第28話 アリルの選択
3000くらいでやめるか迷った結果、2000追加されて、日付超えました。また、まにあわんかっあー
ディアネル伯爵と会談の予定を立てた後、その日の夜会についての記憶はあまりない。特にやらかした雰囲気はないので気にはしてない。
けれど、それからの数日間は不安でいっぱいだった。アリルになんて言えば良いのか。アリルはどんな選択をするのか。
私には何も分からなかった。
会談の日の段取りはある程度決まっていた。まず、私が話を聞くことになっている。本来ならお父様かもしれないが、私の専属の侍女であることや、私の優秀さから承諾してくれた。
私が納得したら、次はアリルだ。アリル本人にも、話をすることになっている。そして、本当にアリルのお母様で間違いないか確認する。
そして、本人の意思で決めてもらうことになった。
その後、どうするかを。
アリルは私といることを選んでくれるだろうか。それとも、貴族になることを願うのだろうか。
わたしは、、、どっちを応援したら良いのだろうか?
アリルと話すその日までに、私も意思を決めておかなければいけないだろう。
アリルが直ぐに結論を出せるのなら、それで構わないが、出せないと日を改める必要が生まれてくる。
ディアネル家とヴィルランク家は仲が悪いわけではない。ただ、ディアネル家もヴィルランク家と同様に他国との貿易の盛んな地域だ。陸繋ぎの他国との関係を上手く繋ぎつつ、貿易で大きな資産を生んでいる家柄にあたる。
他国間の貿易で繁栄している領地は他に1つしかない。その為、うちを含む3つの領地が資産面では大きな力を持っているとも言える。
そんな領地の2つが親身となり、更に莫大な利益を産もうとしてしまえば、他の領地との格差が大変なことになるし、その利益をどうするんだって、話にもなる。
金が増えれば出来ることも増えるのだから。
よって、周りの反感を買わない為にも、ディアネル家とはあまり仲良く出来ないのだ。私的な会談や茶会は、噂の標的にしかならない。
アリルが移動する為の準備や、決めるべき約束ごとを決めるのにも、それなりに時間がかかる。そういったことを考えると、アリルには申し訳ないが、話したその日に決めて欲しくはあるのだ。。。移動するなら。
なので、私もアリルが決めやすいように、してあげた方が良いのだろう。
はぁ。。。ここまで頭を使いたくないと思ったのは、初めてだ。
そして、約束の日はやってくる。やって来たディアネル伯爵に形式的な挨拶を交わした後、直ぐに本題に入った。
そして語られた言葉は、私が調べた内容とほとんど差異はなかった。
違った箇所があるとするなら、文字だけでは分からなかった、アリルのお母様への悲痛な思いと、アリル自身は無事であるという安堵感。本気で心配し、必死になって探していたという真剣さが十分に伝わってきた。
ここで突き放すことは不可能だろう。きちんと、アリルに話を通すしかない。
吐きたい溜息を飲み込んで、マリネにアリルを呼ぶように伝えた。
そして、やって来たアリルを座らせて、ディアネル伯爵の質問にいくらか答えさせた。
アリルには、お母様の知り合いらしき人が見えていると、話をしてある。
ただの勘違いのときを考えて、細かい説明はしていなかった。そのためか、それとも私の侍女として働いてきた経験かはわからないが、アリルはしっかりとした受け応えをしていた。
初めて会ったときは、口調しかそれらしくなかったのに。
『レリアナ。それが君のお母さんの名前で間違いはないね。』
『は、はい。名前どころか生年月日や顔立ちも合っています。私はお母さんが王都に来る前のことを知らないので、それ以上の把握は出来ませんけど。』
『いや、君で間違いないだろう。レリアナに似て、可愛らしく育ったな。』
お母様に似てると言われたことが、嬉しかったのか、アリルは愛らしい笑みを浮かべた。私はレリアナさんを知らないけど、微笑む時の目尻の下がり方とかは、ディアネル伯爵とアリルに近しいものを感じた。
そして、今日の1番の本題に入った。ディアネル伯爵は、アリルにうちに来て欲しいことと、これまでのことをアリルに話始めた。
『というわけでだ、君に申し出を受けて貰いたいのだが、どうだろうか?』
『色々と思うことはありますが、そこはお母さんの感情なので、私からは言いません。けれど、今の私には返すべき恩があります。』
アリルは一度私に視線を向けるとニコリと笑った。
『なので、私としては受けることは出来ません。』
ディアネル伯爵は、困ったような表情で私とアリルを交互に見る。
『ヒーラン嬢。その恩は、アリルでなければ返せないのだろうか?』
『いいえ、そんなことはありませんわ。ディアネル伯爵。私は彼女を雇っていたに過ぎませんわ。返される恩なんてありません。』
『お嬢様!?や、雇っていただけなんて。そんなこと。』
