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第29話 アリルの想い

自転車で卵買いに行ったら、2つにヒビ入った

仕方なく卵焼き作ったけど、どーやったらまるまるん?

アリルすご

私はアリル。今日、ヒーランお嬢様は、私に大きな選択をくれた。




私は知らないことが多い。お母さんは、私にお父さんのお話をあまり話てはくれなかった。亡くなったと言われていたし、お父さんのことを口にすると、すごくお母さんが悲しい顔になるから、私には口に出す勇気がなかった。


お母さんが亡くなった日、お母さんが勤めていたお店の人が来てくれた。その人にはたくさん謝られた。

『元気なふりをしているのは、わかっていたけど、ここまでだったなんて。』

お母さんの死は、本当にいきなりだった。ずっと、無理をしていたんだろう。お嬢様の医療計画を聞いた今、考えてみると、そうする以外に出来ることもなかったんだとは思うけど。


その人が色々と手続きを進めてくれた。その間のことは、あまり覚えていない。現実感が得られなかったことだけは覚えている。


そして、あの日が来る。私のもとに、ギリギリ顔を覚えているくらいでしかない、おじさんがやってきた。

お母さんが亡くなってから、色々と面倒で、もう、なんでも良いとすら思っていたけど、あの人を見たら何故か恐怖が全身に回った。

それと同時にお母さんの顔が浮かび上がった。いつも笑顔で、辛そうな姿なんて、生きている時には一度も見たことなんてなかった、そんなお母さんのいつもの笑顔。

私もお母さんの娘なんだ。いつまでも下を向いていてはダメだ。今日からは、お母さんのためにも、私は笑顔でいないとダメなんだ。そうしないと、お母さんが天国で笑えない気がして。

だから、私は幸せになろうって決めたのだ。お母さんはそのために、必要な事をたくさん教えてくれたから。


だからこそ、この人からは逃げないといけないって、そう思った。


そしてあの日、私はお嬢様の馬車に飛び出した。


やっとの思いで、考えがまとまったのに、またしても、頭がぐちゃぐちゃになって、言葉が出なかった。

そんな無礼な私に対して、お嬢様は冷静にその場を分析し、私を保護してくれた。そして、専属の侍女として雇ってまでくれたのだ。


それからは大変だけど、楽しい毎日だった。侍女として、覚えなければいけない事がたくさんあるし、なんとなくは出来る家事業務でも、気をつけないといけない事がたくさんあった。それでも、お嬢様やマリネさんはもちろん、マブル様やメイド長など、みんな優しい人ばかりで、私は笑顔でいるのが、苦になる事なんて全くなかった。お母さんの為に、お母さんのように笑顔でいよう、なんて思っていたけど、私はここに来てからずっと、自然と笑顔でいる事が出来た。


私は今幸せだ。あの日から、ずっと幸せだった。ここにお母さんもいたら、なんて思わなくもないけど、お母さんを困らせないためにも、私は笑顔で幸せだ、とお母さんに伝える事が出来るだろう。


なのに、そんな場所を作ってくれたお嬢様から最近、悲しそうな雰囲気を感じることがある。マリネさんも気づいているようで、婚約者である、皇子様とのことで、不安があるようだ。

また、マブル様も思うところがあるようで、2人の仲を上手く繋ごうとしているみたいだけど、まだまだ実を結んでいるようには思えない。


お嬢様やマブル様は、妬みから悪口を言われることが、結構あるらしい。お嬢様は女性なのに政治に口を出しすぎだとか、マブル様は本来なら分家の人間のくせに、みたいな感じのことを色々とだ。

そんな言葉を聞いても、おうちに戻ってから2人は楽しそうに、言われた事を話していたりする。


『言えるうちに、好きに喧嘩売ってくるのは良いけれど、わかってるのかしらね?あの人達は?』

『いや、わかっていないんだと思いますよ。頭の弱い彼等では。』

『そんなわかりやすく、嫉妬するほど、私達の期待は厚いというのにねぇ?』

『ええ、全くです。』

『本格的に権力を持ってから、媚びを売られても、嘲笑う理由にしかならないっていうのに、本当に弱いのね。』

『嘆かわしいことですね。』


こんな会話を初めて聞いたとき、本物の姉弟のように思考が似ているな、なんて思いつつ敵には絶対に回しちゃいけない人達だって、こころに誓ったんだったかな?敵対出来る関係でもないけれど。

まぁ、そういう思考回路を持つ人だから、他人からの評価なんて、交渉材料の一つでしかなく、敵視する相手には、ほとんど目を向けたりしないお嬢様が、他人を思って悲しそうにするなんて、それはそれだけ大切な相手だという事になるんだろう。


