第39話 僕のすべき事
マブルの話を学園編の途中で入れるつもりだったのに、いつだそういつだそうって思ってたら、凄い終わりの方になっちゃいました。自分でも驚きです。そのせいで、少し長めかもです。すいません。
僕はリンゼンと共に、話し合いを終えて帰ってくる、ギルダントの事を待っていた。
話題はアリルについて。
僕は、アリルに凄く感心していた。リンゼンは良くも悪くも実直だ。思った事は、貴族とか何も考えず口に出すタイプだ。だからこそ、他人を褒める事は良くあるが、女性を褒めてもそこに恋心があるかは別の話だった。
けれど、こんなにも長く話題に出すという事は、そういう事だし、このまま上手く行くんじゃないかと思う。
アリルも同様にリンゼンの事が気になっているようだし。
そんな事を考えながら、話半分に聞き流していると、ギルダントが暗い表情で帰ってきた。
やっと、動いてくれたかと思ったけど、どうしてこんなにも上手くいかないのか。
アリルとリンゼンを本当に見習って欲しいと思う。もっと、素直に何も考えなきゃ良いのに。そう考えると、心の中で小さく笑った。
この言い方じゃ、2人に悪いなと少し思いつつ。
『話していた事を進めてくれ。』
俺たちは顔を見合わせたりする事もなかったが、同じタイミングで返事をした。
『……はい。』
『……わかった。』
もう、2人を修復する事は不可能だろうな。
ほんと、バカだなって思う。
学園に入学してから、僕は本当に大変だった。学園での勉強や、家柄の所為で埋もれている有能な人材を探りつつ、姉さんの交易や政治に関する話の相手をして、内容を詰めて、ギルダントもギルダントで新たな政策や事業に関する話をする。2人に会うと、そんな疲れる話しか回ってこない。
2人は、人を集めた話し合いなんかも多くするが、そんな時に2人が顔を合わせる事は良くある。そんな時は、2人は本当に仲よさそうに話をする。
2人は国の為って事しか考えていないのだろうし、2人の話は為になるからこそ、話の中心になっているのだろうが、周りからは仲睦まじく見えるだろうな。話している事は、政治的な話だが。
けれど、この2人が2人きりになると、上手く会話も出来ず関係を拗らせているなんて、誰も思わないだろう。
僕も2人の関係を改善させる為にも、2人が2人で会える時間を作れるように、助けてきたつもりだったのだが、もっと徹底的に突いてやるべきだったのかもしれないと、今では思う。
姉さんの恋愛力は低いと思っていたし、ギルダントもあまり高くなさそうだが、2人の時間を作っていれば、上手く解決してくれると思っていた。2人とも優秀な人間なのだから。
でも、考えが甘過ぎたようだ。人には得手不得手がある。その事に気づけなかった僕にも問題はあるのだろう。
でも、言い訳させて欲しい。僕にもしなきゃいけないことはたくさんあったんだ。2人にばっかりかまってなんていられない。ギルダントと姉さんにそれぞれ相手の話を振ろうとすると、別の仕事の話を振られて、避けられるし、そうじゃなくても、色んな仕事の話を抱えてくるしで、2人のことを避けたくなるのも仕方ないと思う。
情報が一番集められる王宮の図書館よりも学園の図書館の奥地に逃げるのも仕方ないと思って欲しい。あんな、静かでありながら、欲しい情報は直ぐに調べられて、なおかつ内緒話にうってつけの場所、手放さない訳がないのだ。僕にも学園でしなければいけないことがある。
学園というものは色々な目的の為に存在する。
お金に余裕が無く、貴族教育が不十分だったものが、普通に勉学に励んだり、あまり王都の方に出てこないものが、他領の者と縁を結んだり、そして僕のようにまだ、婚約者のいないものが相手を探したりと様々だ。
僕の場合は、姉さんとの関係もある。色々な面倒ごとも考えた上で相手を決めなければいけないし、それを許容できるものでなければいけない。そして、姉さんがギルダントと上手くいかなかった場合の事も考えていた。
場合によっては、僕はヴィルランク家の当主の座を姉さんに譲らなければいけないと思い、下手な動きは出来ずにいた。
それでも、三人の女の子に絞って、今、誰にするか悩んでいる。相手の能力や今後の動きで決めていくしかないだろう。
みんな良い子で可愛い娘達だから、早く答えを出してあげたいんだが、もう少し待ってもらう他ない。
それにしても、今日という日が来るまで、本当に色々あったなと思う。ギルダントが、ヴィルランク家とディアネル家のことを疑っていると気づいた時は、本当に驚いた。
そんなはずがないだろうと。
証拠はないに等しい。けれど、疑う余地がないって言ったら嘘になる。だが、僕がそのことについて動ける状態でない事も理解している。宰相のお義父様と一緒に、王宮での仕事に比重を置いているためだ。
逆に、姉さんは交易やヴィルランク領の内政管理や医療計画など、ヴィルランク領での仕事が多い。ディアネル家からの御礼は、マリネさんの祝い金を更に豪勢にするつもりのようなので、姉さんが対応しているし。だからこそ、姉さんの単独犯にも見えるんだろうが、何もしていないのに、疑われるというのも悲しいものだ。
そう思うと、2人の仲が裂けるのも仕方なく思ってくる。僕はギルダントに全面的に協力するつもりだ。
ギルダントが疑う理由、姉さんが何かを隠している。それは僕やお義父様。マリネさんやアリルにも言わない、姉さんの中の何かだ。
姉さんの性格で心を許した誰にも言わない話となると、貴族として思ったり考える事自体間違った何かを隠してしているのかもしれない。
たぶんだが、姉さんの中ではそれを伝えた時点で、何かが終わるのかもしれない。
貴族としてダメで、人に言えない………同性愛とか?
