あの子は生きている
「大丈夫ですか?――リヒトさん?」
優しい声が近づいて、ふわりと私を包んだ。
「まあ、真っ青。
――誰か、気付け薬と葡萄酒を持ってきてちょうだい。
あと、暖かい毛布も。」
慌ただしく足音が行きかう。
「可哀そうに。
さあ、これをどうぞ。」
私は、美しいグラスに注がれた液体を口にした。
少し視界が広がる。
目を上げると、
栗色の髪を品よくまとめた貴婦人が、
ロベルト様と話している。
「だから申し上げたでしょう。
あの状態で謁見など……
可哀そうに、息も絶え絶えになって……」
「ステファニー様、私の落ち度です。
事前に鎮静薬を投与したので、油断を…」
ステファニーと呼ばれた貴婦人が、
私を覗き込んだ。
「具合はいかがですか?
――どうしましたか?
苦しいのですか?」
まだ震えは止まらない。
しかし、私は声を振り絞った。
「私が襲った、あの子は……
死んだのですか…?」
「あの子?
――ああ、それは大丈夫ですよ。
傷を負いましたが、命に別状はありません。」
私は、貴婦人に飛びついた。
「生きているんですか!!!」
「ええ。」
貴婦人は私の肩に優しく手を置いた。
「生きていますよ。」
その言葉を耳にした瞬間、
私は、手を揉みしだいて崩れ落ちた。
「ああ、神様、神様……
もう処刑されても構いません!」
ただ、ただ、良かった……
――安堵のあまり涙が溢れる。
今後、私がどのような罪に問われても、
狂った私が襲ってしまった、
あの少年が死なずに済んだ。
――それがどれほどの救いか。
抱き起されてソファに座ったときには、
震えは止まり、私の心は静謐になっていた。
「大丈夫ですか?」
「はい。
あの子に許してもらえるとは思いませんが、
処刑の日まで、
あの子の傷が早く癒えるよう、祈り続けたいと思います。」
貴婦人とロベルト様は、
驚いた表情で顔を見合わせ、何かを言おうとした。