そんな事をマブル様が言っても、皇子様であり、婚約者である相手を、大切に思うのは当たり前のことでしょう。と、お嬢様は言うのだけど。


それはたしかに、そうかもしれないけど、それだけとは、言えないだろう。私だって、貴族であり雇い主であるお嬢様は、大切な人ではあるが、それだけが私にとってお嬢様が大切な人である理由ではないのだ。優しくて、尊敬できる人だからこそ、大切である理由になり得るのだ。

私がお嬢様をお慕いする理由は、身分だけの薄いものでは決してない。

そして、それはお嬢様も同じだろう。本気でなんともない相手なら、必要事項だから仲良くするし、好かれようとして、心を悩ますかもしれないが、上手くいかない現実に心を痛めても、相手を想って悲しくなったりはしないはずだ。


私はお嬢様を盲信しているわけではない。お嬢様の人間らしい部分も理解した上で、私はお慕いしているのだ。


だからこそ、私は思う。

お嬢様は今、私に私のために、選択肢をくれた。使用人でいるか、貴族になるか。


お嬢様は色々と説明してくれた。

『貴族となるなら、学園に入学する必要があるわ。今からだと、時間もあまりないけれど、入学までに、貴族らしい振る舞いを身につけなければいけない。』

そこは、人を自分らしく真似るのにはそれなりに自信がある。お母さんとやってきたことだから。


『それに、貴族同士の関係性は、学園なんかより、ずっと前から始まっているわ。学園で初めて見るような人は珍しいし、そこからどんな噂をされるかわからない。出生についても勘繰られるだろうし、そうしたらイジメられる可能性も大いにある。』

それは、たしかに辛いかもしれない。けれど、それでも、私は笑顔を失わない自信はあるのだ。お母さんがそうだったんだから。


『そして、それを私が表立って助けてあげることは、難しいの。ヴィルランク領を見たから分かるわよね。ヴィルランク家は、港があって、そこから多くの貿易を行っている分、他よりも豊かなの。ディアネル家も同じ。港ではないけど、貿易が盛んな地域で、豊かなところよ。経済面で強い、二つの領地が仲良くなると、面倒な噂が多くなってしまうわ。だからこそ、貴女がディアネル家に行けば、同じ学園にいても、仲良くは出来ないの。』

そこで悲しげな表情を見せるのは、ずるいと思う。私だってお嬢様と仲良く出来ないのは、嫌だ。今聞いた中で、1番のデメリットであることは、よくわかる。

それに、表立ってって、、、お嬢様なら上手いこと助けてくれそうで、甘えたくなってしまうではないか。


『まぁ、辛い事ばかりではないわ。貴族としての仕事はあるけれど、使用人のような仕事はしなくていい。煌びやかな世界に入る分、今まで以上に美容やお洒落は仕事の一つとして、楽しめるわよ。そういうの、好きでしょう?後は、食事のレベルも上がるんじゃないかしら?』

侍女の仕事は、気に入っていたので、あまり嬉しくはないが、お洒落出来るっていうのは、やっぱり嬉しいかも。お嬢様を着飾るのだって、充分に楽しかったけど、あんなドレスを一度は着てみたいって気持ちはあるもん。お嬢様と私では、似合う衣装も異なるので、バリエーションが増えるのは、単純に楽しそうだ。。。ここで、お嬢様の衣装も考えられたら、2人を引き立てあう衣装を考えることも出来るのに。マリネさんと一緒に、ヴィルランク領の街を三人で散策する為の衣装を考えたときは、三人に共通性を残しつつ、それぞれの色を出せる衣装を考えるのは、本当に楽しかった。ドレスでも同じことが出来たら楽しかっただろうな。

食事に関しては、同じシェフの賄い料理であり、食材もその余りなので、大差は無いと思う。今ですら、普通より良いものを食べている自覚がある。


『そして、お母様の故郷に行けるのよ。貴女の知らなかったお母様を知ることが出来るはずだわ。そして、その地にお母様を帰してあげることが出来るわ。それは、充分にメリットじゃないかしら?』

お嬢様は、優しい笑顔を送ってくれた。私の考えの足りてなかったことだ。言われてみれば、たしかにお母さんの故郷は気になるし、お墓を移動してくれるなら、そうした方が良いような気もする。メリットとしては、充分に大きく思えた。それに、ヴィルランク家とディアネル家の関係から、残ってしまえば、ディアネル領を訪れるきっかけは、あまりなさそうにも思えた。


