第36話 ダンスパーティーとネックレス
今週は、深夜にならなかった。書きやすかったー
ギル様と私は2人きりになると、ぎこちない。昔はなんともなく仲良く出来ていたはずなのに。これが主人公の力ってやつかしら?不思議な魅力を持つ人が1人でもいたら、周りの人間関係は、簡単に変わってしまう事だってあるのだ。今までの私たちに人1人新しく加わったのだ。それだけで、全員の関係に多少の変化があるのは、至って普通の事だ。
でも、変わらない所もある。
『じゃあ、行こうか。ヒール。』
『はい、ギル様。』
私はギル様に寄り添うようにしながら、足を踏み出した。一つ扉を潜ってしまえば、大きなダンスホールが目に入り、階下にはたくさんの生徒達が見える。そこからたくさんの視線が向けられた。その視線は、羨望や嫉妬、様々なものが入り混じっているのだろう。けれど、私はそんなもの気にせずに堂々とした姿でギル様について降りて行く。
降りきったところで、心配そうにギル様が私の顔を覗き込んでくれるので、私はそれに微笑みで返す。こうやって、人前でなら私たちは綺麗に笑いあうことが出来た。
今日は学園のダンスパーティー。学園にある一番大きなホールを使って開催されている。私たちはギル様が皇子様という事もあり、少し遅れて登場させられた。身分が高い人をその場で待たせる訳にはいかないので、ルールに沿っているだけなのだが、そんな方にエスコートされる私は例外に値し結果として、私への視線は凄いことになる。
学園には他にも公爵家の人はいるんだもの。
けれど、今日は学園のパーティだ。練習という名目だからこそ、男性陣は色んな方をダンスに誘わなければいけない。関わりが薄くても、私に凄い嫉妬の視線を向けていた人達の多くも、ギル様にエスコートしてもらえる機会はあるだろう。それで、私のことは忘れて欲しい。
まぁ、そうなると私にもたくさんの申し込みが来ることになりそうで、体力の調整を間違えないようにしないと。
そして、今日のアリルについてだけど、ピンクの可愛らしいドレスが凄く似合っている。衣装は、私のドレスを選んでいたときから、センスは十分と思っていたので、凄く良かった。しかし、アクセサリーに関しては、なんとも言えない。可愛らしい小さめのダイヤを散りばめたネックレスと、中心で一度まとめ銀鎖が胸元まで伸びて先端が服に隠れてしまっている、二つのネックレスを身につけていた。綺麗にまとまっているので、悪くはないが、ディアネル伯爵家なら、もっと良いものもあっただろうと思ってしまう。
まぁ、理由は知っているのだけど。
私としては、ダンスイベントはルートが順調に進んでいるかの指標みたいなものだと思うのよね。上手く物語が進んだ場合、ギル様とはダンスを二回踊ることになるはず。1度目はダンスホールで。ただ、様々な視線を向けられるため、少しアリルの動きがぎこちなくなってしまい、最後、少しよろめいてしまう。その時に、微妙だったアクセサリーの先が見えるのだ。アリルはサッと、アクセサリーを隠してその場を離れてしまい、感じ悪いなどの陰口を叩かれながら、イベントは終了する。
けれど、ギル様との好感度が高いと、この後にホールすぐの中庭でもう一度ギル様に会うことが出来る。そこで、アクセサリーについて話しながら、ゆったりと2人で踊るのだ。
そんな楽しげな一時を楽しんだ後、私の出番がやってくる。
アリルのアクセサリーは、母親の形見だ。伯爵領で手に入れた、数少ない母親の物を、味方の少ない学園でも自分を奮い立たせることが出来るように肌身離さず持ち歩いているのだ。使用人であった、母の物のため、高いものではないとわかった上で。
そして、そのネックレスが大事なものだと気づいた私が、彼女の首からそのネックレスを取り除くのだ。
『ギル様の隣にいるものが、こんなものを付けていてはいけないわ。』と。
私は、ギル様とアリルが中庭で踊っていたことを見ていたようで、そのことを怒り、彼女のネックレスを茂みに捨ててしまうのだ。
アリルは、なんでこんな事をするんですか。と聞くと、私は答えるのだ。
『貴女も私の大事な物を奪ったじゃない。』
アリルに罪の意識をぶつける、我ながら酷い言い方よね。アリルがギル様に心惹かれているのは、事実かもしれないけれど、近づいているのは、ギル様だっていうのに。この後、ギル様が現れて、2人が揉めていたのか、聞くのだけど、アリルは答えられず、ゲーム内の私もはぐらかすだけだった。