『確かに素性が知れず、年も若い貴女を雇ってくれるところなんて、ほとんどなかったかもしれない。そこにアリルは恩義を感じているのよね。けれど、私からしたらそれまでなのよ。そこから先、頑張って働いてきたのはアリルであって、アリルが仕事を辞めるのも続けるのもアリルが決めることであって、私には関係ないわ。』
『関係ないって、そんな。。。だって、お嬢様!私、学
私はアリルの口元に人差し指を近づけ、それ以上の言葉を制止した。
『違うのよ。アリル。そういった面倒や恩義とかそういったものを、ひっくるめた上でディアネル伯爵は貴女を引き取りたいと言っているの。』
『そういったものを含めて?』
『あぁ、ヒーラン嬢の言う通りだ。君をうちに迎えられるなら、ヴィルランク家にはそれ相応の対応をするつもりだ。』
『わかったかしら、アリル。ヴィルランク家としては、貴女が出て行ったとしてもメリットはあるの。』
アリルはその言葉に眉を下げて困った顔をした。
『出て行った方が良いということでしょうか。』
その言葉に私は小さく微笑んでしまう。そんなはず、あるわけない。
アリルを奪われて、アリルの中の思い出が私とのものが薄れて消えて行くのだ。嬉しいはずがない。今奪われるくらいなら、殺してしまいたい気持ちでいっぱいなのだ。
『うふふ、違うわ、アリル。私が言いたいのは、貴女がどちらを選んでもヴィルランク家には、なんの迷惑もかからないということよ。貴女の進みたい道を選んで良いのよ。』
『私の進みたい道をですか?』
ヴィルランク家には迷惑はかからない。ヴィルランク家には。
私としては、、、
『ええそうよ。貴族として生きていきたいか、平民として、使用人として暮らしたいか。貴女が選択出来るのよ。』
『、、、』
アリルは俯いて、言葉を悩み始めた。
やっぱり、貴族の生活にも興味はあるわよね。使用人として、見てきたとしても。
『いきなり言われても難しいわよね?休憩しましょうか。』
私とディアネル伯爵は入れ直された紅茶をもらい直ぐに口をつけたが、アリルは目線が上がらなかった。
お菓子についてディアネル伯爵から、感想をもらいつつもアリルに気を配っていたら、アリルと視線があった。
困り悩ましげな、視線を向ける彼女に私は小さく首を振ることしか出来なかったが、それを見た伯爵が口を開いた。
『アリル。君に質問があるんだが、良いだろうか?』
『な、なんでしょうか?』
『君にとって、ヒーラン嬢はどう言った人だろうか?』
アリルはその質問に、満面の笑みを咲かせた。
『ヒーランお嬢様は、麗しくありながらも、理知的で、更に努力家であらせられます。同性から見ても見惚れてしまうほどの、容姿には大変憧れますし、将来の王妃様として、日々国の未来を考えるお姿には尊敬しています。そして、一使用人である、私にも大変優しくしてくださって、そんな時は、失礼ながらも姉のように慕っております。』
さっきまで、塞がっていた口が嘘のように、開かれ、紡がれた言葉に軽く驚かされた。
『ふふ、褒めすぎよ、アリル。』
『す、すいません。』
ディアネル伯爵も驚きつつも口を開いた。
『そうか。よくわかった。そうなると、一度二人で話しもしたいのではないか?私は一度席を外させてもらおうかな?』
『そうですわね。アリル。お言葉に甘えさせてもらいましょう。けれど、お客様を追い出すわけには、いきませんわ。私たちが移動しましょう。マリネ。』
マリネは名前を呼ぶだけで、わかってくれたようだ。
マブルを連れてきてくれたので、入れ替わるように、私達は退室する。そして、私の部屋に向かった。
アリルがお茶の準備をしてくれた。一息ついたところで、アリルも席に着く。同様に一口つけた後、視線があった。
『私がいなければ、学園での侍女はどうするのでしょうか?』
『そこは、新しく雇い直しても良いし、マリネでも構わないわ。相手がいない訳ではないのだし、しっかり話を通せばいい事だし、その分給金を上げたって、ディアネル伯爵にもらうだけだもの。なんとでもなるわ。』
『そうですか、わかりました。では、お嬢様はどう思っているのでしょうか?』
『わたし?わたしね?』
もっと先に聞きたいことは、ないのかしら?色々とあるでしょうに。
『寂しくはなるわね。会ってから、まだ5年くらいだけど、それでもずっと一緒にいたものね。』
『そうですね。長いようで長くない時間だったのかもしれません。私としては、お邪魔でなければまだまだお仕えしたいという気持ちは、大きいです。』
『その言葉は大変嬉しいけれど、それだけで決めるのは勿体ないとは思わないの?』
『思わなくはありませんが、お嬢様がそばに居て欲しいと言ってくださるなら、私はそれが一番嬉しいですよ。』
『、、、そう。』
私がそばに居てといえば、アリルは貴族として学園に現れることはなくなるということだろうか?それを選んで良いのだろうか?私が決めて良いのだろうか?
