絶望に囚われて
「お前らあぁぁぁ!」
「うおおぉぉ!」
「副長達の敵討ちだぁ!」
「やったるだよ!」
絶望を宿した怒号。
兵士達は殺意で我を失う。
「ゴミが抗うなど無駄である。抜刀!」
号令に従い下級ゴブリン達は剣を抜き、ゆるりと相手の出方を待っていた。
まるで遅出しジャンケンだが、兵法では状況によって確実に勝つ為の正統で手堅い一手になりうる。
有利な立場だからだろうか、浅黒い邪悪な醜い顔を歪ませ、モンスターらしいゲスな薄ら笑いを浮かべていた。
「待つんだっちゃ!」
ヴァージニアが制止を促すも、私が隙をつくってる間に皆を……、という思惑がばれていたので、誰も踏みとどまらない。
冷静に舵取りを出来るものが欠番の今、もう、この小隊の暴走は抑えられなかった。
「ギャアァァァァ!」
「ごはぁ!」
「おっ母あぁぁ!」
「ま、まだ、死にたくネェだよぉぉ!」
断末魔のカルテット。
一太刀も浴びせられず、凶刃に散っていく。
命の炎が軽風で揺らぐ様に消えていく。
後事を託し想いを置いていく。
幾ら死兵になっても、本職は酪農家だ。
ろくに訓練も受けていない者が戦のプロに勝ているわけがなかった。
それでも、窮鼠猫を噛むを実演するかのような特攻。一騎一殺で挑む。
兵士の一人が最後の力を振り絞って根の壁越しに、「ボ、ボウズっ、お、お嬢様をつれて逃げるだよ……。ぐふっ!」鮮血の手形が自らの存在をあたかも残すように、神木の根元に押しささる。
「うわあぁぁぁぁ!」
小脇から恐る恐る覗きこんだハルトは、初めて見る事切れた死体に、どう行動すれば良いか判断出来ず、さながら生まれたての小鹿、ただ、うち震えるのみであった。
「チビ、次はお前である」
尊大な物言いで威嚇。
下顎から突き出した自己主張の強い双牙がこの鬼を物語っていた。
「我輩自ら相手をしてやろうである」
手刀を抜いた勇気ある者を投げ捨てる。
それを合図にヴァージニアは駆け出す。
ソンゲンに向かって一直線に。
剣を走りやすい様に下段に構えて、生い茂る緑に足をとられながらも、大地を蹴る。
「うおおおお!」
仲間の無念を背負って咆哮する。
最期に逃がしてあげられなかったハルトに懺悔。
「隊長さぁぁん!」
少年の悲痛な叫びが惨劇の現場で木霊した。




