シマノ美容室で
翌日、レイヤはシマノ美容室の開店に合わせて家を出たのだが、1階のエレベーターホールには待っていたかのようにフジショーがいた。「よぅ!」と声をかけてくるフジショーに「やぁ」と返すと「もうそろそろ出てくるころかなと思ってな」とキザったらしいセリフを返してくる。フジショーは続けて「シマオが心配してたぜ」と言う。「なんであの時あそこにいたんだ?」と問うレイヤに「お前が慌てるようにして自転車で出かけていくのが見えたから、またなんかこそこそやってるのかと思って追いかけたんだよ、そしたら、シマオも美容室から出てきていてさ、それで、2人でお前の後を追いかけていたんだよ、でもさ、中学生くらいの女の子に声かけてたじゃん?だからさ、かくれて追いかけようってなってさ、そしたら川村の家族が来るわ、白ずくめの村人が来るわ、で、いつ出ようかまよってたんだよ」とフジショーが説明しているうちにシマノ美容室の前までくると、シマオが中からドアを開けて、あいさつ代わりなのか「やっと来たか、さあ、聞かせてくれ」と急きたてるのだった。
島野夫人は自分の作業を弟子に丸投げすると、子供達の接待をするために控室に来たのだが、彼女の眼はそれはもうこの上なくキラキラと輝いていた。レイヤが巻き込まれた事件について聞くことに興奮してウッキウキのワックワクだったのだ。彼女はレイヤを店舗側の奥の席に勧め、その隣にフジショーを座らせ、裏口側の奥に息子を座らせると、自分は息子の隣に座った。つまり、レイヤの逃げ道をふさいだわけだが、少年たちは彼女の意図に気づかなかった。「さぁ~、れ・い・や・くん❤、聞かせて聞かせてぇ~」と露骨に媚びるように言う母親にドン引きして引きつった表情で見下すシマオと、シマオの表情を見て義理程度に笑いをこらえるふりをしながら笑っているフジショーがいた。
レイヤは先ず、田島美紀のことを説明する。彼女が黒い服で花束を持って宝田大橋に向かっていたのでもしかすると川村少年の事件の関係者ではないかと思って声を掛けたところ、関係者だったこと。彼女と川村玲子の兄である和彦少年との馴れ初めや、あの”島神社”の境内で和彦が暴行を受けていたこと、ぐったりと気絶していた和彦を彼女の兄が川へ放り込んだこと、その後、親から厳重に口止めされたために彼女は沈黙し続けていたこと等を話していくと、島野夫人はこめかみを抑え始めた。「子供に聞かせるような内容の話じゃないわね」と母親が言えば、「やはり殺された少年たちが犯人グループだったのか」と自分の推理に満足するシマオ、フジショーの感想は「こぇ~」だった。
続けて、田島美紀からその話を一通り聞いた直後に川村夫人が突然土手の階段を駆け下りてきて、美紀が供えた花束を蹴り飛ばしたので、その花束を川から拾おうとして落ちてしまい、その後のことはあまりよく覚えていないというと、島野夫人は露骨に悔しそうな顔をしたが、「よく無事でいられたわね、溺れなくてよかったわよ」と述べた。「父さんも言っていたけど、”ふち”ってひきずり込む力があるんだってね、めちゃくちゃひっぱられるかじで、足が思うようにうごかなかったんだ」とレイヤが付け加えると、シマノ夫人は恐怖の表情で両手で頬を抑え、フジショーは「こわっ」と相変わらず語彙の無い感想だったが、「弱った上に淵に放り込まれたら確実に死ぬわけだ、子供なのにそこまで考えられるなんて、物凄い悪党だったんだな」とシマオは犯人の凶悪さに呆れていた。
「そうそう、それからさ、あの紙に書いてあったのは”たからしまのちズ”じゃなくて”たからしまのちじゅ”なんだって」とレイヤは付け加えた。話がいきなり変わるのでしばしの沈黙が続いたが、その間にノートをぺらぺらとめくっていたシマオが「誰から聞いたの?それ」と尋ねた。「田島さんが、あの、図書館のおじさん、その人がお母さんたちといっしょにびょういんに来て話してくれたんだ」と答えると、シマオはそれをノートに書き込む、「で、漢字はなんて書くの?千の呪い?」とさらに訪ねてくるシマオに、「血のノロイいなんだって」と答えると、フジショーが疑問を呈した「じゃあ、なんで”ちじゅ”じゃなくて”ちズ”なんだ?」、当然の疑問だが、「ミキさんは小1のころはまだヂモトのナマリがつよくて「ちじゅ」と言おうとすると「ちず」ときこえちゃってたんだって・・・あ、そうだ、あとね、ミキさんはカズヒコ君に千のノロイって教えたから、カズヒコ君は漢字で”千”とかいて、”ズ”のほうは漢字がわからなかったからカタカナで書いたのかもって言ってた」とレイヤがフジショーに答えつつ追加情報も付け加えると、がりがりとメモを取っていたシマオが「でかしたぞレイヤ!!」と叫んだ。それを聞いた彼の母は吹き出しながら「何よ”でかした”って」と笑いだしたので、レイヤもフジショーもつられて笑い出したのだった。




