ハルト、スキルを使用する事を決意する。
「夜目が効かない私達が圧倒的不利だっちゃ。なにか良い方法はないのか?」
『どんな仕掛けにも死角は必ずあるよ』
ゲームではと、聞こえないように呟く。
だが、ハルトは躊躇う。
ディスプレイ端にあるステータスアイコンを複雑な気持ちで目視した。
「だったら変態、早く答えをひねり出すだっちゃ! 私の体が持たない」
『ちょっと待って!』
ハルトはゲーム体験をフル回転。
焦る気持ちを抑え込んで対バクリュウキョウのシミュレーションに集中する。
この完璧な攻撃手段に穴がないか順序通りに巡っていく。
(僕らの目的は敵の撃破。でも、このまま行けば九割がた敗北だ。残り一割もやってみないと分からないシュレディンガーの猫的な要素。リザードマンは造り出したこの空間に、絶対の自信を持っているのが何よりの証拠だ)
「ぐぐっ!」
ヴァージニアのゲージがじわじわと減っていく。
例えるのならば、雪山の吹雪で遭難した登山者がこんな感じではなかろうか。
(この10メートル四方の周囲には戻ってくる真空波が張り巡らされていて、行動箇所は僅か数歩のみ。この安全地帯もリザードマンがいた場所だから咄嗟に思い付いた。今改めて考えると、これもここに誘導する為の罠だったのだろう。暗闇に乗じて全方向からの攻撃はまさに王手、チェックメイトだよ。でも、本当に反撃の糸口は無いのかな?)
『ヴァージニアさん、リザードマンに何か気になる事はない?』
「どうしたんだっちゃ、藪から棒に?」
『攻略の糸口になるかもしれない』
体感しているのと、ただ操縦しているとでは感じる感覚が違う。
現場と机の上の温度差に似ている。
「強い、速い」
「それにさっきからチマチマ、チマチマ、ウザいだっちゃ!」
『チマチマ?』
「もしかしてリザードマンは長く留まってられないんじゃないのか?」
そう、ヴァージニアが見る限り、バクリュウキョウはこのフォーメーションにシフトチェンジしてから一度も止まってない。
休みなく攻撃が行われていた。
(なるほどね。となると最早僕の勘だけじゃ不十分だ。この絶望を希望に変えるのは、やはりスキルしかないか。仕方ない……。もう形振りなんて気にしている場合じゃないよね。ヴァニシングライダーの初期の性能だけでは限界がある)
ハルトは暗示を掛ける面持ちでそう言い聞かせる。
迷いを打ち払い首を横に振ると、画面をタッチしてスキルのウインドウをオープン。
演出が凝っているので、ロボゲームにマッチした鋼色の無機質で無骨なデザインであった。
そう、ハルトはバクリュウキョウと決着を着けるべくパンドラの箱を開ける。
どれも魅惑的なラインナップに目移りした。
改めてアイテムウインドウを覗いてみると、魔水晶のかけらが消費していた。
ハルトはこの世界では魔水晶が交換アイテムの代用品だと理解する。




