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第31話 私が私であるのだから、それで良い

思ってたより、長くなってしまった。

いつも頑張って読んでくださってありがとうございます

学園に入学して一月弱。予定通り、アリルとは一切の関わりがない。クラスも違うため、顔もあまり見れていない。けれど、私が彼女についての情報を得るのは、そこまで難しい話でもない。

学園に連れて来ている使用人は、マリネとマリネの彼氏である料理人のレインの二人だけだ。人数が必要なときは、学園に頼めば準備してくれるので、なんとかなっている。

本来は、侍女のマリネだけなのだが、私の場合公爵令嬢という事もあり、学園内でお茶会のようなものを、生徒間で行うとなると、主催を務める数も多くなってくる。また、私の考えたお菓子のレシピは、ギル様が気に入っていることもあり、貴族の多くに知れている。その結果、お菓子を作れる料理人を連れて行けることになり、レインも学園に来ることになったのだった。

私が授業とかでいないときは、2人で楽しくしてればいいと思うので、マリネへの申し訳無さは、だいぶ薄まった。多くはないけど、学園と公爵邸に分かれるよりは、会う事も出来るだろう。

よって、表向きはこの2人だけなのだ。けれど、貴族社会にいる限り、情報というものは大事だ。2人とは別で、情報を集めてくれる人達はたくさんいる。

その中には、私とアリルの関係を知っているものも当然いるのだから、集めてもらおうと思えば簡単に手に入るのだ。


そして、その情報からすると、やはりアリルは貴族社会に上手く馴染めていないようだ。

周りのほとんどの人から見たら、アリルは突然現れた人なのだから仕方がないだろう。最初はとりあえず距離を置かれていたようだが、少しずつ、元平民ではないかという、噂が立つようになって来ていた。


アリルの雰囲気は、ディアネル領できちんとした教育を受けたことが伺えるくらい、立派なものだ。2ヶ月弱にしては、アリルの努力が伺えるレベルにはなっているようだ。けれど、それが付け焼き刃である事に変わりはないようだ。

立ち振る舞いなどに問題がなくても、思考に問題があるようで、マナーが足りていないときがたまに見られるようだ。平民での当たり前と、貴族での当たり前の違いを理解していても、今までの習慣を完全に抜くには、やはり時間が足りなすぎたのだろう。


今は噂だが、それがエスカレートしていったらどうなるか?それは簡単に想像がついた。

ゲームの世界の私が行っていたような、いじめに変化していくのだろう。けれど、今は噂なのだ。これが噂である限りは、私に出来ることなんてない。

噂でなくなった時に、どうするか。それが私にある選択だろう。


このように、アリルは上手く行っていない。けれど、情報を精査して考えてみると、物語は順調に進んでいるように見えた。


私は、彼がプレイしたギル様ルートしか知らない。よって、他のルートを知る方法はないが、彼は一度でクリアしたわけじゃないし、物語の序盤は、全キャラ共通と言えるだろう。

よって、他のキャラとの出会いのシーンについて、情報を集める事が出来た。


まず、今までいた3人の攻略対象に加えて、残り2人の攻略キャラもきちんと存在したことは、確認が出来た。1人がアリルのクラスの担任であるマーダント様だ。子爵家の三男であるため、爵位などを継ぐ可能性は低いが、学園の教師に選ばれるだけあって、能力は充分に優秀で、将来的には、自力で爵位を取れるのではないかと言われている。また、男としても、大人の男性らしさが魅力的な人だ。彼は、ディアネル家と関係があるため、貴族としての相談を受けるように、言われているようだ。ここの出会いは、放課後の教室で簡単に行われていた。

事情を聞いていることを伝え、困ったら相談するように、という凄くシンプルなものだ。

この情報から考えると、2人の筋書きは保護者的な目を持つ人に、いかに恋愛感情を抱かせるかってところかしら?


次に、保健医であるレクター様だ。こちらは伯爵家の次男で爵位は一つ下がるが、子爵を貰い受ける予定らしい。学園の保健医として生活しつつ、医学に関する研究も多く行っているため、優秀ではあるのだが、その研究内容に一部狂気を感じる事がある。私も医療計画を進める中、彼の論文を見たこともあるが、興味深い内容が多く、そして成果も定期的に挙げていた記憶がある。なので、彼の文献はほとんど読んだが、たまに凄く狂気的な論文が入り混じるのが残念なところだ。アリルと彼の出会いはそのまま保健室。イジメとか関係なく、足を滑らせたアリルが、怪我をしたことで一人で保健室を訪れたようだ。

