第35話 出来る事は、可能性のある限り検討するわ
前回のアリル会、書きやすかったなー
北庭園でのお茶会イベントが終わってから、数日後。私は運動場の一角で剣を振るっていた。まだ、早朝の時間ということもあって、人はほとんどいない。騎士志望の学生達の授業が運動系に比重が寄っている日を選んで正解だったようだ。
学園に入ってから、私は自分の事がよくわからなくなっていた。自分自身の行動に自信が持てない。どんなに足掻いても、答えは変わらないようなそんな気がしてしまう。
しかし、そう思ってたとしても足掻かないわけにはいかない。諦めて良い立場でもない事を理解しているから。
だからこそ、憂いを取り払いたくて、私は身体を動かしていた。
『ふぅ。少し鈍っているわね。』
なんとなく呟いた言葉だが、誰かに聞かせるつもりはなかった。
『相変わらず、ヒーラン嬢は綺麗に舞うんだな。』
聞かれてはいなかったが、人がいたみたいだ。
『御機嫌よう。リンゼン様。お褒め頂き光栄ですわ。』
『ヒーラン嬢は身体を動かすのは好まなそうな雰囲気なのに、舞う姿を見るとしっくりくる。不思議な感覚だ。』
『そうでしょうか?リンゼン様ほどではありませんが、身体を動かすのは嫌いではありませんよ。』
『そうか。まぁ、それには納得だな。ゆったりとした動きの中にも緩急があって、剣筋の鋭さは、練習の成果と言われれば納得出来る。』
『ふふ、ありがとうございますわ。』
リンゼン様は、学園でも一目置かれるほど、剣に秀でた方だ。昔から剣技に関しては3人の中でも一番であったけれど、どこへ出しても優れた方で間違いなかったようだ。リンゼン様のお父様も近衛隊長を務めることように、優れた血筋の方なのだろう。
けれども、それだけではない。こうやって、ほとんど人のいない日にも運動場に足を運ぶほど、努力をしている方なのだ。強いに決まっている。
ただ、そこまでの情熱があるのなら、座学にももう少し力を入れて欲しくもなる。集団戦略などは理解出来るのだから、頭が悪いわけではないのだろう。
まぁ、リンゼン様らしいといえばらしいのだけど。
『ところで、ヒーラン嬢少し良いだろうか?』
『?なんでしょうか。』
『女性が貰って嬉しいものとは、なんだろうか?』
『女性がですか?』
まさか、リンゼン様から女性関係の話が聞けるとは思わなかった。リンゼン様はマブルと違い、まだまだ結婚とか考えていなそうだと思っていたのだが、誰が射止めたというのだろう?リンゼン様は奥様の能力次第で、色々と左右されそうなので、知っておきたい情報ではあるな。
『よく夕方頃にな。お菓子をくれる娘がいてな。何度も貰っているから、そろそろ何か返したいんだが、あまり良いものが思いつかなくてな。やはり、花や宝石が良いのだろうか?』
あ、それは。アリルのことということだろうな。
『その方との関係値というのは、どう言ったものなのでしょうか?また、リンゼン様に婚約者がいるとは聞いていませんが、相手方にいるかどうかでも変えた方がよろしいかと。』
『そうか、関係値か。関係性で言うなら、先程言ったように学園で食べ物を貰って一緒に食べながら話す程度だ。婚約者については、向こうにもいないと思う。』
まだまだ、好意を抱いているというほどのものではないが、好感度は着実に上がっているというところだろうな。
流石、アリルね。
と思いつつ、複雑な気持ちになっていく。
浮いた話をあまり耳にした事のなかったリンゼン様でも、アリルの魅力にきちんと吸い込まれているようだ。となると、他の人達もどうかはわからない。ギル様も少しずつ心を奪われているのかしら?
