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第30話 学園編のプロローグ

プロローグというか、導入というか、みたいな感じです。すいません。

とりあえず学園編にやっと入れたなと思ってます。

 アリルがヴィルランク家を後にして、2ヶ月弱。とうとうこの日が来た。学園生活、始まりの日だ。私は見覚えのある教室に来てしまったのだ。

 王都における社交シーズン以外では、大抵の貴族は領地に戻り領に関してのことを行うことになる。私も今までそうであったように。

 しかし、学園に入るとそこは変わってくる。卒業までの2年間を王都にある、学園領で暮らすことになるのだ。

 この王都は、王家のお城の正門側に、城下町が広がっているつくりだが、裏側はとなると、広大な庭園の先に、私たちの通う学園が存在するのだ。学園領もそちらに位置する。


 今言った通り、王都に存在するので、馬車で王都の自宅に帰ったりもできるが、原則としては禁止されている。とは言ったものの、大人としての社交会デビューの為に、学園でも社交会を模した行事がたくさんあるのだ。ドレスを新調したりする為に、城下へ行くことも出来るので、そこまで厳しく決まっているわけではない。


 週に2日は休日もあるので、そう言ったときに、戻る分には良いのだろう。

 まぁ、仲間うちのお茶会をしたり、人によっては勉強の復習もしたいだろうから、毎週のように戻ることは難しいだろうけど。


 これからの2年間は、大人とも子供の時とも違う、一種の特別感のある期間となるはずなのだ。教室で周りを見渡せば、期待に溢れる人の顔が良く目に付いた。

 学園では、大人として貴族社会に入る為の様々な教育を受けることになる。けれど、得られることはそれだけではない。マブルのように婚約者がいない者同士が、相手を探す事も出来るし、一時の淡い恋を堪能することも出来る。恋愛だけでなくとも、爵位を継ぐ予定の無い者たちが、貴族としての働き口を得ることも出来るのだ。

 そう言った目的の無い者にだって、様々な楽しい思い出をくれる場所だと大人たちから聞いている。

 だからこそ、不安はあっても期待に溢れた顔しかほとんどは見当たらないのだ。

 、、、私もそんな気持ちで迎えられたら良かったのに。

 私の心と身体はチグハグだ。周りから見られることを考えて、不安さや辛さを見せるわけにはいかない。

 だから、笑顔で堂々と。公爵令嬢らしい振る舞いを心掛けるのだ。


 けれど、心は全く追いつかないのだ。

 今日、この教室にやって来た後、たまたま窓の外を眺めると、アリルがいた。貴族しかいないはずのこの学園に彼女がいたのだ。生徒用の制服を着て。

 アリルは、ぎこちなさそうだが、嬉しそうな顔が見てとれた。私は直ぐに視線を教室に戻していた。

 期待に満ち溢れたあの感じが、物語の冒頭を思わせたから。

「平民として育ってきた私が、まさか貴族になるなんて思いもしなかった。平民での生活も名残惜しいけど、なってしまったものは仕方ない。せっかく学園に通えることになったんだもん。貴族のことを学びつつ、この新しい世界でたくさん思い出を作るんだ。」


 そんな少し軽いノリの始まりだった気がする。けれど、明るくて元気な性格のアリルには、近いところを感じたんだ。


 この世界は本当に、私の夢の中で見るゲームの世界に凄く似ている。とある角度から見た教室の雰囲気も、学び舎の雰囲気も、生徒が身につける制服も、そして登場人物の名前も特徴も。ほとんど全てなのだ。


 入寮した日から、少しずつだが不安が増してきていた。

 入寮する日、私が制服を着て部屋を出ていけば、当たり前なのだが、マブルも制服を着ていた。


『………』

『制服ってあまり見慣れない服装だけど、姉さんは何を着ても綺麗ですね。似合ってますよ。』

『ふふ、ありがとう、マブル。貴方もよく似合ってるわ。』

『ありがとうございます。』


 一瞬、思考が止まってしまった。マブルに褒められて、少しのむず痒しさを感じたことで、回復出来たけど。マブルが思っていたよりも、成長していたことに驚かされた。マブルもリンゼン様も、そしてギル様もだんだんと成長していくことで、私の知っているゲームの世界の顔と、少しずつ近づいていることはわかっていた。それでも、医療計画の忙しさで上手いこと、目を背けていたのだろう。

