第18話 出汁
やばい、やりたいことがおおすぎる
『ねぇ、マリネ。良い人は見つかりそう?』
『そうですね。色々と決め兼ねています。』
マリネは少し苦笑しつつ答えてくれた。
まだまだ、良い人は見つかってなさそうな感じだ。この調子だと、王都の方でもきちんと時間を取れるようにしてあげた方が良いだろう。
『そう、頑張ってね。』
『そうですよ。マリネさん、綺麗なんだから、絶対良い人見つかりますよ。頑張ってください。』
アリルも褒めながら、エールを送っているようだ。けれど、マリネの表情が苦笑からあまり変わっていないのは、やはりあまり上手くいっていないためだろう。
しかし、焦る必要もないだろう。色々と考えられるように、早くから時間をあげているのだ。こうやって悩むこともマリネの為になるはずだ。
しかし、使用人として、それなりに人付き合いの多い仕事柄であり、6つも年上のマリネでも、上手くいかないのか。
恋というものは、やはりどうやってしたらいいのか、わからない。
ギル様と違って、王族の婚約者を持つ私が、別の異性と一緒にいることなんて、少ないし、私が別の人を見てこの人のここが良いというのは、確実にダメだろう。
ギル様との約束を果たすために、異性とについて色々と考えるべきなんだろうが、私には無理だ。ギル様に対して、考えるべきことのはずだ。ギル様のいない領地で考える事ではないだろう。
とりあえず婚約者として、仲睦まじく見えるために、たまに会いたいなぁ。とか呟いておけば良いだろう。
さて、海藻の研究はというと、ほとんど大詰めだ。
理由は簡単だった。お父様が細菌や毒など、味はともかく、食べられるのか調査してくれたついでに、学名など分類分けして、お屋敷に届けてくれた。
結果、あったのだ。昆布が。学名とか見た目とか、全く同じものが存在していた。
それとなくアリルを誘導して、出汁を採らせてアリルに味見をさせた。直ぐに味を引き出せた訳ではないが、早い段階で、これなら新しい料理を作れるかもしれないと思わせることに成功した。
そこからは、アリルや手伝ってくれる料理人達の試行錯誤だ。
その過程で、ワカメも見つけたし、料理人達が、別の海藻類にも注目をして、料理を増やそうと頑張っていた。
とりあえず、海藻類を食材として利用することは、上手くいきそうだという見解には達する事が出来た。
『姉さん。これ味どう思う?』
『うん。一度乾燥させても、味の劣化はあまりなさそうね。十分流通させられる商品だと思うわ。』
今回の実験では、マブルも調理を手伝ってくれていた。将来的に、ヴィルランク領の特産となるかもしれない産業のため、マブルも商品に携わるように言われたためだ。
マブルも色んな味や香りを体験して、普段あまりしない作業だからこそ、真剣に楽しそうに取り組んでくれた。
私としても、長くマブルと話す機会があったのは、楽しかった。
普段から、ある程度ギル様やその日あった事を話したりするが、改めて話を聞いたり、ヴィルランク領での事を聞くのは、なんだか新鮮で面白かった。
そんな中、調理場でマブルが出汁を取る姿を見ていたとき、食肉加工はあまり私には合わなかったが、出汁を取るのなら、それも良い殺し方かもしれない、と思った。
マブルが入れそうな少し大きめな鍋を用意して、少しずつマブルを煮殺していく。
紅くなりつつ、汗を垂らす彼が、私に対して様々な言葉を投げつつ煮えていき、出汁が取れていくだろう。
煮詰める間、ずっとマブルを直視しながら、彼の最期の瞬間を見誤らないように、語り合うのだ。
そして、マブルが事切れた瞬間にこそ、最上のスープが出来るのではないだろうか。
混じりっけのない彼の結晶を、彼だったものを見ながら、最期の一滴までスープを飲み干すまでは、鍋いっぱいに彼との儚い思い出が、私の中に溢れんばかりの旨味を届けてくれるのだ。
『いくらかの調味料を足して、味を調整してみたんだけどどうかな?』
マブルなら味の調整も不要だろうか?
『すごいわね。マブル。味の深みが引き立ってるわ。こんなことが出来たのね。』
マブルは少し得意げに笑っていた。
マブルにも手伝って貰っている通り、現在、保存のしやすさや、出荷に適しているかなどの、実験に移っていた。
乾燥させて流通していたはずなので、乾燥させたものの保存期間の調査や、乾燥させることで、出汁を取るときに味の劣化はするのかなどの調査を現在進めているところだ。
スムーズに実験が進められたので、ある程度の試供品を作り、王都へ行った時に、流通経路を作れるようにしておきたいと考えている。
そんな今回の実験結果から思ったのは、とりあえず、異世界の知識有能すぎるというところだろう。
この調子で向こうの世界の知識を取り入れられれば、私の地位も安定させられそうだ。
しかし、残念な事に私の知識は事細かではない。断片的な、彼の記憶で、彼の考え方や興味のあるものに比重が置かれすぎている。
そこで思ったのは、やはりこの世界はあの世界を模したものなのだろうな、という疑惑だ。私達の住むこの世界と、あの世界では、似たり寄ったりする部分が多少あるのに、雰囲気は別物だ。
彼の記憶を追体験のように保持している、私からすると、この世界は、彼の世界よりも、作り物感を感じてしまう。
これは、私が彼の記憶という、普通らしからぬものを持ってしまったからなのか、それとも元々の私の性質なのか。そのあたりはわからない。
けれど、矛盾するように私はこの世界を生き抜いている自覚がある。
それは、誰かが考えた思想でも、植え付けられた作り物でもなんでもない。
彼の記憶を手にし、彼以外の知識を私が欲し、考えを擦り合わせることによって、私が私自身の中で解釈し、噛み砕いて物にした自負があるためだ。
私がしてきたことは、いずれ訪れる最悪の状況に向かうための布石ではなく、私が私のためにしてきたことなのだ。
だって、そうでしょう?わかりやすい悪役が、真っ当なヒロインへ攻撃性を見せるなら、物語としての必要性は高いだろう。
けれど、その悪役が、大切な人を殺してみたいなんて、可笑しな話であるはずだ。
そんな人間、ヒロイン以外にも敵が多すぎる。今の私を悪役に置くなんて、ヒロインは何と戦えば良いのかわからない。
私は頭にギル様を思い浮かべる。
そういえば、ギル様をどう殺したいかは考えたことがないかも。
今のところどうするべきか思い付かない。
会えば何か思うだろうか?
『はぁ。会いたいなぁ。ギル様。』
私はギル様をどうしたいのだろう。これも伝える好きなところに入るのかな?
なんてね。
時間なくて、短いかも
来週こそ頑張る
はず