致命的なミスはしないのに、気を抜くとなんでもないようなところで、転んでしまうのは、今も変わらないようだ。アリルには悪いけど、懐かしくなって、少し頰が緩んだのがわかった。

気をそらす為に彼とのゲーム上の筋書きを考えてみる。いろいろと危険な香りを漂わせている相手との恋模様ってところかしら?レクター様のルートは知らないけれど、私のような敵役が現れるってよりも、心の読みづらいレクター様自身が相手っぽいわよね。


次にリンゼン様。リンゼン様は騎士コースなので、授業も鍛錬が多い。たまたま通りかかった運動場付近で、またもや足を滑らせたアリルを、抱き抱えて助けたのが最初の出会いだ。アリルはひたすら助けてもらった事に、お礼を言いつづけていて、リンゼン様は突然抱き上げてしまったことをひたすら謝っていたらしい。

そういえば、私も同じような事になったことがあった気がするが、そこまで動揺された記憶はない。リンゼン様もそういうお年頃ってことだろうか?

リンゼン様の筋書きは、リンゼン様と仲良くなりつつ、有能であることを示すことかしら?リンゼン様は騎士としての能力はあっても、書類仕事をこなすのは苦手な人だから。それを理解しているリンゼン様のお母様が、頭の無い人を選んで許可するとは思えないのだ。まぁ、私の侍女としていろいろ仕事を任せられるように育ててきたアリルなら余裕でしょうね。


そして、ギル様。学園の東庭園を散策していた時に、たまたま会って、軽く挨拶を交わしたらしい。ギル様はアリルについて、ディアネル伯爵から伺っている。だから、この時にも心優しいギル様は、貴族として困ることや分からないことが有ったら、頼ると良いと伝えたようだ。

ギル様は相変わらず誰にでも優しさを持っている。王家に対し、完全に敵意を向けない限り、彼は皇子として皆に心を配るんだろう。

今までそれで誰かに、心を奪われることなんてなかったけれど、アリルにだけは奪われてしまうのかしら?

まぁ、アリルにだったら仕方ないわね。私の大事な妹分だもの。問題はアリルね。アリルの心が何処にあるかだ。


そこで、最後に大問題となる人物に触れよう。そう私の義弟マブルだ。私がヴィルランク家とディアネル家の関係を考えて、親しくしないようにしているというのに、なんなのマブルは。関係性から考えても、マブルは攻略対象にいてはいけないんじゃ無いかしら?いや、物語だからこそ、ハードルの高い関係性は燃えるのかもしれないが、それは物語なのだ。それに、ゲーム内のマブルから見たら、アリルは突然降って湧いた、ライバル的な領地の娘という事になるので、人として興味が湧くのは理解出来る。けれど、今の貴方達は、いろいろと知っていて、だからこそ避けているはずなのに、何故当たり前のように会話しているのよ!?凄く納得がいかない。というのも、学園の図書館でマブルとアリルは会話をしている。誰が見ているわけでもなかったらしいが、こうやって情報が上がる事もあるのだ。そこはきちんと、初対面のような挨拶を交わしたらしい。けれど、問題はわざわざマブルから声を掛けたということだ。気づかなかった事にして、避ける事も出来たのに、当たり前の様に声をかけたらしい。


私はマブルのその行動に溜息を溢したくなった。別にそれは私もアリルと会話がしたいからとか、そういった理由だけでは無い。


マブルの行動はゲーム内通りだったからだ。ゲーム上のマブルも、アリルとの初回遭遇時、マブルから声を掛けていた。私は何度も彼の夢の中で見ているので、そこに間違いなんかない。そしてそれらは、ゲーム内で最も関係性が違うはずのマブルすらも、例に漏らさず、出会いイベントと同じ方法で出会ってしまったようなのだ。

着実に、ゲームと同じ様に現実が進んでいっているのがわかる。この世界があのゲームの世界と模した物だとわかっていても、私は私として生きているし、周りの人も自分を持って生きている。それなのに何故、ゲームと同じ場面が綺麗に描かれてしまっているのか?

