13. 困ったときのフランちゃん
「土下座しなさい」
「はい」
流れるように土下座を決める。
執務室の床は絨毯がふかふかで良いなぁ。
「えっと…フラン、会長さん…?」
「あぁ、悪かったわね。えぇと、マイノさんだったかしら?なんのご用?」
「いえ、その前にこの状況は…」
おや、マイノ姉さんが珍しくすごい困惑してる。
普段飄々としてる分こういうギャップも中々。
「あぁ、気にしないでちょうだい。このクズがまた新しい女を連れてきたのが腹の底から気に入らなかっただけだから」
「そんなぁ!マイノ姉さんはそんなんじゃないよ!神に誓って!」
「あなたのとこの神は邪神でしょうが」
うぐぐ、言い返せない。
「マイノ姉さんは身内だもん!いくら好みだからって粉かけたりしないもん!」
「ナイアちゃん…」
残念なものを見るような視線が刺さる。
くぅ、せっかくマイノ姉さんの前では落ち着いた雰囲気を醸し出そうと頑張っていたのに。
全部台無しだ!
「ま、まぁそれは一旦置いておいて、フラン会長にお願いが」
置いておかれた。
「あら、何かしら?」
「俗に言う裏市場や、後ろ暗い組織に通じる情報網をお持ちではありませんか? 」
「ある、と言ったら?」
「とある血呪印の流通について情報を探って頂きたいです」
「…対価は?」
「S13、『探索する者』とのコネクションではどうです?」
「あら、中々素敵ね。でもそのコネがあるなら態々私を頼る必要はないんじゃないかしら?」
「今代の『彼』は少々特殊でして、『隠されたものを暴く』という一点に特化しているのです。ですが、今回探したいのは既に裏市場に流通している物品の情報。彼の能力では、少々都合が悪いのですよ 」
フランは顎に手を当て思考を巡らせる。
やがて、何か思い当たったのかニヤリと笑った。
「なるほどね。いいわ、情報については探っておきましょう。まずは一ヶ月ほど時間をもらうけど、構わないわよね?」
「もちろん、ありがとうございます」
「で、私はいつまでこうしていれば…」
いくら絨毯が柔らかいとはいえそろそろきつい。
「あぁ、そういえば貴女からは対価をもらっていなかったわね?」
「え!?私!?」
「えぇ、二人からの依頼ですもの片一方からの対価だけ貰うというのは不公平でしょう?」
そうかな…そうかな!?
「ということで明後日、うちに来なさい。これ以上新しい女を増やせないようにきっちり教育してあげる」
「はい…」
こうして私の教育(?)が決定し、情報のルートも確保できたのであった。
◇
「くそっ、『ネール』は何をやっている!」
定時にあるはずの連絡が一切ない状況。
苛立った様子で男は机に拳を叩きつける。
「だから言っただろう、『立体たる者』アレはお前の手に余る」
ゆったりと椅子に体を預け酒を呷る老人が言う。
「面が割れた今、ようやく巡ってきたチャンスなんだよ!」
「ふぅ、まぁ良い。どちらにしても裁定は二週間後だ。大いに励むと良い」
「言われなくても!」
去り行く老人に背中を見送り、ふんと男は鼻息荒く乱暴に椅子に座る。
「次は…、くそっ!」
震える手でグラスに酒を注ぎ一気に飲み干す。
男にはもう後が無かった。
S13の裁定を始めて二週間。
『ネール』で既に5人、凄腕に分類される暗殺者との連絡が途切れている。
最初は余裕だと思った。
自分の組織は強力無比なのだと、そう思っていた。
最初の三日で一人、六日で二人。
その後はチンピラを集めて集団も送り込んでみたが、それすら全滅した。
刻一刻と迫る裁定の日。
近づく破滅の予感は男の正気を削いでいく。
そんな時、目の端に映った血呪印の指輪。
先日無許可で露店を開いていたチンピラから奪った商品に交じっていたものだ。
妙に気になって手元に置いていた。
見たこともない血呪印が刻まれている。
灰色の宝石。
内部に菌糸状の模様が悍ましく輝くそれを男は手に取る。
「アブ…ホース…」
宝石は返答を返すように淡く光を放つ。
「ハ…ハハハ…ハハハハハ!」
笑う男は部屋を後にする。
指輪をその指に嵌めて。
二日に一回程度更新予定です。




