ハルトは現実を直視出来ず
森とは生き物達の暮らしの舞台であると同時に、動物達の演芸場、昆虫達のコンサートホール、植物達のファッションコレクション会場でもある。
朝は躍動感ある動物達の演舞。
今年のオスカーは誰の手に。
昼は観客である蝶や蜂にドレスアップした花々がアピール。
歩けていたら颯爽とランウェイを進んでいたのであろうか。
夜は月をスポットライトにコオロギとキリギリスの伴奏、フクロウのパーカッションのリズムに合わせてホタルがダンスを披露。
ロマンチックにメルヘンチックに静寂を駆け巡る。
ならば、神代より樹齢を重ねる傍観者達は、さながら永劫の時を退屈しない為に生物の総合演芸ホールを築き、VIPルームで悠々と観覧している管理者ではなかろうか。
だから口惜しい、腹立たしい。
人為的な一掴みの悪意によって、演芸ホールからコロシアムと化したこの小さき箱庭に心を奪ってきた美しさが陰る。
世界的名画へペンキをぶっかけられた程に腹立たしい光景。
目下で繰り広げているのは太古から続く血の祭典、魂解放の儀。
一方的虐殺は到底受け入れられない無慈悲の世界。
神木は泣く事も許されず、ただ子供達の抜け出た御魂の行く先を見届けるのみであった。
大地に生い茂った緑、一面深紅に染め、かわず、紅葉の時期を錯覚す。
「なんなんだよ、これ?」
夢の1シーンから一変して悪夢、人間達の狩り場と化す。
抵抗虚しく魔族に蹂躙される兵士達。
だが、一度目にしたら避けられない恐怖がそこにあった。
何も出来ない自分に嫌気が差し、極度の緊張からか、木に食い込んだ爪の間から血が滲む。
ゲームでは見慣れたシーンでも、この非現実的な光景に、平和な世界の一般高校生には晴天の霹靂、急転直下であろう。
矢面で戦わないのは、主人公としては失格の烙印を押すべきだが、何も出来ない一般の少年が選ぶ選択肢としては最善ではなかろうか?
つい今し方まで遊んでいたハルトにとって、どうしても眼前の世界に現実味を感じられない。
ホラーや古代戦争映画を3Dで視聴しているような感覚だった。
それも相まって、ここはゲームの世界の最新型VMMOβ版と捉えていた。
そう認識することで一人殺される度に、心臓がかきむしられる感覚を中和していたのだ。
治安の良い世界の堕落または疲弊の賜物である。
「こ、これはゲーム、ゲームなんだ。メーカーが仕組んだ体験版だ。ならさ、良いところで終わる筈。僕を早く元の世界に戻してよ!?」
ハルトはいるかどうかも怪しいゲームマスターまたは神に訴える。
VMMOの必需品、コンソールを探すも出てこない。
メールも出せない。
SNSも駄目。
ブレザーの制服に入っていたスマホはもちろん圏外。
外部との連絡が一切取れなかったので、こうして最も原始的手段を使わずを得ない。




