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君はたぶん、優しすぎる   作者: 薄明 朔


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言葉にしてしまった

あの電話から一時間ぐらいたったころだろうか。


俺は電話口の悠真の雰囲気に違和感を覚えつつも、深くは考えず、お酒を飲んでいた。


今回、染岡に連れられたバーであったが、どのお酒もおいしく、また店員との距離感も丁度よかったため、かなり気に入った。

時間があったら、ひとりで来ようかと、そう思いながら机に突っ伏す。


「藤崎さぁん、寝ちゃだめですよ。」


「寝てないっての。いま、この状態が最高に良いんだよ。」


「はぁ、そうですかぁ。藤崎さんのお友達、来ませんねぇ。……もう、今日は帰りましょうか。あ、もう一軒行きますか。」


「……行かねぇよ。」


「えぇ……、ケチ。」


染岡はグラスの中の液体を飲み干し、マスターに追加注文をする。

こいつよく飲むなと思いながら、再度机にもたれ掛かり、机の少しひんやりとした感触を味わった。

机に自分の熱が加わり、少しぬるくなっていく。


そんな時、扉が開かれる音がする。

店員のあいさつが聞こえ、その人物はこちらに向かってきているようだった。


「みなとさん。」


かなり大きな声で呼ばれたことで、俺の体が跳ね上がる。

呼ばれた先を見ると、悠真が立っていた。

悠真の息が乱れており、肩で呼吸をしている。


「あ、先ほどの電話の方ですかねぇ。はじめまして、先ほど電話に出た染岡と申します。」


染岡は立ち上がり、丁寧に自己紹介をしながら、悠真に手を差し出す。

しかし、悠真は染岡を一瞥したが特に手を差し返すこともなく、そのまま俺の鞄を持つ。


「……帰りましょう。顔もかなり赤いですし、いっぱい飲んだんでしょう。」


悠真は、俺の左手首を掴み、椅子から立たせる。

かなり力が入っており、手首から痛みが伝わる。

俺は思わず、顔をゆがませる。


「悠真。……どうしたんだよ。」


俺は悠真に言ってみたが、特に返答もない。

ただ、左手首を引っ張る力が強くなる。

俺は困惑しながらも、染岡のほうを見る。

染岡もただこの状態が分からないと呆然と立っていた。


「染岡、すまんな。お金適当に置いていくが、足りなかったら、次の出勤で請求してくれ。」


俺は空いている右手でなんとか財布を出し、万札を数枚机に置いた。

悠真はそのまま強引に店の扉まで行き、勢いよく開けた。


「なんすか。あの人……。」


染岡は大きな声で叫んでいた。




店を出た俺と悠真は、無言で歩いていた。

まだ左手首を掴まれており、悠真の歩くペースも早かったため、俺は付いていくのに必死だった。

かなり酒を飲んでいることもあり、足がもつれる。

人通りも多くはないが、引っ張られるこの状態は少し気恥ずかしかった。


「……悠真。」


悠真に声をかけてみたが、依然として無言を貫く。

そんな悠真に俺は少し苛立ちを覚えた。

急に電話が来て、店に来たと思ったら、手首を引っ張られて、それで無言って。

とりあえず、悠真がどうしてこんなに気が立っているのか、理由を知りたかった。


俺はもう一度悠真に声をかける。


「悠真、手ぇ離せ。」


俺は無理矢理にでも、手を離そうと振ってみたが、びくともしない。

だが、やっと悠真は立ち止まり、俺のほうを見る。


「……嫌です。」


「嫌って、なんなんだよ。」


「嫌なもんは、嫌なんです。」


悠真は子供のように駄々をこねている。

その必死な姿に、俺は困惑する。

悠真のこんな姿を見たことがない。

いつもは天真爛漫で、強引なところはあったりするが、聞き分けは良かったと思う。


「悠真、落ち着け。……逃げないから。」


「でもっ。」


悠真は握っていた俺の左手首を見てはっとし、ぱっと手を離す。

左手首を離された瞬間、左手に血がいきわたる感覚がする。

どくどくと脈打つ感覚を覚えながら、あくまでも冷静に話す。


「おまえ、どうしたんだ。なにかあったのか。」


「……みなとさんを困らせるつもりなかったんです。」


悠真はうつむくと、髪の毛がさらりと下に向かって流れていく。

顔には影を落とし、悠真の深刻な表情をより際立たせている。


「あの日から、みなとさん。全然連絡くれなくて、あなたのこと心配で。いつものコンビニに行っても会えなくて。」


俺は静かに悠真の言葉を聞いた。


「でも、今日、久しぶりに電話がつながったと思ったら、みなとさんじゃない人が出るし。俺、いてもたってもいられなくて。」


悠真は静かに体を震わせていた。


「……俺はずっとみなとさんを忘れられなくて。今までは、どこかでつながっていたら良いとか、思っていたけど、それだけじゃもう満足できないんです。 ……僕は、みなとさんの隣に居たい。今の年上と年下の関係じゃなくて。僕はあなたのことを愛したいです。」


「……は。」


呼吸が止まる。


悠真は今なんて言った。


俺はお酒で頭が回らず、またこれは現実なのか分からなかった。


ただ悠真の苦しい表情だけが、俺の目に映った。


「……すみません。帰ります。」


悠真は逃げ出すように、俺に背を向け走り出した。


「おい。」


俺は大きな声を上げたが、悠真は振り返ることはなかった。

読んでくださって、ありがとうございました。


今回は、悠真の感情が爆発した回でしたね。


湊は本当に、自分に対する相手の感情を読み取ることが苦手なような気がします。

だからこそ、言葉が突き刺さったり、急に言われた感じになっているのかなと。


悠真と湊がこのあとどうなるのか、楽しみですね。


次回もよろしくお願いします。

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