 けれど、あの日制服を着たマブルを見たら、全てが一致して見えたのだ。後は、背景が学園に変わるだけ。


 そして、訪れた学園も教室も、本当に同じものばかりだった。

 わかっていたことなのに、現実として叩きつけられると、悪夢であって欲しいと願いたくなる。

 私がゲームの中の悪役令嬢と同じ名前で、婚約者の顔に面影があり、名前も同じ。それに気がついた時から、物語のような結末になってしまったらどうしようかと、あれこれ考えて出来る事をしてきたはずだったのに。


 この言い知れぬ恐怖はなんだろう?


 全部わかっていたから、可能性から逃れる為に、色々と策を講じてきたのに。今になって訪れるこの恐怖心はなんなのだろうか?


 たぶんだが、本当はわかっているんだ。私は。

 お菓子作りも昆布出汁の時も、医療計画の時も、成功したという感覚はあった。医療計画はまだまだ途中ではあるが、始まりとしては充分に成功と言える所までは来たのだ。

 だからこそ思う。

 学園における、ギル様からの婚約破棄だけは全くの目処が立っていない事を。婚約破棄をされる可能性も、された場合の処遇も何もわかっていないのだ。


 そこから来る不安が大きい。

 そして、それを避けたくとも、考えさせられる問題がある。

 この世界がゲームの物語を模した物だという点は、小さな希望にも思えていた。主人公の幸せは、私のバッドエンドかもしれないが、1番のエンディングを迎える保証なんてないのだ。

 異世界の彼だって、ギル様ルートをクリアする為に、何回も挑戦することで、クリアしたのだ。けれど、この世界は一度きりだ。挑戦権は一度しかない。


 だからこそ、主人公次第では特に悩むこともなく、卒業出来るかもしれないと思っている部分も少しあったのだ。

 けれど、主人公がアリルとなると変わってくる。


 アリルなら貴族となっても、良い意味で貴族らしくなく、優しい彼女であり続ける事が出来るだろう。そんな彼女に心惹かれたと言われても、仕方ないとは私も思う。

 ギル様の理想の人のようになろうとは思っても、考え方を変えるのは、簡単に出来る事ではないのだから。


 そうなってくると、2人の問題に私が突っ込む事は、今までの過程を考えるなら、難しいだろう。ギル様が私を好きになることはなかったが、アリルを好きになる可能性は充分にあり得るのだから。

 そうなっても良いということは、伝えたのだし。

 ならば、どうするのかとなると、私の醜聞をどうにかするしかないだろう。


 物語のように行くと、私はアリルに対し、様々な酷いことをしつつも、それをギル様に対して綺麗に隠蔽してしまうようになるはずなのだ。


 今の私としてはアリルにそんな事をするつもりは一切ないが、私がしていない事を、私がしたことにされる可能性は充分に高いということは、よくわかる。


 けれど、こんなものは公爵令嬢をしていれば、全くの嘘の醜聞が噂にされるのは良くあることだ。問題はそれを、事実として固められないように、如何に振る舞うかだ。

 そんな事は、当たり前に出来なければいけない事だと、私は思っている。


 だから、そこに不安はあまりなかった。

となると、婚約破棄後の処遇に大きな不安はあまり無いはずなのだ。ギル様は理不尽を強いるような人では無いのだから。


 そうなると、私の不安は、先に挙げた一つなのだろうか?

 マブルの言葉が頭をよぎる。


 私はギル様に心を惹かれている?

 いや、それは無いだろう。私はその考えは冷静に否定出来る。何故なら、私はギル様を殺したいと思った事はないから。


 ならば何故なのか?

 私はまだまだ、自分の事もわかっていないようだ。

 とりあえず、婚約破棄されたとしても、酷い処遇にはならないだろうと、適当な事を考えて、不安を拭う素振りをしてみた。

 気持ちに変化なんてないが、あったと思い込んだ。


 私は華々しい未来への期待に満ち溢れる学び舎の中で1人、不安をしまいこんで、未来に対し、当てのない期待を向けることしか出来なかった。




一度、0.5話みたいなのをいれたせいで、定期的に話数を間違えます。けど、学園編が丁度よく30話からになったのは良かったかも。

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