まぁ、これが物語上の今日のお話だ。出来れば、そんな状態にはなりたくないが、母親の形見だとしても、身につけていることには、注意したいし、大事な物だからこそ、隠れて着けるのよりも、きちんと管理するべきだと伝えたい。ゲームの私みたいな人が現れて、失くしてしまう方が辛いのだから。
なので、今日こそは大丈夫よね。出来る限り、アリルとは合わないようにするけれど、もし出会ってしまっても、私がするのは注意だ。形見のネックレスを奪ったりはしない。
そんなことを考えながら、ダンスパーティーは始まった。最初にギル様と二回ほど連続で踊った後は、マブルやリンゼン様とも踊り、その後は、声をかけられた人に応対しつつ、体力を考えながら、人を選んでダンスを続けた。
アリルもリンゼン様やマブル、マーダント様とも踊っていた。後は、ちらほらと声をかけられて踊ったり隅にいたり、休憩室の方に消えていたりといった感じだ。保健医のアクター様はここにはいないみたいなので、アクター様だとイベントの雰囲気が少し変わるのかしら?限られた情報しか持たない、私ではよくわからない。
とりあえず、ちょくちょくホールを抜け出しているみたいなので、その時にイベントが進んでいるのではないかと思っている。
そして、いくらか時間が経ったころ、ギル様と踊っているところが目に入った。2人の様子を観察したくて、上手いこと相手を誘導して2人の方に近づいた。あまりダンス中に余所見するのは良くないが、相手の視線も私の胸元にばかり向いているのだから、バレはしないだろう。2人を観察してみて思ったが、アリルはあまり緊張しているようには見えなかった。ただ、最終的に足はもつれたようで、少しバランスを崩したところを、ギル様に支えられていた。私からは他の人が丁度被ってしまい、ネックレスをきちんと見ることは出来なかった。けれど、周りのざわつきからも形見の石が見えてしまったのだろう。
しかしそうなると、物語は順調に進んでいるといえる。
気まずそうに笑いながら、アリルはホールを出て行ってしまった。
この後、私がパーティの終わりまで、踊り続けてしまえば、アリルと会うことも、アリルとギル様のダンスを目撃する事もないのだろうと思い、踊り続けていた。剣の稽古などでそれなりに体力には自信があったが、それでもこれ以上無理をすれば醜態を晒すと思った私は、途中でホールを抜け出した。
夜風でも浴びたいなと思った、私は疲労で思考力が下がっていたのだろう。二階にあるロッジから外を見ると、ギル様とアリルが踊っているところが目に映った。
しっかりと物語が進んでしまっているんだな。と思いつつも、だとするなら、ギル様は私にきちんと相談してくれるかなと不安も感じていた。物語ぎ進む事も、ギル様が私以外を好きになるのも仕方ない。けれど、私への扱いは扱いだけは、物語上の演出でないと困るのだ。殺されるのも幽閉されるのもごめんだ。王妃の座なんて要らないから好きに生きさせて欲しい。
それが今の私の気持ちだ。
そう思いながら、ぼんやりと2人を少しだけ眺めた後、私はその場を後にした。
そして、休憩室でマリネにお茶を淹れて貰いしばらくした後に、私はホールに戻ろうと部屋を出た。
その途中の廊下で、私はアリルに出くわした。運命から逃れることは出来ないようだ。
仕方ないと思いつつ、私はアリルに挨拶をした。
アリルも返事を返してくれたところで、私はアリルのネックレスに視線を向けた。そこで、始めて気がついた。さっきまでギル様と踊っていたのかは、わからないがネックレスの先がまた、服の下から上に出てきてしまっていた。
『貴女、それ。。。』
『あ、すいません。ヒーラン様。出しっぱなしになってたみたいです。』
出てたのも、問題だが、それ以上に問題なことがある。
『なんで、そんな物をつけているのよ?』
『ヒーラン様からいただいた、これを着けていると、心が安心するんです。貴族になってから、色々と大変な事もありましたが、これを見ると、まだまだ頑張ろうと思えるのです。ヒーラン様のように。』
アリルが付けていたのは、私が昔あげたターコイズのネックレスだった。ディアネル領にも、ましてや学園にまで持って行っているなんて知らなかった。そこに付けているのは、母親の形見だと思っていたから。
嬉しいという気持ちと一緒に、後悔の念が押し寄せる。
休憩室やダンスホールでも、小さくだが、アリルへの嫌味はまた増えていた。そして、ネックレスの所為で、やはり元平民であったんだと確信付いたようなことを言っている人も増えていた。それが私があげたものの所為だったなんて。
私がアレをあげていなければ、アリルは形見のネックレスを着けていたのかしら?それとも、今日に正しいネックレスを選ぶことが出来た?
