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第38.5話 僕は弱くて狡い人間だ

前回のギル様視点のお話です。

.5話なので、先週出したかったんですが、ダメでした。すいません。

 ダンスパーティの後 、数日をかけてディアネル家とヴィルランク家について探りを入れさせた。手早く出来るだけの情報を集めてもらったのだが、特にそれらしい情報はなかった。

 ディアネル伯爵と宰相の関与は特に見当たらない。マブルにも一応探りは入れたが、何かを知っている雰囲気はなかった。


 そうなると、ヒールの単独犯の可能性が出てくる。アリル嬢については、知らずうちに手伝わされている可能性もあるけれど。


 結局のところ、情報としては不十分で、ヒールが本当に何も企てていないのなら、凄く失礼なことをしていることになるが、皇子である僕には必要なことだと思うと、虚しくなる。


 ヒールの粗を探している対抗派閥のものでも、気づいていない可能性を僕ら王宮側だけが気づいているのだ。ならば、僕が確かめる他ないだろう。


 僕は、ヒールと落ち着いて話の出来る場を設ける事にした。





 そうして、新たな情報もないままに、ヒールとの会合の日がやってきた。


 ヒールと約束を取り付けてから今日まで、ずっと何について話すか考えていた。色々と聞きたい事はあるが、聞いていく順番も大事だろう。


 ヒールが王国の反逆を起こそうとしている。

 これが一番最悪の事態だ。なので、先にこれを聞かれた時の他の逃げ道を塞ぐ必要があるだろう。


 だとすると、アリル嬢に関してと、僕との婚約についてだが。

 アリル嬢について何を思っているのかは、正直知っておきたい。彼女にとってのアリル嬢の立ち位置は、本当に読めないのだ。


 それらしい挨拶を交わし、人払いを済ませ、軽くお茶とお菓子に口を付ける。


 相変わらず美味しいな。


 今日は、僕が呼び出したので、お茶菓子はこちらで用意していたのに、ヒールは知らぬうちに手を回して、準備を進めてくれたらしい。


 こういった彼女の気遣いは、本当に嬉しく思うし、何故彼女を疑わなければいけないのだろうとも思うけど。


 彼女といるためにも、僕は彼女を知るべきなのだろう。


『ねぇ、ヒール。君はアリル嬢の事をどう思っているのかな?』

『アリル様ですか?』

『うん。君の家にいた時の事も含めて、アリル・ディアネル嬢の事をどう思っているのかと思って。』


 ヒールにとってのアリル嬢のことは、ほとんどわかっていない。アリル嬢がディアネル家に移るにあたり、経緯や事情は聞いていたが、ヒールがその事をどのように思ったかは、知らないのだ。一使用人でしかなかったのか、それとも親しく大切な同年代の友だったのか。


 ヒールは少し考えた後、優しい笑顔で答えてくれた。

 僕はその顔を久しぶりに見た気がした。


『聡明な方ですわ。それに努力家で頑張り屋ですの。そして、人懐っこくて愛らしい方だと思いますわよ。』

『えらく、べた褒めだね。』

『私の侍女を何年も勤めてきたのだもの。当たり前ですわ。』


 思っていたよりも、アリル嬢の評価は高かった。アリル嬢とは、現在ほとんどの接触を絶っていたが、この前のダンスパーティで、その片鱗は確かに見えていたのかもしれない。あの日の最後。ヒールとアリル嬢は何かしらの会話をしていた。

 アリル嬢のネックレスには何か意味があったのか、大切な物であると語ったアリル嬢の言葉には、嘘偽りなんてなかったように思うけど。

 そこが間違いなのだろうか?マブルには、人の言葉をそのまま信じすぎだと、良く注意されるし。


 ヒールにとって大切な人であるのなら、ディアネル家との連絡役に置くには、丁度良い人物だったようにも思えてくる。

 ここの関係は、やはり注意が必要なのかもしれないと思いつつ、別のことに思考が移った。


 ヒールがアリル嬢を疎ましく思い、彼女を虐めているだなんて、噂とは、本当に当てにならないな。

 けれど、それなら、その噂の出所はなんなのか、ヒールからの見解も聞きたくなった。遠回しに聞くにしても何が良いか。


『そんな彼女を殺したいと思った事はあるかな?』


 なんて酷い質問だと、自分ながらに思ってしまった。あまり間を置かずに、質問を続けようと思ったが、それにしたって、もっと良い質問があったのではないかと思う。

 確かにこの質問でも、彼女なら直ぐに噂についてのことだと思い、どの辺りの派閥の貴族が中心に、噂を流しているか見解を答えるとは、思いもするが、それにしても、と我ながらに思っていた。


 けれど、僕のこの質問は思った以上に、意味があったのかもしれない。

 瞬きをしていれば、取りこぼしていたかもしれないような、本当に微かな時間ではあったが、明らかにヒールの中に動揺の色が見えた。


『そんな事はありませんわ。私にとってのアリル様は、マリネ同様大切な方の一人です。ただ、彼女が間違っていたり、足りない部分があるのなら、注意したり、正してあげたくは思いますね。今の私では機会はあまりありませんが。』