だけれど、そのあたりは私にとって、追加要素でしかない。先程も言った通り、私は今幸せだ。そして、それは今後も同じように思えた。使用人としてでも、貴族となってもだ。使用人なら今まで通り。貴族としても、ディアネル伯爵は信頼出来そうな人だった。お嬢様もそのあたりを疑っている様子はない。

だから、最初は大変であっても、落ち着けば貴族としてでも幸せにはなれると思えた。


ならば、私が判断基準に置くべきものは、お嬢様という事になるだろう。

もう一度言うが、私は今幸せだ。お嬢様が私にくれた一番大きな大切なものだ。

なのに、その大切なものをくれた人は、私の前で時折悲しい顔をするのだ。


私が笑っているのは、辛くても笑い続けたお母さんを真似て。でも、今私は辛いけど、笑ってるんじゃない。楽しくて幸せだということを、伝えたくて、そしてそれが伝染してほしくて笑っているんだ。

けれど、一番大切な人にそれが伝染していないなら、そんな無駄なものはないだろう。これは、私のただの身勝手な願いに過ぎないのかもしれないけど、私はお嬢様に幸せでいてほしい。そうあってほしいのだ。

そのためには、今の地位では出来ることが限られ過ぎている。

侍女でいれば、お嬢様を側で支えてあげることは、出来るかもしれない。けれど、それはマリネさんがいれば充分で、貴族としてもマブル様がいらっしゃるのだ。

お嬢様を側で支えることの出来る人は、充分に揃ってる。

けれど、貴族様側はどうかというと難しいところだ。お嬢様は他の貴族の令嬢方や男性からも、一目置かれ色々な感情をぶつけられている。その中には、友人として仲良くしている人達もいるが、全ての人に対して、貴族としての振る舞いを崩すなんてことはしないのだ。

全ての貴族に対し平等に、しなければいけない貴族としての仁義を崩すことはないのだ。

だからこそ、お嬢様を慕うものがいても、お嬢様を心配する人はいない。色んな事を考え実行してしまう為、お嬢様は多くの仕事を抱えることもある。そんな時、尊敬から仕事を手伝って支えてあげたいと思う人がいても、彼女自身が困ってる時に、それに気づいて、助け支えてくれる人はいないのだ。


これまで侍女として、仕事をしながらも観察してきた結果から、私はその結論に至ったのだ。それでも、私はお嬢様の侍女だから、自宅や2人でいる時に支えることしか出来なかった。そういう時に、お茶やお菓子、たわいもない会話で気休めの安らぎを与えてあげることしか出来なかったのだ。


それが今、私には別の方法が提示されてしまった。近づき難かったり条件付きではあるが、新たなアプローチ方法を提示されてしまったのだ。


それが本当に正解なのかなんて、わからないけれど、今私の大切な人が幸せそうに見えなくて、辛い想いをしているのに、それを無視して私だけが、彼女の優しさに甘えて、幸せでいるわけにはいかないのだ。


大切な人に、幸せだと伝えるために笑うように、私もお嬢様に心の底から笑ってほしい。

だから、私の選ぶ選択はもう決まっていた。


決まっていた、けど少し不安で、私は最後にまた一つ、お嬢様に甘えてしまった。確かな保証が欲しくて。ただの口約束でも、あるのとないのでは、全く気持ちが違う気がするから。


『お嬢様。私がディアネル家の人間になり、公的に仲良くなることが出来なくても、私はお嬢様をお慕いしていても、良いでしょうか?』


お嬢様は、本当に一瞬、気づける人なんてマブル様やお父様を除いたら、貴族にはいないだろうなと思うような、小さな小さな時間の中で悲しげな表情を見せた。見えたような気がした。けれど、それが嘘だったように、公爵令嬢であり、王子様の婚約者として、恥のない堂々とした姿で宣言してくれた。


『当たり前でしょう!私も貴女を妹のように思っているわ。もしも、ディアネル家で酷い扱いを受けるようなことがあったら、すぐに言いなさい。私が助けに行くわ。』


私の求めていた以上の言葉をくれるお嬢様に、私の顔は自然と緩んでしまう。そのまま感謝の言葉がするりと落ちる。

『ありがとうございます。お嬢様。』


そんな私を見たお嬢様は、少し照れながら、言葉を続けた。

『仲良くすることは出来ないけれど、敵対することは、余裕だもの。』


私は、それを聞いてまた小さく笑った。

こういうところも今後見ることは出来ないのかな?

そんな風にも思ったが、それでも私は笑顔を外さなかった。




本編である学園に、主人公の登場が決まりましたね

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