奇襲
「まったくっ」
隊長というお立場をお忘れなくと、一声かけて、一人離れた所で警戒に当たっていた副長も、呆れながら木の幹にもたれていた。
もちろん肩書きにハルトは三度驚き、コマンダーらしからぬブレンバスターでまた周囲を沸かせた。
「――騒がしい。自ら進んで居場所を教えるとは殊勝な心掛けだが、軍人としては失格であるな」
「誰だべ!?」
背後から聴こえる重低音の不気味な声。
この小隊で唯一戦場経験が豊富な副長が気配に気付かなかった。
「ゴミに名乗る名前は持ち合わせていないのである」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁ!」
「「「…………………………!?」」」
和やかな世界を切り裂く絶叫。
その先には人ならざる者が、最も頼りにしていた副長を捕まえ仁王立ちしていた。
「お、お嬢様、は、早く逃げるだぁぁぁ!」
「黙れある」
鬼は首を例えば収穫したキュウリをもぎ取る、またはバナナの先端をむしるみたいに、ヴァージニアの忠実なる副官を簡単にへし折った。
「副長おぉぉぉぉ!」
ハルトが腰を抜かしている中、皆、武器に手をやる。
同時に周囲から反響する複数の金属が奏でる重低音の旋律。
「囲まれていっるちゃ……」
油断と気を抜いている隙に魔族軍に包囲されていた。
まさに四面楚歌、退路は完全に絶たれている。
「お前ら見逃してくれるんじゃなかったんだっちゃか!?」
「知らないのである。あの下等種が勝手に結んだ約を、何故にこの貴族のソンゲンまで従わなければならないのである?」
赤い地肌、鬼面の如く厳つい顔立ち、暗黒の瞳、大きな角、大木じみてる手には1メートルはある金棒を携えていた。
そこにはおとぎ話の本から抜け出したみたいな赤鬼が姿を見せる。
「ソンゲン……、聞いたことがあるちゃ」
ソンゲン、モンスター最強種の一つオーガ。
バクリュウキョウ百魔人部隊第三席。
隊長職不在の場合は命令出来る立場にある。
魔界10貴族の一つオーガ族なので非常にプライドが高く、軍でも手を焼いていた。
鬼の一種で魔界貴族らしく高い身体能力と知能を持ち合わせている。
おもな特は2メートルを超す巨体と、鬼特有の額から生えている1本角。
屈強な体には鉄製の板を生地に編み込んである玄甲を纏っていた。
バクリュウキョウと違い、能力を十二分に発揮出来るように敢えて肩当ては取り除いてある。
分かっていたとはいえ、魔族は信用してはいけないと、ヴァージニアは改めて認識する。
一方ハルトは女神の大樹の裏に隠れながら、「ここは投降しましょうよ!?」一般のヘタレなのでこれしか思いつかなった。
だが、それが抗う事の出来ない窮地に落ちた人間としての当然の反応。
「投降? 魔族に投降とか降参など生ぬるい概念はないのである。殺るか殺られるかのみである。こいつらのように」
3つの玉がヴァージニアの元へボーリングの球のようにハイスピートで転がってくる。
それは変わり果てた三つの首だった。
「あああああ! オスカーさん! アトス! ボブソンンン!」
ヴァージニアは自らも転がりながら死に物狂いに抱き止める。




