15. ドラゴンズクイーンクラブにて
数日後、竜型魔人専門店『ドラゴンズクイーンクラブ』。
「という事でさぁ~、なんか公開試合に出ることになっちゃったんだよね~」
「そうなのぉ?大変ねぇ」
膝枕されながらよしよしされるこの快感。
たまらん。
「おしゃけ飲ませて~」
「んもぉ~、あんまり飲み過ぎたら体壊しちゃうわよナイアちゃん」
「えぇん」
なんて言いつつ口許にグラスを運んでくれるアンナちゃん。
天使か?
竜だったわ。
あー、ほんと竜型魔人は体温高いし、鱗はすべすべだし、筋肉はガシッとしてるし最高。
甘えがいがありすぎる。
「あ、今えっちな事考えたでしょ」
「あ、ばれたぁ?えへへ~」
目の前に広がる形の良い腹筋を撫でる。
「そんなに腹筋が好き?」
「大腿四頭筋もすき~」
「んも~、えっち!」
ばしんと頭をはたかれる。
うーん、脊椎に響くいい平手。
「そんなに好きならぁ、このお店でいっちばん高いお酒いれてくれたら私のおうちに連れて帰ってあげる、かもねぇ?」
竜型魔人にしては浅めでつやっとした形の良い綺麗なマズル。
はぁ、と顔に吹き掛けられた妙にいい匂いのする吐息に脳が痺れる。
「こ、こ、こ、この店でいっちばん高いお酒!持ってきて!」
思わず叫ぶ。
「うふふ、モモコちゃんに怒られるんじゃなぁい?」
「いいの!なんなら二、三度殺されるかもだけど譲れない戦いがあるの!」
盛り上がってきた!
アンナちゃんにお持ち帰りされるなら今生に悔いはない!
…いや、ちょっとあるけど!
アンナちゃんによしよし(意味深)されたい欲望は何物にも変えがたいのだ!
そんな時。
ガシャンとグラスの割れる音が響く。
「おいおいおい!どうしてくれんだよ!俺の一張羅がよぉ!竜型魔人ってなぁどいつもこいつもがさつなのかぁ!?」
嘲りの籠っただみ声が響く。
「すみません、お客様!今拭くものを…」
「あぁやだやだ。これだから魔人の店なんてよぉ!来るんじゃなかったぜ!」
「お客様、今お拭きしますので…あぐっ!」
わざとだろう、勢いよく伸ばした腕。
拳が屈んだ店員の顔を殴り付ける。
「おぉっと!わりぃなぁ手がなげぇから当たっちまったぜ」
あぁ、嫌な感じだ。
さっきまでの盛り上がった気持ちなどとうに冷めきっていた。
体を巡る血はサッと温度が下がったような感覚になる。
一発いれなきゃ気が済まない。
「おいあんた、そこまでに…」
「おいあんた!そこまでにしときな!」
私が立ち上がろうとする瞬間、男が立ち上がり声をあげた。
◇
「おいあんた!そこまでにしときな!」
俺は今、怒りに燃えている。
こんなに可憐で美しい女性になんて言いぐさだ。
手を上げるなんて言語道断。
「なんだぁ?金級ワーカーの俺様に文句でもあるのかぁ?」
立ち上がる巨躯。
獰猛な風貌。
まさにチンピラだ。
「いつの間にやら金級も随分安くなったなぁ」
「なんだとてめぇ!」
振り上げられた拳。
しかし、それが振り下ろされる事はない。
「…?腕が…?」
「なんだ、こんなもんも振りほどけないのか。いや、ほんとに金級の質が落ちたのか…?」
男の腕に巻き付き締め上げるのは一本の蔦。
まだ十分の一も力を発揮していない。
その状態でこれかぁ。
商会連合は何をしているんだか。
「それに力量差も見抜けない、か…。うーん、お前ほんとに金級かぁ?」
「!お前樹型魔人かっ!それならっ…『血統燃焼』!」
ニヤリと笑う男。
男の体に炎が広がる。
「ハッハァ!燃やし尽くしてやるぜ!このクソみてぇな店ごとな!」
炎の勢いが増していく。
チリチリと燃える火の粉が頬をかする。
「あぁ、なるほど。血統式がそれなりに強力なのか。だが短絡的で思慮も浅い!不合格!『血統万波』!」
キィン、と一瞬耳障りな音が響く。
瞬間、男が纏っていた炎が掻き消え、男は白目を剥き倒れ込む。
男の腕を捕らえていた蔦には焦げ跡1つ残っていなかった。
「ふぅ、一件落着!よーし、騒がせちゃったお詫びに今日は皆に一杯奢っちゃうよ~!」
「やっほーい!」
「いよっ!男前!」
やにわに店内が騒がしくなる。
やや、こういう場には似つかわしくない賑やかさだがまぁこういうのも良いだろう。
「あの、ありがとうございます…」
おや、この子はさっき殴られていた…。
「怪我は無いかい?」
「えぇ、竜型魔人は丈夫なのが取り柄なので…」
「良かった。ね、良ければ一緒に飲まないかい?」
「是非!…あ、あのお名前を伺っても良いですか?」
「うん?俺はメイセム、メイセム=デイ。しがないワーカーだよ」
二日に一回程度更新予定です。




