春になったら私はここにいない
ランチタイムは、私の休み時間だ。
ランチボックスに軽食を詰めてもらい、
広大な庭園をぶらぶらと散策する。
庭園には、趣深い彫刻や円柱が石畳に沿って点在し、
荘厳な雰囲気を醸し出している。
古木の幹はこの大国の歴史を刻み、
葉を落とした木々と常緑の草木が、池や東屋を縁どる。
冬でも、すべてが味わい深い。
…春になったら、どれほど素晴らしいだろう。
私は夢見るように周囲を見回した。
でも、春になったら、私はここにいない。
再生は、私の大学の休暇期間に限定された計画なのだ。
シリウス次第で、
もっと早くお役御免になるかもしれない。
「シリウスが…」
ふとつぶやいた瞬間、心臓にチクリとトゲが刺さった。
トゲ?
シリウスが感情を再生することは望ましいし、
そもそも私は神鼠を害する猫族。
お役御免になってここを去ることこそ、
シリウスにとって幸せな…
…幸せな…
「お呼びですか?」
「うわあ!!!」
猫だましに逢った猫のように飛び上がった。
振り返ると、少し離れて、
マントに身を包んだシリウスが佇んでいる。
「シリウス!なぜここに?!」
「リヒトさんに、お話があって来ました。」
「話……」
心臓にブスリと錐が打ち込まれたように感じた。
シリウス直々に私に話しに来るとは…
私が怖くて耐えられないとか…
もう私は不要だとか…
そういう話だろうか?
緊張感が高まり、いたたまれない。
耳を塞ぎたかったが、
私の自尊心がそれを許さなかった。
平静を装ってシリウスに尋ねる。
「話って…?」
「貴女は、僕の感情を再生するために、
ここに来ましたね。」
「ええ…」
「おかげで、僕は、既に【恐怖】という感情を取り戻している。
僕は、いつも神通力を操作する訓練をしているのですが、
【恐怖】を取り戻してから、大きく操作の質が上がったと思っています。
ですから…」
この流れはやはり…
…ああ、やはり耳を塞いでしまいたい!
「ですから、もっと【恐怖】を試そうと思います。」
「――え?」
私は面食らった。
シリウスは、巻き尺をするりと取り出すと、
片方の端を私の方に放り投げた。