姉さんとアリル、マリネさんの良くない姿が頭をよぎった。
やばいやばいやばい。なんて事を考えてしまったのだろう。それは違うと思う!と言いたいところだが、変な妄想は頭の隅で保管して置いて、同性愛者か。可能性としてはあるのかもしれない。ギルダントと別れても良いという理由にもなる。一番の心動く相手が同性だったとしても、異性にそこまでの不快感を持っているようには見えなかったし、仕事仲間として認めていたギルダントだからこそ、伴侶となっても良いと思っていたのかもしれない。
まぁ、これは僕の妄想でしかないのだが。
それに、僕も姉さんに聞いてみた事がある。学園に入ってからだが、単刀直入に何か隠し事がないかとか、悩みはないかと。だが、姉さんはいつも楽しそうにはぐらかすのだ。乙女の秘密だと。
誰にも伝える気は無いのだと。僕も諦めていたし、そういう風に、姉さんが言うのなら、探ってはいけないんだろうなと思っていた。
隠し事なんて、誰にだって一つや二つ、いやそれ以上にあるはずだから。
しかし、ギルダントはもう決めてしまったようだ。姉さんの何かを暴くという事を。僕もそれを止めるという道は選べなかった。拗れに拗れてしまった関係なら、もう修復は諦めるしかないと思ったから。
姉さんがその何かについて語った時、それがギルダントにとって何のこともない話だったとしても、姉さんはもう無理矢理秘密を暴いたギルダントとともにいる事は出来ないだろう。
その時、居場所を作ってあげなければいけないのは、義弟である僕のはずだ。姉さんが何を語っても、帰れる場所は作ってあげよう。守れるだけの準備をしておこう。
姉さんなら、貴族社会に戻ることが出来なくても、ヴィルランク領で好きなように暮らせるだろう。あの人は恋愛以外なら、なんだって出来る人なのだから。
ギルダントが、姉さんを失った後、何を言おうと姉さんを渡す事はないだろう。
普段は、僕ら、いや王宮の中で最も心の広い人だと思うのに、姉さんについてだけは、少しだけ、色々なものが小さくなっている気がする。まぁ、もともと、敵対しない限りは甘ったるさしかない人のはずなのに。
姉さんが敵で無いと分かれば、その後の処遇は好きにさせてくれるとは思うけど。
だけど、そのまま婚約者を続けさせるなんて言ったら、止めるのは僕の役目だ。姉さんがそれを望まぬ限りは、そんな事はさせない。
姉さんにそんな辛い目はさせない。姉さんなら、貴族の務めというかもしれないけれど、語りたくない事を語らされた相手と、今後も今までと同じ感情でいる事なんて出来ないと思うから。
ずっと守られてきたし、お手本として色々と教えてくれた大切な人だ。今は僕が守る番だろう。
本当は秘密も一緒に守ってあげられれば良いのだろうけど、今の僕にはそこまでの事は出来ない。ヴィルランク家や姉さんがこれ以上疑われない為にも、そこを守るのは僕の頭じゃどうしたらいいかわからない。だから、それについては許して欲しい。
姉さんの為に出来る事。準備は大体進んでいる。後は、どれくらい穏便に済ますかだろう。
しばらくして、姉さんと2人で話す機会があった。姉さんはギルダントとは真逆でいっそ清々しさを感じる雰囲気だ。
2人の話し合いは上手くいかなかったと聞いていたのに、姉さんには憂いが見えない。本当にギルダントの事はどうでも良かったという事だろうか?そんな事はないと思っていたのだが。
『姉さん、何か困ってる事は無い?』
姉さんは少し驚いたような顔をする。
『珍しいわね。最近は仕事を増やしすぎだって、怒ってたのに。』
『え、仕事系のはちょっと待って欲しい気はしますね。』
姉さんの為に、今は根回しとか色々大変なんだから。
姉さんは少し考えた後、蕩けた顔で口にした。
『大丈夫よ。今は何もないわ。貴方の立場じゃあ、これは難しいもの。』
『また、子供扱いですか?一応同い年だというのに。』
数ヶ月としか変わらないというのに、姉さんはいつもこんな感じだ。僕の姉さんであろうとしてくれるのだ。
『そんなつもりではないんだけどね。』
うふふと、小さく笑う姉さんを見て、仕方ないと思いながら、小さくため息を吐く。
『じゃあ、僕は僕なりの方法で、勝手に力を貸しますからね。』
僕が姉さんを見て、勝手に宣言すると、姉さんは少し戸惑ったように僕を見た。
『いつもありがとう。マブルには十分助けて貰っているわ。でも、一つだけわがままを言うのなら、アリルを支えてあげて。そんな時が来ると思うから。貴方も背を押して欲しいの。』
何故、ここでアリルが出てくるのだろう?
