強敵の呆気ない最後
冷静さを欠いたソンゲンが、種族の文字通り鬼の形相で突進してくる。
残機無しのワンチャンスプレイ。
ハルトは秒針一刻みが1分に感じるほど止まった刻に、武者震いとはこういう瞬間を指すのかと、仮想では味わえない恐怖を体感していた。
だが、物語というものは常に平坦ではない。
見せ場また急展開というものが必ずある。
勿論、この常識はずれで大根役者揃いの三文芝居にも、それ相応の展開がいるかどうか分からない神によって用意されていた。
『あ』
「ん?」
国の行く末を憂う騎士は、忠臣蔵や白虎隊や神風特攻隊に並ぶような華々しい覚悟を決める。
しかしその矢先、大祭の護摩焚きみたいな黄昏時の闇に紛れ、赤い巨人の背後に影が迫った。
この気配にヴァージニアは正体不明の寒気が走り、武人ではないハルトでさえ、直感的にソンゲンは終わったと感じ取れた。
「――ソンゲン、軍機違反だ」
「え? あばばば」
オーガの固い外皮をものともせず、羊羮のように胴体から首が音もたてずに流れ落ちる。
その様は刀で大木を居合斬りしたのと同等の精度だった。
一瞬の刹那に起きた転機、ヴァージニア達は何も手を出せず、雪崩や大地震や株の大暴落を体感しているような錯覚に落ちた。
「嘘だっちゃ!?」
『瞬殺か……』
あれだけ苦しめられた化け物は、倒壊したビルの様に巨体が崩れいとも容易く事切れる。
被害者であり当事者は敵が死んだうれしい等とそんな簡単な理屈で片付けられない、何とも名状しがたい複雑な思いにかられた。
「これはどういう事だっちゃ!?」
『うーん、軍人が一人暴走した末路は、どんな歴史でも結果は同じじゃないのかな』
まだ、状況を飲み込めきれてない逆襲の少女は、「皆ごめん、敵とれなかっただっちゃ」助かった事実より討ち取れなかった悲劇を悲しんだ。
対してハルトは灰となって消えていった哀れな鬼と魔族達へ、最期に黙祷を捧げた。
なのでその間に《ソンゲンの赤魔水晶》を手に入れたとテロップが流れるが、見逃してしまう。
「でも、何か都合が良過ぎっちゃよ。師匠は戦場では神の奇跡などけして起きない。結果として残るのは、純粋に力と用意周到に準備した者だけだと仰っていた」
『実は悪足掻きに狼煙を上げておいたんだ』
「そこまで見越していたのか?」
『も、もちろんだよ』
実際は魔族襲来で気が動転している時、原始的なSOS信号を上げておいたのだ。
良くも悪くも結果としてみれば、ハルトの悪運が強いと示している。
蓄えられた雑学的な無駄アニメ知識が、こんな場面で役に立つとはと、本人は胸を撫で下ろした。




