デスパレード
信号待ちをしている最中、シマオが膝に手をついて方で苦しそうに息をしていた。頭でっかちはひ弱というステレオタイプがドンピシャに当てはまるくらい、シマオは運動が苦手で、体力もあまりなく、よく風邪をひくのだった。その反対に、フジショーは運動が得意で体力があり、風邪を引いたことがほぼほぼなかった。レイヤはその間をとったような感じだ。
信号が青になりだすと同時にトットコと歩き出すフジショーにレイヤが待ったをかける。「シマオがちょっときつそうだからさぁ」、それを聞くと困ったような顔をしながらフジショーが振り返る。移動のペースがシマオ基準になる、「ごめん」と呟くように言ったが、「いいってことよ」とレイヤが慰めると、フジショーもバツが悪そうに「しゃーねーよ」と返した。
シマオだけがデスパレードの雰囲気をまといながら3人の少年が行く。車道になっている土手道より1mほど下がったところにある歩道からは、眼下に広がる米田に波打つ黄金色の海面の彼方にこんもりと木が茂っている島が見える。目指すはその島だが、島に通ずる農道は稲に隠されていて見えない。
炎天下の中、3人は多嘉良川沿いに南下していく。歩道は数百メートルおきに高くなっていて、そこは田に水を引くための農業用水門になっている。この地域は川の水面と田の水面がほぼ同じ高さになるため、用水路からポンプで水をくみ上げる必要は無いのだ。
農業用水門のどちらか、あるいは両方に農道があるので、この水門橋は島に続く道を示す道標に成り得るのだ。宝田大橋を右手に曲がり南下して2カ所目の水門橋の南側の農道が島に続く道だった。ヘバリ気味だったシマオも、その道が島につながっているのを確認すると、その目に生気が戻ってきた。
農道と言っても市がアスファルト舗装した公道なので、私有地の農道のよう未舗装道の凸凹感や轍は無いのだが、宝田団地の建設に伴う地元対策として作られた道路なので、それ以来メンテナンスがされていないらしく、ところどころ、アスファルトが破れたり穴が開いたりしている。穴の中にはわずかに泥が残っているが、雨上がりから2日後の今日の午後には乾くことだろう。アスファルトの割れ目からはタンポポやその他の雑草が顔をのぞかせていて、この道路は早くも自然に帰ろうとしていることがうかがえる。