1.国落としのナイア
夥しい血が大理石の床を染めている。
玉座へ向かってゆっくり流れる血の中をカツカツと冷たい音を響かせながら歩く。
悍ましいまでに真っ赤な鎧。
身の丈ほどもある大鎌。
その視線の先には顔色を無くし憔悴した白髪の男が玉座に凭れるようにして座っていた。
「…貴様はこの国をどうするつもりなのだ」
男の語り掛けにふと歩みを止める。
「どうもこうも、滅ぼすのみ」
「一体我々が何をした!?騎士や兵のみならず無抵抗の平民まで手にかけるとは!!この化け物が!!一体お前は何者なのだ!!」
「…ハウラー教国」
男はハッと何かに気付き顔を酷く歪める。
「邪教の徒め…。お前には必ず神の裁きが下るぞ!ナイア=ネフレン=ハウラー!!」
ナイア=ネフレン=ハウラーと呼ばれたその人物は男の目の前に迫り大鎌を薙ぐ。
主を無くした体から鮮血が噴水のように吹き出し、玉座を赤く染めていく。
「…なんかあっけなかったな」
血の噴水を一身に浴びながら彼女はそうひとりごちた。
◇
カンカンと鉄がぶつかり合う音が耳障りに響く。
何だというんだ、人が気持ちよく惰眠を貪っているのに。
「うるさぁい…。モモコぉ、その鍋カンカンするのやめてよぉ…」
「もうお昼なんだからそろそろ起きて下さい!」
脇の下に手を入れられそのままずるりとベッドから引きずり出され持ち上げられてしまう。
いやいやながらも目を開け自分をベッドから引きずり出した犯人を目視する。
そこには一切の立体感が無く、まるで黒い影が服を着ているかのような女性、モモコがいた。
およそ顔と思われる部分には目、鼻、口など一切のパーツが見当たらず、髪と思われる部分がさらさらと流れるように動くためかろうじてどこを向いているのかが分かる。
「朝ご飯はなにぃ?」
眠い目をこすりながら聞く。
「昼ですけどね…。チーズとパン、あと昨日の残りのスープがちょっとありますよ」
「いいね、上等上等」
ゆっくりと地面に降ろされる。
足の裏に床のひんやりとした心地よい冷たさを感じながらキッチンまでぺとぺとと歩いていく。
「もー、スリッパくらい履きなさい!ほら!」
「ありがと、おかあちゃん」
「ナイアのお母さんになったつもりはないんですけど!?」
◇
「さーて、今日はどうしよっかなぁ」
モモコに淹れて貰ったお茶を一口啜り、どの酒場にいこうか頭の中でリストアップしていく。
するとモモコが一つの提案をしてきた。
「そろそろ依頼受けに行っては?もうあまりお金もないし、そろそろ商会に顔出さないとまたフランさんに拉致されますよ?」
「うーん、それは勘弁…。というかもうそんなにお金ないんだっけ?」
すっと気温が下がったような錯覚を覚えた。
「そうですね~?どこかの誰かさんがギャンブルやお酒、女の子につぎ込んでくれるおかげですね~?」
彼女の右手が私の手の甲に重なる。
まずい!と思った時には時すでに遅し。
影のようなその手が私の手にぞぷりと沈み込み血管を押し広げながら黒い影が辿り昇ってくる。
冷や汗が吹き出す。
「あだだだだだだ!!モモコ!!ごめんって!!許してぇ!!」
体内を何百匹もの虫が這いまわるような不快感、血管の内部から大量の針が肉を打ち抜くような激痛が脳みそを直撃する。
彼女は只管ニコニコと絶対零度の笑顔(と思われる雰囲気)を崩さない。
恐ろしい…。
「何がごめんなんですか?」
「無駄遣いとかしてぇ…ごめんなさいぃ…」
涙と鼻水と色んな液体を垂れ流し机に突っ伏しながら許しを請う。
「ふふふ、ナイアはかわいいですねぇ」
彼女の手が涙を拭う。
影のようなその手に大量の涙がすっと消えていく。
「まぁ、絶対無駄遣いするなとは言いませんが、そろそろ加減も覚えてくださいね?」
「はいぃ…」
やがて血管から影が引いていき、痛みも治まってくる。
「ほんとに反省してます?次は心臓まで行きますからね?」
「ひいぃ…」
もう何回目かわからないようなやり取りだけど今度からは気を付けよう。
モモコに怒られるならまだ神様と戦った方がマシだ。
二日に一回程度投稿予定です。




