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参の章 いざ行かん 白虎諸島アキタ県へ

 乗船直後は、船から見える夜明けの都会を眺めようかと思っていた。

 ‥が、久方ぶりの早起きと満腹になった所為だろう、おにぎりを食べ終わると猛烈な睡魔に襲われてしまいそのまま寝落ち。

 夢の中にまで現れたトヨが、曰く俺への愛情を込めたという例の子守歌(トヨによる作詞作曲)を熱唱していた。

 船の大きな横揺れで意識を取り戻すと、ちょうど【ナリタ】へ到着した所だった。


【ナリタ国際空港】はトウキョウ都を有する【辰島(たつしま)】――俗にいう【中央(セントラル)】地域において、【ハネダ国際空港】と並ぶ飛行機器の二大拠点だ。

 国内線の運航に力を入れるハネダに対し、ナリタは二ホンと国外を行き来するジャンボ機、観光宇宙船の運航が主力。

 外国人、異星人利用者数は断トツで、敷地面積も二ホン最大級の国際空港である。

 ただ国内線が全く運航されていないという訳ではなく、特にLCC(ローコストキャリア)の発着数はナリタの方が多い。

 なんでも地続きで都心部からもモノレール一本で行けるハネダと、独立した人工島で、たどり着くのにどうしても船が必要なナリタとでは空港利用料が倍近く違うらしい。利用料の低いナリタに拠点を置くお陰で、低価格を実現できる仕組みだそうだ。

 因みに俺が今日乗る【ウィンド(W)・エクスプレス(EX)社】もLCCの会社。

 WEX社の良いところは、サイズや重さ制限はあるものの、LCCには珍しく一つだけなら無料で荷物を預けられるところだ。

 背負っているリュックをキャスタートランク形態に変形させ、分割できる小型リュック(といっても十分デカい)を切り離せば制限はクリアとなる。

 大きな荷物を預けてつつがなく保安検査場を通過できたので、とりあえず時間に余裕がある。

 喫煙ルームにて、本日最初の一服タイムといこう。


 ホテルを思わせるラウンジホールの大窓からは滑走路の様子が一望でき、朝焼けの中で横一列、大小さまざまな機体がずらっと並んでいる光景は実に壮観だ。

 絵にかいたようなUFOに、この星のロケットと大差ない見た目の機体、どうやって浮かぶのか見当もつかない筒や箱、円盤などなど……。

 遠くに停まっているのは、……ロボットだろうか?

 早朝にも関わらず、窓にすがりついた幼子たちが飛び跳ねてテンションを爆発させるのも無理はない。

 俺だってはしゃがないまでも、アニメやゲームの中でしか見たことのない宇宙技術の塊をこの目で見るのはやはりワクワクする。

 一生に一度くらいはああいったものに乗って、宇宙旅行にでも行ってみたい。

 セレブよろしく、月面にある人気観光地【ルナティックリゾート】から地球を眺め、それを肴に一杯やりたいものだ。


「……ま、先立つ物がないから夢のまた夢だけど……」

 不釣り合いな夢に思わず愚痴がこぼれる。

 さすがに取材を理由に、宇宙旅行の予算を出版社に打診するほど厚かましくはない。


『ご安心ください、その為の吾輩です! 大願を成す秘訣は、願いを信じ続ける事。願うからこそ人は努力し、結果に繋がるので御座います。共に月を目指してまいりましょう!』

 ‥やれやれ、イマジナリーのトヨに応援されてしまったよ。

 二〇代の頃、家業を継ぐ前は『流浪の作家』なんて肩書で活動していたが、海外へは学生時代の短期留学以来行ったことがない。

 金銭的というより、言語能力的な理由で。

 それが行きなり宇宙を目指すのは流石に飛躍しすぎだ。

 だが、LCCのお陰で海外旅行のハードルは年々下がってきている。思い切って、海外を目指すのはアリかもしれない。

 観光客殺到の影響でニホン語もある程度通じると言われている南国のリゾート【ハワイ】にはいつか行ってみたいし、一人の作家として『聖書に次ぐベストセラー』とまで言われる推理小説の金字塔『シャーロック・ホームズ』の舞台にしてその作者 アーサー・イグナティウス・コナン・ドイル氏の故郷【イギリス】にも憧れる。


『本日はナリタ国際空港をご利用いただきありがとうございます。ウィンド・エクスプレス一〇二便【アキタ空港】行きをご利用のお客様にお知らせいたします』

 紙タバコが半分くらい短くなったところで、不意に乗る予定の飛行機に関するアナウンスが。

 搭乗案内まではまだ三〇分以上あるはずだが、一体何事だ?


