魔王国第五軍陣営
時は夕暮れの陽光、朱色が不気味に大地を照す。
さながら獄炎。
されどそれは続かず、闇と魔と静寂の象徴、無数の将星を引き連れて共に昇天し、女王の如く淡い光を放つ。
ハルト達が窮地から脱した数刻前。
彼等から約20キロ離れた先にある平原に、到底相応しくない大規模な軍団が駐屯していた。
かの場所に無数の幕舎を設営、陣を張る軍団あり。
魔王軍第五軍団――別名『摩天楼』(天を貫くという意味で使用している)
本陣中央に位置する大天幕、2本の大型の軍旗がそそり立つ。
一つは『漠留』の大将旗。
この軍団を指揮している大将の姓だ。
今一つは『楚』の一文字。
国旗。
統一魔王国家『楚』それがこの軍団の所属している国名。
後の世では後楚と呼ばれる。
旗にも絵ではなく字を書くことはこの国の文化であり、古くからの誇り高い習わしだ。
御旗が気流に当たり力強く靡いている。
龍の如く誇らしく、虎の如く激しく大軍旗がはためいている様は、さながらこの国家の力を表しているかに見えた。
その陣に無数にある一般兵舎の天幕の前を、鎧特有の重音が鳴り響く。
「わしらの今度の任務先は楽そうだぜ。腕がなまってしまうな」
男は全身毛で覆われた巨体で、のっしのっしと中央を練り歩いていた。
「幾ら奴等が砂上の楼閣でも、油断は大敵だ。私は古来よりここから破滅した結末を幾つも知っている」
同じく隣を歩き、鷹揚に振り向いた男は猛禽類の鋭い眼孔で相方を注意。
巨漢と対称的に無駄の無いシャープな足取りだった。
「今更、あの馬鹿貴族共に何が出来る? 奴等が栄えたのは昔の話だぜ」
「お前の楽観主義にもほとほと困ったものだ」
「がははははっ! 俺様に任せろ!」
「馬鹿者、誉めてない。皮肉だ」
同僚の忠告など意に介さず、顎が外れるぐらいに大口を開けて、大男は豪快に笑い飛ばした。
「――威勢がいいな」
相方が再び窘めようとする矢先、前方から彼等に声を掛ける者あり。
「おっと、旦那か」
「これはバクリュウエイ屯長」
二人は頭を下げ、左の掌で右の拳を受け止めて礼をする。
「ソウダ、自信があるのは良い事だが、ゆめゆめ油断はしてくれるなよ」
屯長(五百人長)になったばかりの若き隊長はニッと、鋭い牙を剥く。
全身を覆っている紫の鱗が、篝火独特のムラのある光に当たり薄く反射していた。