今までギル様に婚約破棄されることへの恐怖心はあまりなく、穏便に済むのならそれで良いとずっと思っていた。思っていたのに、最近では穏便に済むとは思えなくなってきていた。
このままアリルがギル様に心が向かうような事があれば、私は何らかの理由で断罪される事になるのかもしれない。そこに真実が存在しなくとも、ここ最近の事を考えれば、可能性は大いにある。
だとするのなら、私は小さく足掻きたくなった。
アリルが他の人を選んでくれれば良いんだから。
『その方の好みなんかは、わかりますか?』
『いや、あまりそういうのがわからなくてな。だからこそ、ヒーラン嬢に聞いたんだ。』
ふむ、良くも悪くもリンゼン様らしいな。そう思う答えだが、それではダメだ。きちんと誘導をしていこう。
『そういう事でしたら、お菓子のお礼という程ですし、同様に食べ物を贈るのも良いのではありませんか?こちらでは買えない、リンゼン様のご実家の方から取り寄せた果物なんかが最適かと思います。宝石類や花束は、もう少し関係が進んでからの方がよろしいでしょう。』
『ふむ、そういうものか?』
『告白というわけでもないのに、アクセサリー類をあげるのは、私達にはまだ早いようにも思いますわ。リンゼン様はその方がお好きですの?』
『え?いや、それはまだよく分からないな。可愛らしい人だとは思っているが。』
感情はやはり、少しだが奪われているようだ。
だとするなら、やはり焦ってはいけない。きちんと相手を知った上で、自ら選んだ方が心は届くというものだろう。
『なるほど。今はまだ、わからないということですのね。けれど、今後も話す機会はあるようですから、相手の好みを聞くようにしましょう。身につけている物から考えて、その色が好きなのか?とか。どう言った趣味があるのかとか、そう言った事を自分で聞き出すようにするのです。』
『ふむ、なるほどな。』
『宝石商にも色々なタイプがありますし、男性では難しいこともあるかもしれません。またその時、リンゼン様がその方と、どうなりたいと思っているかによっても、贈るべきものは変わるでしょう。そうなったら、また相談にお乗りしますわ。』
『そうか。ヒーラン嬢、その時はまたお願いするとしよう。今回は言われた通り、領地の名産品を取り寄せて贈る事にしよう。』
うん。これで、リンゼン様から直接、進展状況のお話が聞くことが出来る。それに、アリルなら新しい食材を貰えれば喜ぶだろうし、それを使って新しいお菓子を作ることだろう。そうすれば、また、話のタネにもなるだろうし、もっと仲良くなってくれると思うのだ。
それから、少したわいもないお話をして、私は授業前に汗を拭いたいので、そこで別れた。
そして、また数日後の放課後。久しぶりにギル様とお話をした。ギル様のお部屋の一室である、客間に通して貰い、2人きりという状態になった。最近はこんな状態になっても、最近している仕事についてのお話や、お父様達の政策に関するお話しかしていなかった。
婚約者らしい部分としたら、私が茶葉やお菓子類は持ち込んで、ギル様に振る舞っているという部分かしら?仲良しアピールとしては、凄く弱いと思う。
けれど、仕方のないことだろう。仕事に関する話が話題として増えてから、気づいたらそんな話ばかりするようになってしまったのだし。
私もギル様も、友人以上に感情を持っていくことが出来なかったんだから。私達の関係はビジネスパートナーと言ったら、丁度良いものだろう。
ただ私は、婚約者としてはギル様を信用していない部分は確かにあるが、友人や仕事仲間としては、十分に信頼出来る関係が気付けていると思っている。。。思っていた、思っていたのに、私はあのゲームの世界の私が過るのだ。私はどんな理由から、ギル様の標的にされてしまうのだろう。王族が相手だなんて、流石の私でもどうにもならない。それに、相手となるのがギル様なのだ。ギル様は、昔以上に頭の回転が速く機転も利くようになっている。
今まで通り、ギル様らしい甘さは存在するけれど、きちんと敵だと思ったり、国家レベルの危機を感じた時にまで、甘さを与えるほど、隙のある人ではなくなった。
それは多分、私の影響もあることで、そして、喜ばしいことでもあるのだが、ゲームの世界を知っている私としては、素直に喜べる話ではない。
私は、ギル様からどんな不興を買ってしまうのだろうか?それは本当に私がいけないのか。それとも、ギル様が浅はかなのか。何処に理由があるのかは、分からないが。答えのない恐怖だけが、私に向かってやってくる。