 ほら、答えとしての不十分さを感じる答えだった。噂についての弁解をするのなら、君なら噂についての中身に言及するだろう。けれど、君は、アリルに対しての言い訳を語ったのだ。

 意図がなんであれ、ミスではあるはずだ。

 ただ、違和感も感じる。ミスという存在事態彼女には似合わないはずだ。けれど、そんな彼女が起こしたみすならば、何かしらの見落としがあるのかもしれない。


『そうだね。少し、嫌な聞き方をしたかな。君を疑っているわけではないんだ。』

 疑ってもいるけれど、信じたいと思う自分もいる。でもその心は、壊される。


『平気ですわ。先ほどの質問では、少し突飛すぎますもの。それに、もしギル様がアリル様のことが気になるのなら、私は以前話したように、ギル様から身を引く覚悟は出来ています。』


 とりあえず、ここは流しておこう。アリルがヒールにとって大切である事は、わかったのだ。そして、その上で、僕はもっと気になる言葉をかけられてしまったから。


 ヒールはヒールのお母様を亡くしてから、その言葉を使うようになった。

 婚約者でなくなっても良いと、そう口に出すようになっていた。

 ヒールに対しては、昔から色んな事を考えさせられて、悩まされてきたけれど、その言葉を初めて聞いた時は、ただただ困惑した。困惑して、聞き流す事しか出来なかった。


 この時から、僕は口に出せずにいたが、思っていた事がある。もっと早くに言葉に出してしまえば、こんなにも悩まされることはなかったのかもしれないと思いつつ、今日こそは聞くことに決めた。


『ねぇ、ヒール。今ここには、僕達二人だけだ。だから、遠慮なく答えて欲しいことがあるんだ。』


 簡単な前振りをしながら、呼吸を整える。


『なんでしょうか?』

『君には今、好きな人がいるのだろうか?』


 僕は気にして詮索しながらも、聞けずにいた事を初めて口にした。もう、これを口にしなければいけない所まで来ていたから。

 ずっとモヤモヤしていたこの想いを、やっとの思いで吐き出したというのに、彼女は何の気なしに答えるのだ。


『いえ、特にいませんわ。』


 じゃあ何故、君は僕に婚約を破棄されても構わないなんて言うんだ。僕では、そんなに不満なんだろうか?

 いや、不満なんだろうな。それは僕にも自覚はある。

 昔、彼女は僕に好きな所を良い合おうと提案してきた事があった。最初は、あまり何も考えず、答える事が出来ていた。でも、それは恋愛としては、まだまだ子供だった。もっと良い褒め方や伝えるべき事があった。

 けれど、その時はまだ仕方なくも思う。問題は、だんだんと彼女が女性らしく変化していった時だ。昔から、美しい女性だと思っていたが、色んな女性に合わされていたから、あまり容姿を気にした事はなかった。だが、成長をすればするほど、身体にメリハリが付き、妖艶さの増す彼女に、それをそのまま言葉にするには、僕には言葉が足らず、そして勇気がなかった。


 その気持ちを、疑いの気持ちがあるからこそ、表に出さないように気をつけているつもりだったが、今思うなら、油断させるためにも、ましてや、裏切るには惜しいと思ってもらえるようにする為にも、僕はもっと自分の気持ちとヒールに向き合うべきだったのだろう。


 だからこそ、不安の埋まらぬ彼女が別の誰かに想いを寄せてしまったのなら、仕方なくも思っていた。それが事実なら、僕こそがヒールから手を引くべきなのだと思う事も出来た。


 けれど、彼女は何の憂いもなく、否定の言葉を吐いたのだ。僕自身という存在は、一切の関係もないように。


 僕の元を円満に離れたいと思うなら、今でも隠している彼女の心の何かにも説明がつく気はする。アリル嬢に対して、一瞬心を揺らしたのも、想い人が不運にも重なったのかもしれないと想像が出来た。


 でも、それらは全て僕の妄想であったと、今の会話でわかってしまった。


 やはり、彼女は僕やこの王国にとっての、敵対者に他ならないのかもしれない。


 もう、僕は僕の手の内を彼女に全て明かすしかないのかもしれない。


『ねぇ、ヒール。僕に何か言いたい事とかないのかな?悩みとかなんでも良いけど。』


 もう、ほとんど、無意味だとわかっていても、最後の抵抗をしてしまう。こんな簡単な質問で答えてくれるなら、そんな事もっと早くに相談してくれているに決まっているのに。


『政策について、などの事でしょうか?』

 ほら、彼女にも意図なんて何も伝わっていない。

『いや、そういうのではなく、もっと、個人的な事だ。』

『気になった文献があって、ギル様の解釈を聞きたいものならありますが。』


 ここまで、惚けるなら、本当に何も無いのかもしれないと思いたいが、それだけは有り得ないはずだ。何かしら、何かしらとしか分からないが、必ず何かを隠している。それだけは、これまで一緒にいた時の長さと、僕が彼女を見てきた時間を考えれば、それだけは断言出来るのだ。

