家族の温もり、冷たい墓石
「これがこの区の『適正率』の高い人間のリストだ」
圧場はそう言って鎌田に何枚かの資料を渡す。
リストにはざっと五十人ほどの名前が男女問わず載っており名前の横には数字が並ぶ。
「なるほどねぇ……とりあえずこいつらを片っ端から捕まえてきて柩に乗せりゃあいいんでしょう?」
鎌田は資料をぱらぱらとめくりながらめんどくさそうに言った。この区では管理官が鎌田一人しかおらず彼の仕事量は時代が時代なら騒がれてもおかしくないほどだ。もちろん圧場の仕事量はそれすら上回っていたが。
「あくまで本人の意思を尊重し十分な説明を行うんだ。我々は協力を依頼する立場だからな、それに起動データを取るだけだから実際に乗せるわけじゃない」
圧場はそう言ってテキパキと鞄に荷物をまとめている。
「どうせまた今度は乗せての実験とか言うんでしょう?まとめてやっちまえばいいんですって!……というかお出かけですかい?」
「少し用事があってな」
そう言って圧場は部屋のドアノブに手をかけたがノブを回す圧場の手が止まった。
「お前はそのリストの人間の情報をまとめておいてくれ、柩の件も男の件も勝手な行動は起こすなよ」
そう鎌田に釘を刺して圧場は部屋を出て行った。
「ったく……統括官様は甘くていけねえな!」
鎌田がイライラしながらしながら廊下を歩いていると前から男性兵士が一人走ってきた。
「鎌田管理官!圧場統括官は?」
兵士は何やら書類のようなものを持っている。
「もう出かけちまったよ、なんだその書類?」
鎌田は兵士の持っている書類を指さす。
「これは、適正率の『未成年者』の分ですね」
「未成年?こっのリストで全員じゃないのか?」
鎌田が資料をぶらぶらと遊ばせる。
「柩の実験は危険が伴うので未成年の分はいらないと圧場統括官はおっしゃったのですが、せめてリストだけでもお渡ししようかと……」
「へぇ……それは俺が後で渡しといてやるよ」
「ありがとうございます!ではお願いします」
そう言って兵士は鎌田に資料を渡して足早に来た道を帰って行った。
鎌田が資料を見ると、未成年の方が適正率が高いことが分かった。
「こりゃすげえな、どいつもこいつも大人より適正率が高い」
リストを見ていた鎌田の目が一人の名前を見て止まった。
「こいつ……適正率がダントツだな。こいつを柩に乗せて例の男をとっ捕まえりゃ仕事も早く終わりそうだ」
鎌田は笑いながら資料を壁に当てて持っていたボールペンでその名前のところに丸を付けた。
宇佐美とカナは小林の部屋でそわそわしていた。それもそのはずまさかこんな近くに統括官がいると思わなかったからだ。
「まさかこんな近くにいるなんてな……」
「びっくりですね……」
二人は同じようにうなだれていた。
「おいおい……そんなんで大丈夫かよ?」
小林はそんな二人を見て少しばかりこれからの事が不安になり始めていたとき、カナの腹の虫が一鳴きする。
「す、すいません……」
カナは顔を少し赤くして頭を下げた。
「もう昼だったのか、とりあえず何か作るよ」
小林が台所に向かうと程なくして香ばしい匂いが宇佐美とカナの鼻に届き始めた。
「お待たせ、簡単な物しか作れなかったんだけどさ」
白飯に豚肉の生姜焼きと野菜炒めを持ってきた小林はそう言ったが『簡単な物』というにはその味は絶品だった。
「こりゃあ美味いな」
宇佐美は豚肉と白飯の織り成す味わいに思わず舌鼓を打った。
「一人暮らしだからな料理の腕も上がるってもんさ、カナは……」
「すごい!すごい美味しいよ!お肉の焼き加減だとか野菜の程よい炒め具合だとか!そんでもってこのほくほくと煙の上がるご飯は罪だね!箸を止めさせてくれないよ!」
カナは一心不乱に食事に向かっていた。余程小林の作った料理が気に入ったようだ。
それを小林は満足そうに見ていた。
「あんまりがっつくと喉に詰まるぞ」
宇佐美がそう言った直後にカナはご飯を喉に詰まらせていた。
小林がすかさず麦茶を差し出す。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ……こんなおいしいご飯を前にしてリタイアするわけにはいかないからね……」
小林のおかげで事なきをえたカナは再び食事に向かっていった。
(まったくしょうがない奴だな……)
宇佐美が少し呆れていると小林が涙を拭っているのが分かった。
それに気づいた小林は少し照れた。
「わりぃ、気にしないでくれ……たださこういうなんて言うのかな……家族みたいな食事慣れてないだけだからさ……」
そういう小林の頭の上に宇佐美の左手が優しく置かれる。
「俺もだ」
宇佐美はぐしぐしと小林の頭を撫でた。
「そっか……」
小林は宇佐美に向かって笑った。その顔は父親を見るように明るかった。
「どんどん食べてくれよ、まだおかわりあるからさ!」
小林は白飯を一気に口に頬張る。
外は雨が降り始めていた。
雨の中の降る中、圧場は傘も差さずに墓の前で一人雨に打たれていた。
彼はこの時期になるといつも一人でここへ来るのだった。
「またこの時期がきたんだな……」
圧場は濡れる墓石を見つめ墓に向かって頭を下げてから墓に背を向け歩き出した。
「次に来るときは花を持って来れるようにするからな、進、良子……」
圧場は雨の中また歩き出した。