わからない。正解があったのかなんて、わからない。わからないけれど、私がアリルに貴族として相応しくない対応をさせるきっかけを作ったことには変わりはなかった。
アリルに対して、凄く申し訳なくて、けれど、少しの怒りを感じた。大事だと思ってくれたのなら、それこそこんな所に着けてきて欲しくなかったと。
いろんな感情で心がないまぜになりながら、様々な思いが駆け巡ったけれど、それでも嬉しいという感情は、やはり強かった。
今でも、アリルにとっては、私とのことを大事に思ってくれていることを理解できたから。
そのネックレスの鎖を使って、アリルの息の根を止めてしまいたくなった。私とアリル、2人が同意して、上手く力を合わせなければ、アリルの息の根を止めるよりも先に、ネックレスの方が簡単に壊れてしまいそうだけど。私たち2人ならそんな事も乗り越えて、私は貴女と最後のひと時を、永遠に残してあげられると思ったから。
私はアリルの前に手を差し出した。
『ヒーラン様?』
今ならまだ、アリルと共に全てを終わらすことが出来る。物語からも外れる事が出来る。そう思った。思ったけれど、それが出来ないのが、結局のところ私なのだ。
『ダメよ。今の貴女がこんな物を着けていてはいけないわ。』
『そ、それはそうかもしれませんが、この手は一体?』
『私が預かっていてあげるわ。貴女に相応しいものになる、その時まで。』
『そ、それは。。。』
『なに?何か不服があるのかしら?私としては、貴女がこれを持っていてくれた事は嬉しいのよ。』
『お嬢様。』
嬉しそうに微笑んだ、アリルに私も笑みを返しつつ、その上でもう一度、手を差し出した。
『でも、今の貴女にこれは、相応しくないの。だからこそ、私に預けておきなさい。』
アリルは下を向きながら、少し悩んだ素振りを見せた。その上で私に顔を上げた。それはまた、何か新しく決断したような顔だった。アリルは私にネックレスを渡しながら、口を開いた。
『わかりました。ヒーラン様。もしも、私がヒーラン様も認めるような貴族の女性になれたなら、その時そのネックレスを返してはいただけませんか?』
え?あれ、ネックレス自体は、もっと貴族らしいデザインに加工し直したら、すぐ返そうと思っていたのに、何か条件が加わってしまった。
でも、そうね。ならば、私の道をきちんと指し示しては、くれないかしら。
『わかりましたわ。アリル様。けれど、私達は仲良くは出来ないとお伝えしたでしょう?』
『あ、そうでしたね。』
『ですが、それは貴女がディアネル伯爵令嬢だから、とも言えますの。貴女が他に嫁ぐ事があるようなら、その関係は少しは変えられると思いますわ。』
『そうなのですか?なら、私今。。。』
『どうした?2人とも。何か揉めているのか?』
アリルが何か言いかけたところで、流れ通りに、ギル様がやってきた。私はネックレスを暗器と同様に袖口にしまいつつ、首を振って答える。
『なんでもないですわ。ねぇ、アリル様。』
『はい。』
『……そうか。ならいいけど、もうすぐパーティも終わるだろうから、二人とも早く会場に戻るようにね。』
『御忠告、ありがとうございます。ギル様。』
『皇子様、ありがとうございます。』
そうして、私たちは少し距離を取りつつ、ホールに戻った。
その日は、それで終わったのだけど、よくよく結果だけを見ると、アリルの元からネックレスがなくなってしまった事は、事実だった。
けれど、今回のことは、今までとははっきりと違う。当事者同士が納得した受け渡しであったはずだ。
だが、それでも、残酷な運命の輪は、あの物語のように大きく改変されてしまうのだろうか?
悪手だったとは思わない。ああしなければ、アリルはその後もこれを使い続けるに決まっていた。それがアリルにとってマイナスになることなんて、誰が聞いても分かることなのだ。その上で、ゲーム上の私のような人が現れて、本当に捨てられてしまえば、もうどうにもならないのだ。
そうなる前に回収したことは、間違いではないだろう。
私の立場から考えたら、間違えだった可能性は大いに高いけど、あの場には私とアリル以外に人もいなかったし、物語は動き続けているのだ。今更どうにもならない事柄なのだろう。
ならば、私は今、私が出来ることを頑張るしかないのだろう。
無尽蔵に膨らみ続ける不安を押しつぶして、別のことを考えよう。
このターコイズの石を使って、ディアネル伯爵令嬢に似合うネックレスに作り直して貰わないと。
私がアリルとの約束を果たせる可能性は、低いのかもしれないけれど、それでもこれだけは、彼女に届くようにしておこう。
私は思考を止める為に、デザイン案を作ることに没頭する事にした。
前回のなしで今回のでよかったんかなー、うーむ、その辺はラストの方を書く自分次第ですよね




