ハルト静かなる暴走
「はぁ…………、なら、もっと簡単なのはクロスボウだよ。プレートアーマーは貫通性の高いものに弱いんだ」
「馬鹿め。それは教会で禁止された悪魔の武器だ。製造方法も現物も全て封印された。卑怯者の汚名を着てまで使う奴なんていない!」
これもハルトの世界でも実際あった話で、多数の国々がローマ教会に抗議。
騎士道精神に反するとかで、ヨーロッパでは使用が全面禁止にされた。
「発明を否定するなんて何て愚かなんだ。この世界の騎士達もそのうち重火器に消えてなくなるんだろうね。それに聞いていると戦術が力ずく。こんな頭が沸いている貴族が兵法を知るわけもないけど、この世界の中世西洋も異国に蹂躙されてしまうのかね」
大変素晴らしい事を発言しているのだが、残念ながらスマホを弄りながらなので、何処か真剣味が足りない。
中世西洋諸国に常備軍はなかった。
軍隊は全てを貴族が徴兵、または傭兵で賄っていた。
それを率いるのが殆んど表だって戦った事のない世襲制の貴族なので、中国や日本のような緻密な軍略を行う人材はいなかった。
「何なんだこいつは!」
「高貴なる身分の我等貴族を愚弄するとは、神に逆らう程の愚行と知れ!」
「畏れ多いホーキンス侯爵様が率いる聖なる軍団に暴言を吐くとは、御前でなければその首ハネていたぞ!」
貴族達は、大事にする為にわざと侯爵の名を口にする。
元々親の命令で気に食わないシュレリア男爵とヴァージニア共々嵌めるつもりだった為、これも計画に織り込み済みなのだ。
血統だけを誇るシベリアンハスキー達は吠える。
そんな時、ハルトは中学時代に受けた差別を思い起こしていた。
運動部で才能があるないで対応が変わる扱いに多感な思春期時代、深いトラウマを持っている。
才能のないヴァージニアとは努力しているベクトルが違う、この哀れなマリオネット達に過去が重なり同情さえ感じていた。
「馬鹿! すいません! すいません!」
ハルトの代わりに頭を下げるヴァージニア。
しかし、この怖いもの知らずは、
「ヴァージニアさん、こんな無礼千万な奴等に謝る事はないよ。悪いのは一方的に向こう側。騎士道精神を重んじる人達は、弱い者と女性に優しいジェントルマンだと思っていたけれど、あんた達は騎士じゃないんだな。夜盗と変わらない下品だよ」
どんなに脅されようと挑発する態度は変えない。
それは何か作戦があるのか、それとも死を覚悟しているのか、やはりその場の衝動なのか。
ヴァージニアは見たことのないハルトの無表情、これがどういう心理状態なのか、まだ付き合いが浅いので察する事が出来なかった。




