君の言葉のあとに
気が付いたら俺は、自分の家に帰っていた。
妙に肌に張り付くシャツを脱ぎ捨て、部屋着に着替える。
そのまま冷蔵庫の扉を開け、水のペットボトルを取り出し飲む。
アルコールで若干体温が上がっていたためか、飲むたびにすっきりとする感覚があった。
そのまま、ベッドに座り、考える。
「あいつ、なんて言ったっけ。」
もう一度、悠真が言ったことを思い出す作業をはじめた。
「まずは、左手首を握られながら、嫌って言われたんだよな。」
そう言いながら、握られた左手首を見つめる。
生々しく握られた痕が残っており、痛みもまだあった。
これが夢ではなく、現実にあったことを証明していた。
俺は思わず、右手でさすってしまう。
「それで、あの日から連絡が来なかったことを言っていたな。」
あの日っていうのは、きっとあのお盆の夜のことだ。
確かに気まずくて、悠真の連絡に対しても、なにも返信はできていなかった。
ただ、あの後は忙しかったのもあった。
でもこれは、ただ俺が納得するためだけの言い訳かと、深いため息をつく。
俺はガキかよ。
「染岡が電話に出たのも、悠真にとっては嫌だった……のか。……それはなんでだ。」
俺は首をかしげながら、考える。
これに関しては、本当にわからない。
知らない奴が出てきて、びっくりしたのか。
染岡が俺の電話を出たときから、悠真は少し声を荒らげていたなとは思った。
「あとは、俺のことがずっと忘れられない、だったか。」
忘れられないってなんだ。
悠真と出会ったのは、そう、あの夜のコンビニでのことか。
でも、ずっとというには時が短いような気がしている。
ただ、学生と社会人。
時間の流れが違うのもわかる。
悠真にとってはずっとと思うほどに忘れられない存在だったのかなとも思う。
忘れられないほどのなにかをした記憶はないのだが。
「……あなたのことを愛したい、か。」
その言葉を口にした瞬間に、血の巡りが激しくなる。
愛したいって、なんだ。
悠真が俺をってことなんだろうが、思考がうまくまとまらない。
もちろん、恋愛がどういうものかは知っている。
ドラマや漫画、小説でも愛を語る場面はごまんとある。
それを自分自身が受け止める側になるとは、と考え込んでしまう。
いや、そんな思考になるよりも、俺は悠真に告白されたんだぞ。
なに冷静に自分で分析しているんだと、頭を軽くたたく。
「そんな恋愛なんて、経験ねぇよ。」
小さく呟いても、部屋に響くだけ。
俺は、ベッドに横になり、手を額に添えて目を閉じる。
静かな部屋の中で、悠真の走り去っていく姿が思い出されていく。
そして、俺はとあることに気が付いた。
なんで、俺は悠真のことを呼び止めようとしたんだ。
無意識で呼び止めてしまったが、あのまま悠真を引き留めず帰らせることもできたはずだ。
でも、悠真のことを引き留めようと声をかけた自分がいたんだ。
引き留めたとして、俺は悠真になんて言おうとしたのだろう。
……分からない。
悠真と出会ってから、自分の人生は生きやすくなったと思う。
些細なことでも話してくれる悠真は、俺にとってはかわいい後輩ができたようだった。
俺自身、悠真に救われることもたくさんあった。
仕事は毎日残業をしながら、なんとか周りに合わせて、くたびれたままコンビニに行ってコーヒーを買って飲む。
プライベートの時間も特にすることもなかったから、一日中情報誌をみて過ごしたり、目的もなく動画とかも見ていたりしていたなと思う。
ただ、悠真といる時だけは楽しかったと、そう思う日々が多くなったのは確かにある。
くだらない話をして、笑い合ったりもして。
昔の中村先輩と走っていた時みたいだった。
それを悠真が俺に対して恋愛感情を持っている、なんて言われたら困惑するに決まっているだろ。
でも、俺はその感情の吐露については、嫌だ、気持ち悪いとは思わなかった。
同性からの告白、しかも年下の大学生。
普通に考えれば、異常だと考える人もいるだろう。
悠真にとっても、俺よりももっと良い人がいるとも思う。
どう考えても、自分が納得できる答えにはならなかった。
俺は悠真のこと、どう思っているのだろう。
これは生半可に結論を出せないなと、眠りに落ちていった。
読んでくださって、ありがとうございました。
湊が悠真の言葉を深く考える回になりました。
湊は人の言葉を処理するのが苦手というか、その言葉の意味をちゃんと理解しようとする人です。
だからこそ、分かるまで悩んでしまうのかなと思います。
特に自分にかかわることに関しては、弱腰なのかもしれないですね。
次回もよろしくお願いします。