 それが何かもわからずに、相談すらもして貰えない、僕ではあるのだけど。


『違う、そういうのではないんだ。もっと、別の事なんだ。』

『別ですか?』


 僕の言葉にヒールは、悩み始めてしまった。思考が早く直ぐに解答を出すことのできるヒールにしては珍しい行動だ。

 これが惚けているだけなのか、それとももっと彼女にとって、個人的な事なのか。僕には何も分からない。


『ヒール。よく、聞いて欲しい。今、この部屋は人払いがされている。けど、僕が呼べばすぐに人はくるし、逆に外からの侵入者は一切許さないようになっている。』

『王宮ですもの。正しい判断だと思いますわ。』


 当たり前と言いたげに、ヒールは頷いてくれた。

 僕は本当に狡い人間だ。最低な人間だ。彼女が敵対者なら、この行動に何ら間違いはない。いや、同情して一種のチャンスを与えているとも言える。また、甘いと怒られるような事かもしれない。


 だがしかし、彼女が本当に、ただただ、個人的な隠し事をしていて、僕が信頼に足らず、聞く事も出来ていないだけで、それなのに、権力に任せて彼女の秘密を暴くような真似をしているのなら、僕は何て最低な人間なのだろう。最終的に、僕を彼女が拒絶する事になるのかもしれない。

 今はまだ友人としての関係は、残っているようにも思う。触れなければ、婚約者としても、彼女は全うしてくれるかもしれない。

 だが、今回の結果で彼女から、僕自身を拒絶されるような結果が生まれるなら、僕はそれを甘んじて受け入れよう。全ての責任は僕が受け止める。だから、どうか、答えて欲しい。


『僕が今日君に聞きたかったのは、君に関してなんだ。僕は今、君に対してディアネル領の人間と手を組んで、国家反逆を企んでいるのではないかと、疑っている。

 でも、それは君から何らかの違和感のような、君の本音が何も見えない僕の、幻想にも思えるんだ。

 君の本当の気持ちを聞きたい。今、君が言った言葉がどんなものだとしても、無礼だと切り捨てるような事はないと誓うから。』


 ヒールは、表情をほとんど変えなかったが、小さな間の後に、一瞬笑みをこぼしたように見えた。だが、その笑みは乾いたもののようにも感じた。その後、表情が綺麗に作られて行くまでに、大した時間なんてなかった。

 優雅に大胆で、博識な女性らしく、余裕を持って、彼女の気品を引き立たせるように、堂々とした笑顔を作り上げた。


『ギル様。ギル様の考えはよくわかりましたわ。御忠告ありがとうございます。けれど、ギル様の言うような、悩みも相談も特にはありませんわ。私が疑わしいのなら、私を見ていれば良いのですわ。それで答えを見つけてください。』


 淡々と彼女は、そう語った。何もないと、今の話の流れの中で。もう僕が、何もないでは、後戻り出来ない所まで、彼女に対し宣戦布告のようなものをしてしまったというのに、それをわからない彼女ではないはずなのに。彼女は何も無いと語ったのだ。

 あの一瞬見せた笑みは、全てを悟り、諦めから来たものなのか。

 最後の堂々とした、彼女らしいこの笑みは、それでもなお、僕に勝てるとでも、言いたいのか。今から、刑を完全に言い渡すまでには、確かに準備は必要だ。それまでに、僕を出し抜くのか、それともいくら見ても証拠など何も無いと言いたいのか。

 それとも。。。


 僕に語るくらいなら、死を選ぶと。何の証拠出ず、引き返す事もできぬまま、僕に冤罪を作り上げてしまったと、これから一生苛まれろと、恨みのこもった笑みを見せたのか、何もわからない。結局、ここまで来ても僕は彼女の本質に触れる事も出来なかった。


 もう、僕にできる事は一つとなってしまった。彼女を出来る所まで追い込むしか出来なくなってしまった。この後は、出来るだけ早く、けれど、誰にも悟られないように、彼女を捕らえる為の、準備を始める必要がある。


 僕は弱く、そして狡い人間だ。人の考えなんて読めなくて、上手い交渉の仕方も、他人の裏を読む事も出来ない。だから、僕は敵対者に対し、残酷な選択しかさせる事が出来ないのだ。

 ましてや、権力のままに冤罪を作ってしまうかもしれない。

 ヒールに並ぶ為に、出来る限りの努力をしてきたつもりだが、それでも全く及ぼないのだ。それでも僕は皇子であり、次期国王とならなければいけない。

 もっと、努力しよう。もっと成長しよう。何にしたって彼女は失う。彼女に頼る事は出来ないのだ。

 僕は何て弱いのだろう。


 その日のお茶会は、そのままほとんどの会話がないままに、そこでお開きとなった。




天気の子すごい面白かったです。

ここに書くような事ではないと思いますけど、とりあえず、終わり方がすごい好きでしたとだけ、書かせてください

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