第38話 私を殺してください
三連休だからって、時間オーバーしました
すいません
ダンスパーティから数日が経ち、アリルのネックレスの加工の手配が終わった頃、ギル様から呼び出しを受けた。
最近は、ギル様と二人でするお茶会の度に、次の予定を2、3週間後に立てて、それ以外の時は、あまり時間なんて取っていなかった。お互いに忙しいし、学園にはイベント毎もある、仕事の話し合いで会うこともある。
顔を合わせていないわけではないので、それで十分だと思っていた。
だからこそ、予定にない呼び出しは珍しい。緊急で政策などの仕事関係の事で話を聞かれる事はあるが、そう言う時は、事前に資料やギル様の見解を文書で届けてくれていた。
今回は、そう言ったものが一切無いようだ。となると、純粋にお茶に招かれたという事になるのだけど。
突然、私とお茶がしたくなった。なんて、甘いものではないだろう。
最近、嫌な噂を耳にした。それの探りではないかと思っている。
ヴィルランク家とディアネル家が手を組んで、反逆を企んでいるのではないかと言うものだ。
ずっと、噂にならないように気をつけていたし、出来る限りの対策はしてきたつもりだった。それでも、噂が出てしまったのは仕方なくも思っている。
なぜならこの噂は、貴族間では一切流れていないのだ。私がアリルとは、ほとんど接触しないように心掛けているのだから、当たり前だ。
じゃあ、どこで噂が発生したのかというと、王宮内でだ。それも、貴族よりも王族派の者達だ。ほとんど、自身の出身地からは距離を置き、王宮で生活し、貴族間の対立でどこの派閥にも属さない者達からだ。
彼らならアリルの事も知っているだろう。だから、そんな噂が立っても仕方なくも思う。そして、ギル様はそれを確かめたいのだろう。
なので、特に警戒する必要もないわね。やましい事なんて、特にないんだもの。聞かれた事に素直に答えるそれだけだろう。
ギル様の元に足を運ぶと、すぐ席に通され、人払いまでされた。
最低限の挨拶を交わし、お茶とお菓子に手を付ける。
さて、ギル様は何を聞いてくるのかしら。
『ねぇ、ヒール。君はアリル嬢の事をどう思っているのかな?』
『アリル様ですか?』
『うん。君の家にいた時の事も含めて、アリル・ディアネル嬢の事をどう思っているのかと思って。』
貴族としてではなく、侍女をしていた時の事まも含めってことかしら?
。。。やっぱり、アリルは凄いわね。ギル様はアリルに興味が出たってことかしら?
『聡明な方ですわ。それに努力家で頑張り屋ですの。そして、人懐っこくて愛らしい方だと思いますわよ。』
『えらく、べた褒めだね。』
『私の侍女を何年も勤めてきたのだもの。当たり前ですわ。』
もう、ギル様を諦める決心はとっくについているのだ。アリルを選びたいのなら、多少の協力はしてもいい。優しくて、努力家な貴方になら任せても良いと思えるもの。
その時は、もう少しだけアリルの教育はさせてもらいたいけど。
『そんな彼女を殺したいと思った事はあるかな?』
ギル様から思いもよらない言葉が出てきた。意味がわからなかった。なぜ、そんな事を突然問われるのか。ギル様が私の考えに気づいたというのだろうか?わけがわからなかった。
だが、そう思ったのも、ほんの一瞬だ。よく考えれば、これは虐めなどによる疑いについての探りなのだろう。
そして、こんなに何も隠さずに聞いてきたのは、それに関して私をあまり疑ってはいなかったからではないだろうか?ここは間違えてはいけないわね。
『そんな事はありませんわ。私にとってのアリル様は、マリネ同様大切な方の一人です。ただ、彼女が間違っていたり、足りない部分があるのなら、注意したり、正してあげたくは思いますね。今の私では機会はあまりありませんが。』
『そうだね。少し、嫌な聞き方をしたかな。君を疑っているわけではないんだ。』
やはり、噂の事だったようだ。
『平気ですわ。先ほどの質問では、少し突飛すぎますもの。それに、もしギル様がアリル様のことが気になるのなら、私は以前話したように、ギル様から身を引く覚悟は出来ています。』
『ねぇ、ヒール。今ここには、僕達二人だけだ。だから、遠慮なく答えて欲しいことがあるんだ。』
少し、真剣さの雰囲気ご変わった気がする。改めて、聞きたいとはなんだろうか?
『なんでしょうか?』
『君には今、好きな人がいるのだろうか?』
ギル様ではなく、別にお慕いする方がいるのかということかしら?
私がギル様の婚約者と分かっていても、私にアプローチ紛いのことをしてくる方はいるし、お世辞か本音かわからないレベルで、私に婚約者がいなければ、口説きたかったなんて言ってくれる方もいる。話の合う方や面白い方はたくさんいた。
けれど、私には今の立場があるのだ。その状態で、別の人を考えるなんて私には出来なかった。それにギル様ほど、優しくて努力家な方はいなかった。私は本来なら、十分に素晴らしい人と一緒にいたのだと思う。
『いえ、特にいませんわ。』
少し、ギル様が気落ちして見えた。私に思い人がいた方が、気兼ねしなかったのかもしれない。
申し訳ないことをしたわね。
けれど、理由がなんであれ、ギル様と婚約破棄なんてしてしまえば、悪評がつくのは当たり前だ。思い人がいたとしても、結ばれるのは難しいだろう。
『ねぇ、ヒール。僕に何か言いたい事とかないのかな?悩みとかなんでも良いけど。』
なんだろう、その質問は。要領を得ないというか、私に対して何を考えているのだろうか?結局のところ、ディアネル家との反逆に関することを、探られてもいない。
『政策について、などの事でしょうか?』
『いや、そういうのではなく、もっと、個人的な事だ。』
個人的?
