魔王軍の武人バクリュウキョウ・コウハ
「――残ったのは人間のお前だけか?」
「誰だっちゃ!?」
聞き覚えのある張り詰めた声色に緊張が走る。
ハルト達を苦しめた鬼を退治したさしずめ桃太郎は、暗がりから殺気を放ちながら、カーテンコールでもないのだが月明かりのステージへと姿をみせる。
ワニのような太い尾っぽ、緑のうろこに覆われた鍛え抜かれた肉体、そしてその上から纏っている札甲と呼ばれるラメラアーマー、特徴的な大きな口は小型動物など一呑みにしてしまいそうだ。
「お前はバクリュウキョウ!?」
「む、小娘か。ヴァージニア・ウィル・ソード」
『このリザードマンは知り合い?』
「師匠の仇だっちゃ!」
再びまみえた強敵が名を覚えてくれている事に対して、嬉しさと忌々しさが相まって、駆け出しの騎士としては複雑な心境であった。
「すまない、約束が守れなかった」
「お前は誇り高い武人じゃないのかだっちゃ!?」
「俺の部下が暴走した。戦いの意思のない者達を襲ったのは俺の監督不行きだ。だが、言い訳はしない」
「当然だっちゃ!」
敵意剥き出しのヴァージニアに対して、バクリュウキョウは辺りの凄惨さを見渡しながら鎮魂を祈るように、静かに大きな口を開く。
そのままヴァージニアの横を通り抜け、爬虫類特有の縦一文字の眼孔が瞬きもせず、犠牲となった彼女の仲間一人一人に敬意を表し拝手して回った。
これが将の器または侠気なのであろうかと、ハルトは設定が酷似している三國志の英傑達と姿を重ねる。
「小娘よ、こんな場面で言うのは非常識と重々承知で尋ねる。どうだろうか、魔王軍側に来る気はないか? 悪い様にはしない。兵糧が絶たれた今、この戦は意味をなさなくなった。それどころか、ヴァージニア・ウイル・ソードよ、のこのこ戻れば恐らく敗軍の責をとらされるぞ」
「………………」
考えもしなかった唐突な提案に戸惑いの色を隠せない。
思わず剣が手から離れ、神木の聖地に突き刺さった。
ヴァージニアは再会した事が想定した幾通りのシチュエーションに当てはまらず、流石に一時、何と答えて良いか考えが纏まらず言葉を失う。
例えるなら、ジグソーパズルに違うピースが紛れていたような感覚だろうか。
「ヴァージニア・ウイル・ソードの胆力、行動力、判断力は見事だ。単刀直入に言う、俺の養女になれ」
「お断りだっちゃぁぁぁ!」
ありったけの声量で拒絶。
唾が盛大に飛び散った。