何かを予測しているかのような、言葉だけど。というより、それならば思う事がある。
『だとしたら、今アリル嬢の事を助けてあげなくて良いのですか?』
アリルは今、また、面倒ないじめを受けている。それを貴族らしくないと、姉さん派の娘達の事は姉さんが諌めていたはずなのに、最近その手の話題は、知らないふりをしているらしい。
その態度こそが、姉さんとギルダントの関係を悪くしている、きっかけに、アリルがいると思われているようなのに、姉さんはそれを止めていない。
姉さんを出汁にとやかく言う人もいたが、それらに関しても、姉さんは知らないふりをしているらしい。
お陰で色々と、手筈は進みやすくなっているけれど。
『今は良いのよ。アリルは強いもの。これくらいで、凹んでしまうほど、アリルは柔な子じゃないわよ。』
まぁ、確かに。アリルはアリルで、姉さんを出汁に何か言われる事に、本気で怒っているみたいだし、その事で凹んでいる雰囲気はない。
気にしている雰囲気なんて、一切なさそうだ。
今はアリルに対する悪い文句だが、簡単に姉さんに倒れこむ事の出来る噂だ。
姉さんは、退場しやすい雰囲気を作っているのだろう。
これは誰のためだろうか?婚約破棄でいなくなるのと、反逆罪でいなくなるの、困るのは僕らか。
はぁ、姉さんはいつだって姉さんのようだ。
だから、守る為にも、僕は動きを間違えてはいけないんだろう。
そして、その日がやってきた。いや、少しだけ前倒された。姉さんが何故か、不穏な動きを見せたから。僕がギルダントに伝え、今日に変えさせた。
姉さんがアリルと2人で何かを話していた。少し揉めているように見える。アリルは顔面を真っ青にしていた。
階段近いその位置では、一歩間違えたら、落ちてしまいそうで危ない。いや、姉さんが、何故かそんな状況をアリルと共に作ろうとしていたから、今日という日に早める事になった。
隠蔽出来なくもないが、そこまで事を性急にせずとも、きちんと僕らは動いていたのに。だからこそ、今日直ぐに来ることも出来たし。
僕らに気づいた姉さんは、姿勢を整えて口を開いた。
『どうかしましたか?』
『ヒールに話がある。この前話した件でだ。今の状態についても聞きたい事があるし、色々と決まった事がある。今から少し話せるか?』
『かしこまりました。』
どちらも、感情のないような、淡々とした言葉だった。今日というより日まで、公の場では、2人とも普通以上に接しているように見えたのに。本当に分けのわからない2人だ。
姉さんはギルダントについていくように歩き出す。
『ヒーランさ、ま。。?』
アリルが必死の思いで言葉を出していた。
それに反応し、姉さんが振り返る。
『ヒーランさま。わたしに、は、そんな、そんな。』
アリルが言葉を探して彷徨っている。そこへ、姉さんは指を口の前に持っていき、片目を閉じて、目一杯微笑んだ。
それ以上は、何も言うなと。
『お願いしますわ、アリル様。貴方にしか頼めない事なの。』
姉さんの顔には一切の憂いもなかったが、それに相対してアリルの顔は蒼白としている。
姉さんが、向きを直して、ギルダントとその他数名の護衛と共に歩き始めた。
リンゼンは、アリルに近づき、すぐさま支えている。
ここで、アリルに騒がれても困るので、アリルの事も、ギルダントと姉さんの話が終わるまで、別室で待機してもらうつもりだ。
『アリル嬢。姉さんと何があったの。』
『それは、、、い、言えません。言えませんけど、でも、そのヒーラン様を、お嬢様を助けてください。私は私にはそんなのそんな事。』
『落ち着け!大丈夫だ!一回、冷静になれる場所へ移ろう。そこで一度ゆっくり休憩しよう。ヒーラン嬢を心配してるのかもしれないが、直ぐにはどうともならないから、安心しろ。』
『は、はい。』
リンゼンがいつにも増して、冷静に対処していた。相手がアリル嬢だからだろうか。
そういえば、アリル嬢を支えてくれって、言われていたが、今がその時なのだろうか?アリル嬢の背中を押して欲しいって。
姉さんは何を吹き込んだのか。
とりあえず、介抱はリンゼンに任せて、話せるようになったら聞いてみる他ないだろう。
先ほど、姉さんに、何を言われたのかを。
この後、アリルに話を聞いて、マブルは更に悩まされるのでしょうね。可愛そうに