『本日アキタ空港周辺の濃霧発生により、出発、到着の遅れが見込まれます。着陸困難と判断された場合、引き返す事もございますのでご理解のほどよろしくお願いいたします。またそれに伴いまして、搭乗口が『Ⅽ18』から『Ⅹ7』に変更となります』

「おいおいおい……」

 もったいない気もしたが、吸いかけのタバコを投げるように灰皿に落として喫煙室から離脱。

 Ⅹ7といったら、この広大な空港の端も端じゃないか⁈

 のんびりしている場合じゃない、すぐに移動しなければ間に合わん!

 まさか空港で走る羽目になろうとは、おにぎり屋でのラッキーから一転してアンラッキーだよチクショウめ!


—————————————————————————————


 出発前はヒヤヒヤさせられたが、乗ってしまえばあっという間。

 一〇分ほどの遅れで、ついに俺はアキタ空港へと降り立った。


 実はアキタ県を観光目的で訪れるは、今回が初めてとなる。

 新幹線ないし夜行バスや船旅での乗り継ぎ地点として利用したことはあるのだが、駅やターミナルから出でるのは今回が初。何を見て、何を取材しようか?

 歩きながら端末を操作し、軽くアキタの観光情報を検索してみることにした。


白虎(びゃっこ)諸島】は『東北地方』と書いて字のごとく、【セントラル】からみて東北方向に位置する群島地域で、【アオモリ、イワテ、ミヤギ、アキタ、ヤマガタ、フクシマ】の六県からなる。

人工ではなく現存する天然陸地の面積は、【ホッカイ】に次ぐ広さで、アキタはその中でも山岳地帯が多い。そのためこの空港も、山の上を切り開き、開発して作られたらしい。

 海に直面したハネダ、ナリタと打って変わり、四方を森で囲まれているので、確かにこれは霧が立ちやすい環境だ。

 着陸前に上空から見た限りだが建物を含めた敷地面積は小さく、駐機場も小型ないし中型機が四台ほど停まれば一杯になってしまうだろう。

 規模感は母方の実家がある【トットリ】の空港や、【オキナワ】の離島にある【イシガキ】の空港に近いかも?

『季節が進むほどに日照時間が減る地域』

 という前情報だったが、今日の天気は快晴。絶好の行楽日和だな。


 アキタと聞いて真っ先に思い浮かぶのはやはり『ブランド米』と、山から湧き出る豊富な天然水、そしてそれを利用した『名酒』か。あとは『アキタ犬』。

 実際、空港内にもそれをアピールする宣伝ポスターやのぼり旗、装飾が散見される。

 子犬のアキタ犬がじゃれあっている大きな写真が実に愛らしい。


「……! うお、スッゲぇ……」

 そして何より目立つのが、到着ロビーの中央。ドンッと佇む一対の像だ。

 寺院の正門などに立つ仁王像よろしく、ポーズを決めた巨大な二体の像の顔には赤鬼、青鬼をモチーフにしたお面。

 作り物とはいえ、威圧感たっぷりの表情で大きく開かれた口の上下から飛び出した角ばった牙。頭部には立派な二本角もそびえている。

 ただそのいで立ちは、一般的に想像される『鬼』のような半裸ないし虎柄パンツ一丁のもじゃもじゃパーマヘアではない。

 防寒のためにワラ製のマントのような物と腰蓑をしっかりとまとい、深い雪道を歩くためか足にはブーツ状に編まれたワラグツ。

 ボサボサに伸び放題の髪はマゲを下した野武士の様だ。

 携えているのも武器としての金棒ではなく、出刃包丁やカマ、木桶、錫杖となっている。

 これがアキタの年末年始に行われるという伝統行事『なまはげ』の姿か。

『信仰』という概念の原点であるとされる自然そのもの――山を『神様』と見立て崇め奉り、そして畏れる山岳信仰から生まれた『山の使い』とされる来訪神らしい。

 像の傍らに設置された解説看板によると、この装飾品は現在も実際に使われている物で、しかも代々受け継がれている衣装との事。

 さっそく映像資料として写真を端末で数枚撮影、出来れば肉眼でももう少し鑑賞したい所だ。

 

 よく『漫画やイラストを描かない作家なのだから、そこまでしなくても良くないスか?』と村井君にも言われるが、むしろ文字でディテールを表現するからこそ、観察は必要不可欠なのだ。

 ……が、着陸が遅れた分、空港から宿がある地区へ向かうシャトルバスの発車時間がさし迫っている。残念だが長々と立ち止まって眺めている訳にはいかない。

 トウキョウへ戻る時でも見られるだろうし、今は写真だけで我慢だ。

 あきらめて早く預けた手荷物を回収しよう。


 足早に一階フロアへの階段を降ると、すでにベルトコンベアで次々に荷物が流されていた。

 どうやら乗客が降りるよりも先に荷物の方が運び出されていたようで、既に一部が空港職員によってコンベアから降ろされて一まとめにされている。

 ただ俺の荷物がまだ見当たらない。これから流れてくるのだろうか?


