2.亡国王女、仕事が無い
そんなわけで商会にやってきたわけである。
モモコのご機嫌も取らねばならないのでここらでガッと稼いでおきたいものだが。
「え~、ナイアさん。申し訳ありませんが現在あなたにご紹介できるような依頼はありませんねぇ…」
いかにもお仕事のできそうな眼鏡の商会員から降り注ぐのは何とも無慈悲な一言だった。
「うそでしょ!?私これでも一応白金級ワーカーなのに!?」
思わずカウンターから身を乗り出してしまう。
「それは存じ上げていますよ。『国落とし』を知らない人間はこのあたりには居ないでしょう
「ならなんで!?」
「なんで、というかそもそも最上位のワーカーへの依頼なんてこの平和なご時世そうそう来るものじゃないんですよ?」
困ったように眉尻を下げながらしごできメガネは言う。
腹立つ顔してるなぁこのしごできメガネ。
「金級あたりの依頼でもいいからぁ~!」
「それもだめです。最上位ワーカーを何の理由も無く適当な依頼に格安で動かした、なんて噂になったら我々ツェペシ商会の面子が立たないし、痛くもない腹を探られかねない。白金級とはそれだけ特別なワーカーなんですよ。理解してください」
「じゃあどうしろっての!?お金が無いんだよぉ!!」
「そもそも、あなた三カ月前にきた依頼の報酬があるはずでは?」
ペラペラと書類を捲りながらしごできメガネが言う。
「…つ、使い切っちゃった」
「…人生2周分くらいは遊んで暮らせそうな額を?」
気まずくなり思わず視線を逸らす。
「…はい」
しごできメガネは頭を抱えてしまった。
私もちょっと自分が情けなくて頭を抱えてしまいそうだよ。
そんな時、カウンターの向こう側、馴染みのある女性が彼の肩に手を置いた。
「あー、諦めて慣れなさいエド。初めて応対した白金級ワーカーが『国落とし』なのは可哀想だけどこんなのも居るのよ」
「サラさん…」
しごできメガネ、君は名前までお堅そうなんだな。
「いやそんな事より!『こんなの』ってどういう意味!?」
「そのままの意味よ。ちょっと色々残念ってだけ」
なんてことを言うんだこのムチムチ美魔女め!
「ひどぉい!」
「酷いと思うならギャンブルと酒と女遊びをやめなさいな」
「…くっ!卑怯な!私のアイデンティティなのに!」
ムチムチ美魔女のなんとも残念なものを見るような視線を一身に受ける。
これはこれでちょっと悪くないな…。
「しょーも無いものにアイデンティティ持つのはやめなさい。さ、商会長が呼んでるから早くそっちに行って。後がつかえてるんだから」
◇
執務室と掲げられたドアを静かにノックする。
『どうぞ』
うーん、なんとも可愛げのない冷え冷えの声。
促されるままそろりそろりと入室する。
「お久しぶり~…」
華美過ぎず、しかし設えの良い家具が配置されたシックな室内にはなんだかよくわからないが良い香りのする香が焚かれている。
入室者を待ち構えるやたらと立派な執務机では銀の髪に赤い瞳をした美しい少女がまさに執務中といった様子で、忙しなくペンと視線が書面を追っている。
「久しぶりね、だらしナイアさん」
書面から顔も上げずに言葉の暴力を振るわれる。
「そんなにフランに嫌われるようなことしたかなあ!?」
「別に嫌ってないわよ?ただちょっと女癖が悪くて、ちょっとお酒や遊びに目が無くて、放っておくと同衾した相手にすら全く連絡を寄越さないもはや人間の最底辺に位置しようとしている女を言語化しようと思っただけ。謝りなさい」
「ごめんなさい!!」
迷いのないきれいな土下座を披露する。
人間、非を認めて素直になるのが一番である。
「最近のお気に入りは?」
「『ドラゴンズクイーンクラブ』のアンナちゃんです!!」
「最低ね、死になさい」
「ごめんなさい!!!」
もはや逆立ちをする勢いで謝り倒す。
人間、非を認めて素直になるのが一番である。
「まぁいいわ。その態勢のまま大人しく聞きなさい」
「はいぃ…」
「ついさっき、貴女に指名の依頼がきたわ。ドラゴン狩りですって」
「狩りってことは…」
「そ、大公家。第三令息からのご依頼よ」
二日に一回程度更新予定です。




