものなどあるわけがなかった。それより何より興味深い――騎士道又は恋愛物語(ロマンス)が始まりそうな予感がする。

 そのような類の話は、アルミナの好物なのである。




◆◆◆




 ベルゼアにも、我が国を襲ったのと同様の病魔が訪れていたと聞いています。ベルトラン様は、病魔によって欠けた穴を埋めるため、我がロートとの同盟を望んでおられました。そうしてベルゼア国王陛下の名代として家臣たちと共にロートの都へ向かう途中だったところ、危機に瀕するわたくしたちを見つけてくださったのでした。ベルトラン様と彼の騎士たちが加勢してくださったおかげで、山賊どもはいくらか取り逃がしたものの、我々は生き延び、ヘリオスは無事助け出すことができました。

 ロートとしては、同盟の申し出は願ってもないことでございました。もし助けがないままヘリオスが連れ去られていれば、シャームからの要求を突っぱねることができなくなる。国王の代替わりという弱みに付け込んでくるような相手ですから、次があればいよいよ国家の存続も危うい。我々には味方が必要でございました。

 しかし、いくら同盟を結んだとて、わたくしたちの軍は古豪の兵士も若い精鋭も多く失ってしまって、全盛の強さとは言えない状況です。もしかすると、これでは釣り合いがとれぬのではないかと、わたくしは疑問を抱きました。同盟とは、国益があってこそするものです。こちらとしてはただでさえ次期国王をお救いいただいた恩がありますのに、この先の戦においても、できることがあまりに限られている。釣り合いがとれぬままでは、後々揉め事の原因になるやもしれません。それは誰も望むものではありません。

 そこでベルトラン様にこの同盟が本当に上手く機能すると思うかお聞きしたのです。するとベルトラン様はこう仰いました。

「私は信頼のおける仲間を求めているんだ。ヘリオス王子を救うために戦おうとするあなたたちを見て、確信を持ったよ。あなたたちは諦めず、裏切らず、誇り高い。帝国と渡り合うにあたって、それは何より重要なことだ。我々は互いの国を護るため、手を取り合えるだろう」

 わたくしたちもそのお言葉を聞き、上手くやれるのではないかと思えるようになりました。シャームの使者たちと違い、ベルトラン様はわたくしどもの立場もよく慮ってくださいました。よくよく話を詰めていけば、直接の戦闘に限らず、わたくしたちからはヒポグリフに関する技術を提供することができ、ベルゼアからは食糧供給について融通していただけるということになり、互いに利を得られるとわかりましたので、二国間の同盟は無事に締結される運びとなりました。

 一方で、シャーム帝国の侵略行為は全く終わる気配がありません。彼らの軍隊はいよいよロートやベルゼアの国境に近づいておりました。

 シャームの軍の恐ろしさは、単なる兵の多さだけではなく、高い製鉄技術にありました。シャームの刀剣はたいへんに切れ味がよく、鎧も頑丈です。兵士の能力が同じ程度だったとして、真正面からぶつかれば、より数が多く、より良い装備を持つほうが勝つのが道理。強敵です。

 シャーム軍の動きから、狙いはベルゼア国境を守るサーピルス地方の端、ゴーシェン砦の奪取だと推定されました。この時、ベルゼアの防衛軍はベルトラン様率いる常備兵五百名、傭兵千名、民兵千名の二千五百名、そしてわたくしの率いるロート軍の戦士五百名で構成された同盟軍三千名に対し、迫りくるシャーム軍は二万の兵士で構成されておりました。なんとか確保した寄せ集めの軍であるだけでなく、数でも圧倒的に不利ですが、ここを奪われた場合、ベルゼア王国への帝国の侵入を許してしまうだけでなく、その立地上、我がロートへの侵攻の足掛かりともされてしまう。これは決して負けられない戦いでございました。

 ゴーシェン砦の周辺はロート王国同様に険しい山々が連なっておりますので、容易く包囲されるものではございませんが、決して通れぬ道ばかりというわけでもありません。何しろ数の多いシャーム軍ですので、砦の攻略に必要とあらば、多少の犠牲を払うことになろうとも数の優位を保てると判断して山越えを目指すやも。実際にそうなってしまっては、我々は対抗しきれなくなる。これを許すわけには参りません。

 しかし包囲を防げたとして、依然として数や装備の不利を覆せる目途は経ちません。我々には他にも策が必要でございました。

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