「何アレぇ? 超カワイイ~♡」

「リュックサック背負ってるぅ~♡」

 突如コンベア周りに出来た人垣から、黄色い悲鳴が上がった。

 見れば最前列の若い女性客二人が、コンベアから流れてきたであろう何かを見てはしゃいでいる様子。

 他の客たちも笑っていたり写真を撮っていたりと、思い思いの反応をして流れている物を見つめていた。

 そうなってくると、俺の野次馬根性にも火が付く。

 創作活動において、あらゆる事象は文章の肥やしだ。何がそんなに人々を魅了しているのか是非ともこの目で見なくては。

 人の隙間をぬって、やや強引にコンベアの前へ。


「――……かッ⁈」

 しかし流れていた物を見た俺の喉からは、声にならない空気が漏れた。


 人々が注目していたのは、紛れもなく俺のリュックサック。

 ただそれを背負う形でコンベアに座っていたのは、非常に見覚えのある()()()()()

 驚愕のあまりに俺は固まってしまい、リュックと招き猫はそのままコンベアに運ばれ、ゴム製ののれんが付いた壁の穴へと吸い込まれていった。


 ――少しして、周回したリュックが再び迫ってくる。

 招き猫の体勢が先ほどと変わっており、今度はリュックを抱きかかえるようなポーズになっていた。それがまた周囲の関心を引き、笑いが起こった。

 どうやら『空港側の粋な計らい』と思われているようだ。


 そ、そうだよな!

 たまたま似ているだけだよな?

 ここにアイツが居るわけない……。

 招き猫からあからさまに視線を感じたが、冷静になるために今回もリュックをスルーする。


『何故無視なさるのですかぁ~ッ‼』

 のれんに吸い込まれた直後に悲鳴にも似た声が聞こえた気がするが……、気の所為!

 そうであってくれ!


 ――だが三周目、流れてきたのは招き猫付きリュックではなく、リュックを背負ってコンベアに正座する、むくれっ面の少女――トヨだった。


「ちょっと君! そんな所に乗っちゃ駄目よ! ていうか、今どこから現れたの⁉」

 当然、荷物を監視していた女性職員がすっ飛んできた。これはマズい!


「す、すいません! 直ぐ退かしますんで―ッ‼」

 俺はトヨをリュックサックごと搔っさらい、空港の外に飛び出した。


—————————————————————————————


「いや、マジでなんでココにいる⁈」

 出入口横の空港看板前、担いでいたトヨを下して問い詰める。

 家を出るとき、確かにトヨは神棚に座っていた筈だ。引き戸を閉め切るまで、しっかりと見ていたから間違いない。

 焦り散らかす俺に対して、トヨは「フッフッフッ」ともったい付けたように笑い「これぞ神の御業!」と柏手を打った。


 すると目の前のトヨが一瞬輝き、なんと二人に分身したではないか。


「我々神霊は、御霊(みたま)を分ける――即ち『御霊分け』によって那由多に分霊する事が可能なのです! 御霊を分けても利益や権能に影響はなく、これによって各地に分社が築かれ、信仰を現世へ伝播するので御座います」

「旦那サマがお出かけの準備をしていることは察しておりました故に、この()()()に御霊を入れた『根付』を予め吊るしておいたのです」

 そう言ってリュックを背負うトヨA(と仮称)が後ろを向き、トヨBがしゃがんで三本あるコンプレッションストラップ(リュックの厚みを調整するベルト)の三本目を指さす。


 確かに各地で買った旅のお守りの中に、見覚えのない真新しい招き猫を模した根付がぶら下がっている。

 根付自体にもトヨとしての意志があるらしく、さも当たり前のように欠伸をしていた。


「い、いつの間に……。となると、道中俺に話しかけてきたのは……」

 思うところあり、胸元のポケットから金属製の煙草ケースを引っ張り出す。

 まさに引っ張り出すのに握った紐のストラップは、以前トヨがくれた猫顔の木彫りが付いている。

 ご多分に漏れず、こいつは俺の顔を見るなり『ご明察!』と笑っていた。


「ただそれを可能とするには、それ相応の『信仰の力』が必要で御座います。こうして吾輩が分霊出来るのも、ひとえに旦那サマの『愛情』と『信仰』に他なりませぬ!」

「如何です? 両手に――否、『全身に華』でございましょう?」

 俺の両サイドから腕を絡め、満面の笑みを浮かべる二人のトヨ。


 ただでさえ喧しいトラブルメーカーが無限に増えるだと?

 一匹見たら一〇〇匹いると思え的なアレか?

 マジで勘弁してくれぇ……。


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