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亡国王女のその日暮らし  作者: ルリヲ・ドルバッキー
第一章

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10. ミゼーア

「いやー、悪いね。お湯までいただいちゃって。服も…モモコちゃん?だっけ貸してくれて助かったよ」

「いえ、お気になさらず」

モモコの服のサイズがマイノ姉さんにぴったりで良かった。

私の服じゃ身長も胸囲もまるで足りない。

…畜生め。

「そういや今更なんだけどさぁ、モモコちゃんって何者?人間じゃないよね?魔人でもなさそうだし…」

「ケンヂ兄さんは『真なる分け身』と言っていましたが、モモコもよく分かりません」

「あー、ケンヂってあの異神様かぁ」

「ちょっと待って?モモコちゃんって異神の関係者!?」

「えぇ、都が落ちる寸前に招来された異神様が置いていったんですよ」

「いや、そもそもケンヂなんて異神、居たっけ?」

マイノは首を傾げる。

「真名では無いみたいですよ?」

「まぁ、それもそうか…」

無理矢理事情を飲み込んだようだ。

まぁ実際のところ私にだってよく分からない事ばかりなのだ。

「…あ、そうだ!すっかり忘れてた!」

マイノは突然立ち上がると見るからにぼろぼろの背嚢をごそごそと探る。

…いや、よくあれで穴が開いてないな。

「あれー?どこだっけな」

突如、ガシャンと窓ガラスが砕け散り、飛び込んできた何かが部屋を照らしていた灯りが砕かれる。

「あちゃー、まだ振り切れてなかったか…」

「マイノ姉さん!?」

「ごめん!ナイアちゃん、モモコちゃん!ちょっとの間自衛頼むね!」

窓から差し込む月明かり。

その光を受けたマイノ姉さんの深紅の双眸が、獰猛な光を湛える。

昔からそうだ。

こういう時の彼女は何故か格好いいのだ。


◇


割れた窓。

釘のようなものが凄まじい速度で飛び込んでくる。

間一髪、避けるマイノの頬を皮膚一枚切り裂き壁に突き刺さる。

「なかなかの精度。そういう血統式かな?」

血を拭う。

「誰だか知らんがアタシを狙っても良いことは無いぞ!」

外に向かって声を張る。

返答の代わりに再度釘が飛ぶ。

首を僅かに傾げる。

壁に突き刺さる。

「はぁ、没交渉か…」

マイノは素早く壁に突き刺さった釘を引き抜く。

「『血統追跡』」

更に左手の人指し指に嵌めた指輪の装飾部分をくるりと時計回りに回す。

台座からリングの内側に針が伸び、プツリと指に突き刺さる。

「血呪印(ルーン)『ミゼーア』」

銀で作られた美しい球状の装飾がどろりと溶け出した。

銀色の液体は床に落ちると、みるみるうちに広がっていく。

「追え」

水銀の水溜まりのようになった『ミゼーア』が部屋の隅へと吸い込まれるように姿を消す。


◇


「誰だか知らんがアタシ狙っても良いことは無いぞ!」

日が落ちた漆黒の空に響く声。

その声を、俺は少し離れた建物の陰で聞いていた。

呆れたものだ。

良いことが無い?そんな事、決めるのはボスの役目だ。

「血呪印(ルーン)『フォーカス』」

傷つけた親指の血を、血呪印(ルーン)の刻まれたモノクルに塗り込む。

建物の陰から、割れた窓越しに『標的』の顔を捉える。

「『血統直射』」

投げやすいよう加工した釘を、標的に撃ち込むように投げつける。

モノクルから見えるのは僅かな首の動きで高速のそれを避ける様。

「ちっ、流石にやり手か。厄介だな…」

まさか二度も避けられるとは思っていなかった。

ボスから事前に聞いていた通り中々やるようだ。

「一撃必中が俺の信条なんだがな」

一度出直すべきか。

この結果を持ち帰ってもう少し対策を練るべきだろう。

その場を去ろうと立ち上がる。

しかし、妙だった。

立ち上がったはずなのに、視界の高さが変わらない。

「は?なんで…」

足元に目を向けた瞬間、身体が傾いた。

倒れ込んだ途端、激痛が走る。

膝から下が、消えていた。

息が上がり、視界が歪む。

「なんで…なんで…!?」

目の端に銀色に蠢く何かを捉える。

「う…ぐぅ…」

何とか釘を手に取り蠢く何かへ向け投げつける。

その寸前、腕が食いちぎられる。

「あぁぁぁぁあぁあぁぁっ…!!」

何かが半身を飲み込みゆく。

既に朦朧としている意識はバキバキと砕かれる骨の音を、ブチブチと引き裂かれる肉の痛みを嫌が応にも脳に叩き込む。

痛みの中、俺はゆっくりと死にゆく恐怖を感じながら瞼を閉じた。


二日に一度程度更新予定です。

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