『気になった文献があって、ギル様の解釈を聞きたいものならありますが。』
『違う、そういうのではないんだ。もっと、別の事なんだ。』
『別ですか?』
ギル様の色々な葛藤が見え隠れしている気がするが、私は今、何をぶつけられているのだろう?
今日のこの場は、もっと別の目的のためだろう。アリルについての疑いや、アリルの事を聞きたかっただけではないだろう。
今、そんなにも言い淀むのは、やはり反逆の可能性についてだとは思うけれど。私から何を引き出したいのだ?
『ヒール。よく、聞いて欲しい。今、この部屋は人払いがされている。けど、僕が呼べばすぐに人はくるし、逆に外からの侵入者は一切許さないようになっている。』
『王宮ですもの。正しい判断だと思いますわ。』
『僕が今日君に聞きたかったのは、君に関してなんだ。僕は今、君に対してディアネル領の人間と手を組んで、国家反逆を企んでいるのではないかと、疑っている。
でも、それは君から何らかの違和感のような、君の本音が何も見えない僕の、幻想にも思えるんだ。
君の本当の気持ちを聞きたい。今、君が言った言葉がどんなものだとしても、無礼だと切り捨てるような事はないと誓うから。』
だから僕に教えて欲しい。と、彼は言った。ギル様の言葉が私に重くのしかかった。
私は何も知らなかったようだ。
ギル様は私の事を良く見ていてくれたらしい。それにギル様に好きな人がいるのなら、身を引くといった私のように、ギル様も私を気にかけてくれていたのだ。だから、私の中にある隠していたものの存在に気づいたのだろう。
今ここで、私に出来る選択は二つだ。
ギル様はもう確実に、私の中に何かしらの隠し事がある事は見抜いているのだろう。
だから、今私がギル様に何も無いと言ってしまえば、反逆を企んでいたと解釈されるしかないのだ。逆に、私の中の想い、人を殺したいのような気持ちを全て言ってしまえば、それで終わりなんだろう。ギル様にも納得のいくような、そんな嘘を作ってしまえば良いのだろうけど。そんなもの、簡単に思いつくはずもない。
そうなると、人を殺したいと、そういうしかないのだ。
気持ちの話でしかないのに、息が詰まったような感覚に陥る。
無理だ。無理に決まっている。人を殺したい、大切な人ほど殺したいんだ。
そう言えというの?その言葉を婚約者である、貴方に言えというの??
貴方に今その感情がなくとも、いずれ私が貴方を愛せば私の心の刃は貴方に向くというのに、貴方はそれを許せるの!?
それとも、それを知ったなら、私を蔑ろにした上で、王妃として飼い殺すとでもいうの?そんな未来の無い話をしろというの??
いや、もっと言うのなら、話したところで、私の未来など、同じなのだ。今、私が謀反を企てている最悪な令嬢であると吊るし上げようと、私の心の中を吐露し、人を殺したいと叫ぼうと、結局の末路なんて同じなのだ。
答えなんてもう、ほとんど絞られているのだ。
残り少ない理性を掻き集めて、なんとか平静を保つ努力をする。
今、残り僅かな命の中で出来る事はなんだろうか。私が目指すべき道はなんなのか。私が私らしくいるために、必要な事は。
壊れそうな感情も、崩壊しそうな頭も、ギリギリの中で繋ぎ止め、その中で見つけた一つの考えに、私は一瞬笑ってしまった。
私が長い間考えていた、私が辿り着きたくないとずっと思っていた未来こそが、唯一の救いなのだと気付いてしまったから。
ギル様は人を殺したいと言っている人間を野放しにして良い立場ではない。
良くて、幽閉。
そうゲームの世界にもあったのだ。そう言えば。アリルの選択次第では、私の幽閉エンドというものも。
そうよ、今ここで私の心を吐露しても、私は結局、この世界から隔離されて飼い殺されるだけなのだ。ならば、私は、私らしく、私の望みのままにこの世界から消えてしまいたい。
あのゲーム内の未来は、私が選び行く、最後の希望だったのだ。
だから、アリルが主人公なのだ。主人公である彼女なら、自然な形を取ることが一つだけ出来るはずだ。
私はやっと全てのかけらを集め終えたらしい。
私が今ここで、ギル様に全てを話してしまい、ギル様によって消されてしまう訳にはいかないのだ。
私は考えをまとめ直し、平静を装うように、ギル様へ穏やかな笑みを浮かべた。
『ギル様。ギル様の考えはよくわかりましたわ。御忠告ありがとうございます。けれど、ギル様の言うような、悩みも相談も特にはありませんわ。私が疑わしいのなら、私を見ていれば良いのですわ。それで答えを見つけてください。』
私はずっと、大切な人を殺したかった。だって、それはその人との思い出をずっと綺麗なまま、永遠に感覚として体に残すことが出来るから。
だが、それは別に殺す側に限った話である必要はないのだ。私は大きな見落としをしていた。いつも彼の記憶の中で、彼が人を殺し私にもその感覚があったから、私は私の中で、私が人を殺す側に立つことしか考えていなかった。
これはあまり思い出さないようにしていたが、彼が死んだ時、その空間はほとんどが無機質で彼が誰によって殺されたかもわからずに、彼はただ一人で死んでいった。
私はそんな死だけは、受け入れたくない。そんな何も残らない終わりを、私は迎えるわけにはいかないのだ。
だから、だから、だから!
ねぇ、アリル。私を殺してください。
題名を、ヒールの選択肢。とかにしようかと思ったんですが、ずっとつけたかった題名だったので、こっちにしてしまいました。ネタバレに近かったかなぁ?