アリルは思っていたよりも、私を慕ってくれていたみたいだ。私はそんなに立派な考えを持ってなんていないのに。
今もなお、アリルのその細い首筋に、腕に隠したナイフを突きつけて、紅く染めたいという気持ちが溢れそうなのに。溢れさせたその時でも、アリルは私に同じ笑顔をくれるかなって、ずっと考えているのに。
そんなことも知らずに、アリルは私に微笑んでいる。私はその瞳に、正直には答えられない。
『私からその言葉を、言うわけにはいかないわ。私もアリルが大事だもの。だから、アリルの可能性を私が決めるわけにはいかないわ。貴女が自分で考えなさい。貴女の最善を。』
『、、わかりました。』
『だから、私がそのヒントをあげるわ。使用人を続ける場合は、今まで通りだから、貴女も良くわかってるでしょう?だから、貴族になる場合のメリットとデメリットを教えてあげるわ。私の考える範囲のものでね。』
『あ、ありがとうございます!!』
私は、まずデメリットを伝えた。
平民の子供を探していた噂は、大きくないが多少ある。名の知らぬアリルが突然学園に現れたら、いじめを受ける可能性は高いこと。
貴族としての常識を新たに覚え直さなきゃいけないこと。
本当に受け入れられているのかは、わからない。
そして、ディアネル家とヴィルランク家では、あまり仲良く出来ないため、学園では距離を取ることになること。
メリットは、生活水準の向上。たぶん、良い結婚相手をディアネル家が見繕ってくれること。
お母様の生きた大地を知ることが出来る。
そして、お母様のお墓を、きちんとディアネル家に移せるというところだ。今、お母様のお墓はヴィルランク家で預かり、使用人達のお墓の1つに並べている。アリルが亡くなったら一緒に入れるようにと。けれど、本来の家族の場所がわかるなら、そちらに移してあげたいという気持ちはある。でも、移したのに、アリルは残るとなると、アリルをディアネル家に移すのは難しくなる。よって、2人で移動するのが一番良くなるのだ。
大まかなメリットとデメリットになってしまったが、アリルにとって大事なところは伝えられただろう。
アリルは聞き終わると、私に視線を向けた。
『お嬢様。私がディアネル家の人間になり、公的に仲良くなることが出来なくても、私はお嬢様をお慕いしていても、良いでしょうか?』
あぁ、その言葉でアリルの心が、どこに向かってしまったのか、わかってしまった。
今ここで、拒否をすれば、まだ彼女は引き返してくれるのだろうか?
いや、だとしても、私にその言葉を紡ぐことは出来ない。
『当たり前でしょう!私も貴女を妹のように思っているわ。もしも、ディアネル家で酷い扱いを受けるようなことがあったら、すぐに言いなさい。私が助けに行くわ。』
『ありがとうございます。お嬢様。』
目の前に咲いた笑顔を、許されるのなら、摘み取ってしまいたかった。
次週は、アリル視点になるかなー?
今回にするかで、色々迷いまくったんですよね。
来週も悩んでそーだなぁ