そんなことを感じつつも、いつも通り、国の政策についての話をしていたのだが、一度休憩を挟んだ後、ギル様が変わった話題を出してきた。
『そういえば、アリル嬢の事なんだけど、良いかな?』
『ディアネル令嬢がどうかされたのですか?』
『ああ、入学からそれなりに月日は過ぎたが、未だに友人を作れていないように思う。それ以上に、いじめのようなものを受けているとも聞く。』
『そのようですわね。学園入学までに、ディアネル夫人がディアネル令嬢を社交界で御披露目出来なかった事が大きく思いますわ。ギル様は彼女ともお話したのですよね。彼女のご様子はどうでしたか?』
『アリル嬢も覚悟の上だったようで、気にしてはいないみたいだったが、今の状態はあまり良いとは思えない。』
『そうですわね。ディアネル令嬢が元平民と思った上でのあの対応は、貴族として正しい振る舞いとは思えませんもの。』
『だけど、君の派閥からも、嫌な噂を耳にするよ。』
『それについては、申し訳ありませんわ。』
『ということは、君の派閥の中にも関与している人はいるんだね。』
『ええ。私からも注意はしているのですが、私を想っての行動でもあるのです。ギル様を取られているように見えるようで。』
『なるほどね。僕も少しは自重した方が良いってところかな?』
『それは、、、ギル様は皇子として、気にかけているのであって、そこから邪推するもの達がいけないのでしょう。ギル様はギル様の思うように動くべきだと思います。』
一瞬、それでギル様とアリルがこれ以上仲良くならないなら、そうして欲しいとも思ったが、私の言葉一つで変わるとは思えない。出来る限り減らすように動いてもらっても、偶然再会する事が多くなるだけだろう。
『ねぇ、ヒール。君はなんとも思わないの。僕が本当に彼女に心を惹かれていたら、君はどうする?』
この質問は、まだ、心を惹かれているわけではないということだろうか?心惹かれている時に、私に対して聞く質問としては、あまりにも突飛すぎるだろう。
私は疑問に思いつつも、今まで通りに答えた。
『その時は、前にもお伝えした通り、私はフェルナンド王国の家臣として身を引かせていただきますわ。覚悟はいつでも出来ていますもの。ですが、その後の事を考えれば大変な思いをするのは、わかります。ですので、そのような感情が芽生え始めた時は、遠慮せずご相談くださると幸いです。友人として私もお力になりますわ。』
私は、今私が出来る配慮を込めて、ギル様に提案した。ギル様から、アリルに対する気持ちをお聞きできれば、今後の立ち回りもしやすいし、私に婚約破棄を申し渡し、ヒーラン・ヴィルランクというキャラクターを破滅させるのは、ギル様になるのだ。そのはずならば、ギル様から敵対視さえされなければ、私は最低でもヴィルランク領地で静かに暮らす事が出来るようになるはずなのだ。
今のところ何一つ、未来を変えられているような気はしないのだが、最後のたった一つだけでも、変える事が出来れば私はもうそれで良いとも思えるのだ。
私はギル様と別れ、領地で暮らす。マブルの領地経営を手伝いながらひっそりと暮らすのだ。
その時、私は手のひらにあの感覚を思い出した。彼が人を殺した時の感覚を。
貴族としての第一線を退く事が出来たとしたら、私は私の感情に従うことも出来るのかもしれない。規律を作る、貴族という立場だからこそ、私はその規律を自ら破るなんて事はしなかったけれど、その立場すら無くしてしまえば、私はもう少し私の欲望に従っても良いのかもしれない。
お父様やお祖父様。私の本当にしたかった事をさせてはくれないかしら?私はもうそれで十分だから。唯一の願いだから。
そんなことを考えたら、心の沈みも少し軽くなった気がした。ギル様と穏便にお別れする事。それさえ出来れば、全てが作り話で埋められた断罪式だとしても、私は受け入れる事が出来る。
そんな風に思う事が出来たからこそ、私はギル様に笑いかける事が出来た。
そんな私を見てギル様も笑った。ただ、少しぎこちなくも感じた。
『ヒール。君の意見はよくわかったよ。もしもの時は、色々と話そうね。』
『はい。』
ギル様会にするか迷ってた結果、入れる予定のなかった会が今回入りました。
今週書こうかと思っていた話を来週書いたら、次の週でギル様会かな?
とりあえず、なんか中途半端かもしれません。すいません。
物語の引き、と、中途半端の違いって難しいです




