恐怖はゾクゾクするんですね
――その時、廊下がざわめいたかと思うと、
ノックもなく扉が開いた。
「シリウス様!!」
ロベルト様とステファニー様は、
叫ぶと同時に私を拘束した。
コツ…コツ…
静かな、美しい靴音が、私に近づいてくる。
急激に湧いて出る憎悪と食欲にもがく私……
だが、ロベルト様の鋼鉄のような腕の隙間から、銀色に光る髪が見えるばかり。
ロベルト様が何かを呟くと、私の体に波動が伝わってきた。
おそらく私の動きを制圧する神通力。
私がぐったりすると、ようやくロベルト様とステファニー様は私を解放した。
と、パッと開かれた私の視界に、
まばゆいばかりの銀髪とアクアマリンの瞳の美しい少年。
――私が襲って傷付けた、
あの少年が涼やかに佇んでいた。
「僕は、シリウス・ソイリ。
――貴女が、リヒト・ネコミヤ嬢ですね。」
――シリウス?
――シリウス・ソイリ!?
――このツヴェルフェト王国の…大王!!!!!
少年大王は私を見つめ、澄んだ声で言う。
顔は青ざめているが、表情は石像のように動かない。
私は微かにうなずいた。
「貴女が、僕が生きているかどうかを心配していると聞きました。
僕は、この通り、無事です。」
首元には血がにじんだ包帯が、痛々しく巻かれている。
しかし、私の頭は、ぐらぐらと煮え立っている。
この少年大王を可哀そうなどと思わない。
ただ、憎くて、食いたいのだ。
私は、ロベルト様の神通力で身動きが取れないのに、
目の前の獲物を襲おうとして、必死にもがいた。
ふいに、少年大王はスッと膝をつくと、
もがく私の唇に手を伸ばし、
こびり付いた自分の血に触れた。
が、すぐにビクリと手を離した。
顔が真っ青だ。
「ロベルト、神通力を緩めるな」
少年大王は短く命じると、
もう一度、私の唇に手を伸ばした。
そして、唇にこびり付いた血を、
指でゆっくりこすり始める。
震えているが、少年大王の指は優しい。
「これが、恐怖……?」
少年大王は、
鼻の頭がつくほど私に顔を近づけると、
首を傾げてささやいた。
「――ゾクゾクするんですね。」
憎悪と食欲が溢れ出す。
――顔から火が噴き出るようだ!
「気安く触るな!……シリウス!!!」
ようやく声を絞り出した私は、
顔を火照らせてシリウスを睨みつけた。




