魔族の思想
「そう思ってくれてうれしい限りだが……、全て貴様を油断させる為の演技だ。そしてヴァージニア・ウィル・ソードを殺した後、その足でシュレリア男爵を屠る」
「「え!?」」
暗がりでこちらから表情を確認することは不可能。
ただ、言葉には張りがあり確固たる自信が確認できた。
ヴァージニア達は動揺が隠せない。
「無論、お前が寂しくないように領民も皆殺しだ」
「何だと!?」
「「一般人は関係ないだろ!?」」
バクリュウキョウは再び接近、「くっ!」一太刀浴びせると闇の中へ。
「わが国では主と部下は一蓮托生。後を追うことは美徳なのだ。それに忘れてはいないか? 俺は魔族だ。人間の負の感情が我が糧。破壊の限りを尽くすのが魔物の本懐」
今度は逆から一撃を入れまた消える。
「少しでも良識のある奴だと思っていたっちゃ!」
「あるさ、魔族としてだがな」
声とは別の方向からまた接近、尻尾による足払いでバランスを崩す。
だが、体勢を建て直す前に姿を消す。
『駄目だ、何処にいるのか分からない。リザードマンはわざと喋って自分の位置を撹乱しているのか?』
目を凝らして辺りを警戒しているが、部屋に不法侵入している蚊を相手にしているが如く神出鬼没。
居場所を特定出来ない。
ここが森の中で声が反響する事も視野に入れているのだが、ハルトは本能的に声のする方へ意識が行ってしまう。
その結果、接近を許し更にバクリュウキョウに連続攻撃を仕掛けられてまた離脱された。
闇夜のベールが敵の居場所を完全に遮断しているので、幾らハルトでも容易には対処出来ない。
「変態、何がなんでも負けない理由が出来た。どうせ死ぬんだったらここで仕留めて前のめりに死ぬ! お前の力を貸してくれだっちゃ!」
『……確かに関係ない人達まで犠牲になるなんておかしいよ。負けたくないもない。でも、君も死なせたくない』
現代っ子なハルトはどちらかというと、知らない赤の他人より知っている隣人を優先するきらいがある。
「だったら両方とも救ってみせろっちゃ! 良くは分からないが、お前が誇る積み重ねはこんな事でぐらつくやわなものだったんだっちゃか!?」
『でも……』
「頼むだっちゃ!」
『ふぅ、分かったよ。死んでも僕を蹴らないでよ?』
「善処するだっちゃ」
熱くなっているヴァージニアが逃げない以上、この強敵に勝つしか活路はないと、ハルトは覚悟を決めた。
だが、同時にハルトはバクリュウキョウの態度に違和感を感じとっていた。
誇り高き武人がそんな事をするのかと。