ゲームの中の世界を、なぞられている現実が、私の胸に突き刺さる。この痛みを、マブルに押し付けて、全てを終わらせることで、強制的に終了させたい気持ちで一杯になる。だって、このままなぞるくらいなら、その方が。。。


『ヒーラン様?』

『ヒーラン様?どうかなさったのですか?』

『いえ、なんでもないわ。少し思い出した事があって考えてしまったの。ごめんなさいね。私が招待したというのに。』

『いえ、わかっていますわ。ヒーラン様には、たくさんのお仕事があって、忙しくしている中で、こんな時間を取ってくださっているのですもの。私としては感謝しかありませんわ。』

『ええ、そうですわ。私も凄く感謝していますもの。けれど、少しぐらい気を休める時間を作って頂けると嬉しく思いますわ。ヒーラン様の体調が心配ですもの。』

『ふふ、ありがとう。気をつける様にするわ。』


普段から、人と会話しながら思考を回しても、聞き逃す様なことはなかったのに、言われた通り疲れているのかもしれない。

今日は、私と親しくなりたいという娘達を集めて、お茶会を開いている。前から親しくしている、リースやラーリン、エレブはもちろんのこと、私と親しくしたいけれど、近づき難かった娘達を、せっかく同学年になれたということで誘ってみる事になったのだ。3人の提案で。

公爵令嬢であり、次期王妃となる事にもなっているのだから、深い人脈を多く持つのは、必要な事だ。

それはわかっていたし、そうすべきだとは、私も思ってはいたが、それでもあまり作りたいとは思っていなかった。

ここにはいろいろな思惑を持つ人が沢山集まっている。私の実績に尊敬したもの。私の容姿に憧れを抱いたもの。私の実績に価値を見出したもの。ギルの婚約者という肩書きに近づいてきたもの。本当に様々なはずだ。

それでも、私は上に立つものとして、それらをまとめるだけの力を見せなければいけないのだろう。


だが、それこそが、私にとっては、ゲームの中の私に近づくようで嫌だった。


アリルとの出会いイベントは、悪役令嬢である私にも存在する。それだけは、私の意思で変えられることのはずなのだ。

だからこそ、仲間なんてあまり欲しくなかった。私のアリルとの出会いでは、私が多くの令嬢を従えていたはずだから。


『ヒーラン様は、今でもご実家の医療改革を手伝っていること自体凄いと思うのですが、その発案者であることを聞かされた時は、本当に驚きましたわ。』

『この紅茶の配合もその時に一緒に考えたとかで、本当に美味しいです。いくらでも飲めてしまいますわ。』

『剣舞も出来ると伺っているのですが、今度見せては貰えませんでしょうか?ヒーラン様の舞う姿は、大変華やかでしょうね。』

『ヒーラン様は、本当になんでも出来るのですわね。私は辺境に領地があるため王都にいることが少ないのですが、そんな我が領地にもヒーラン様の噂は聞き及んでおりましたわ。』


お茶会に参加した御令嬢達が凄い勢いで、私を褒めてくれる。誰のどこまでが本心なんだろうか、と思う部分はあるが、それでも、こうして褒められると悪い気はしない。いらないとは思うのだが、捨てられないのだから、ありがたく心地よくなっておいた方が得だろう。


なんだかんだ言っても、私の言葉は私が決める。周りが私の意思にそぐわなくても、私が私のために私らしくあれば良いのだ。いろいろと考えてしまったが、案外簡単に決着がついた。


私が気をつければ大丈夫な話。私だけは、ゲームの中での物語を知っているのだ。それを私がなぞる理由なんてないんだもの。

その結果、物語がどう変わってしまうのか。本当に怖いのは、そこかもしれない。

下手に物語が書き換わり、イベントが変わってしまったら、私が対応するのが難しくなるだけだ。下手に、書き換わるよりは、私だけが、別の行動を取りつつ、アリルの選ぶ未来に気を配った方が良いのだろう。


この奇妙な現象に不安はあるが、仕方ないと思うしかないだろう。ならば、いっそ利用するだけ。それによく考えろ、私。主人公はアリルなのだ。何も知らない誰かではない。アリルなのだ。私は、そのことを失念していたようだ。アリルが私に困るようなことをするとは思えない。

本気でアリルがギル様を好きになったのなら、私に何か言ってくれるに違いない。いや、隠す可能性もあるかもしれない。だとしても、私が気づいてあげれば大丈夫だ。私にとって大事なのは、彼との結婚ではない。処刑されないことなのだから。


まだまだ、私はギル様を殺したいと思ったことはない。それが芽生える事もないだろう。

だから、大丈夫だ。私は私らしくある。ただ、それだけで良いのだ。周りもゲームの物語も関係ない。私に関しての全ての選択は、私自身だけが握っているのだから。



ヒーランの言う、筋書きは、全てヒーラン目線のことなので、全てが正しくわないです。

主人公も、物語の全体を把握していないっていうのが、思っていたよりも難しいです。

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