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破銃  作者: ネコパンチ三世
7区~誰かに敷かれたレールの上で~
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強い意志

「大丈夫?」

 カナはペットボトルを使って汲んできた水をゆっくりとかけた。

「いって!もうちょいさぁ……」

 少年が何かを言いかけた時に宇佐美はカナからペットボトルをすっと奪い少年の傷口に水をぶちまけた。

「~~~~!」

 少年は痛みに声も出ないようだ。

「すまんな、もうちょいかけてくれと言いたいのかと思ったもんでな」 

 もう少しましなすっとぼけ方は無いのかとカナは思わずにはいられなかった


「もう!宇佐美さんは向こうで待っててください!」

 宇佐美は少し離れたベンチに座った。


「ごめんね、悪い人じゃないから」

 カナは宇佐美の事を誤解してほしくなかった。


「おう、てかさ……ありがとな、あと……ちょ……手」

 少年はカナに手を握られて少し照れてるようだったがカナは全くそれに気付かなかった。

「ん?別に気にしなくていーよ」

 カナは熱心に傷の手当をしている。

 少年の手をしっかりと握って。


「てかさ、名前はなんていうの?」

 傷の手当てをしながらカナは聞いた。


「小林……小林陽太って言うんだ、お前は?」


「カナ、苗字はないんだ」

 小林は驚いた、16年生きてきたが苗字のない人間に会ったのは初めてだったからだ。


「へえー変わってんだな、でよ……あのおっかねえおっさんは誰なんだ?」

宇佐美の方を指さしながら声を潜めて小林はカナに訪ねてきた。


「ああ、あの人は宇佐美さんで一緒にあちこち行ってるんだよ」

 カナは手当を終えて道具をしまい始めていた。


「一緒に!?まじかよすげぇな!あんなおっかないおっさんと?!」

 小林はあまりの驚きに大声を出してしまった。

 もちろん宇佐美にはしっかりと聞こえている。

 そのことに気付き慌てて小林は口を塞いだがあまり意味は無い。


「いつもは全然怖くないんだけどね、今日はどうしたんだろ?」 

 カナにはいまいち今日の宇佐美が分からない、見ると宇佐美がこちらへ歩いてきていた。

 

「終わったみたいだな」

 宇佐美は小林の前に立つと今まで聞きたかった事を聞き始めた。


「早速で悪いがこの区について知っている事を教えてくれ、小林」

 

「はっ……はいい!」  

 小林の中ではどうやら宇佐美に『逆らったらやばい人』という認識が付いてしまったらしい。


「この区の特徴は何といっても『遺伝子進路選定法』かな」

 

「遺伝子進路選定法?」

 聞きなれない単語に宇佐美とカナは声を揃えて聞き返す。


「一人一人の遺伝子の採取してその人に一番合った職業・スポーツ・進路とかを決めるんだよ。ちなみにこの決定は絶対だ、逆らう事は許されない」

 嫌な思い出があるのだろうか小林の声のトーンが下がる。


「さっきのもそれが関係してるのか?道反者とか言ってたな」

 宇佐美はさっきの少年の言葉が引っかかっていた。


「言ったろ?決定は絶対で、そこに本人の意思は関係ないんだよ。たとえ自分のやりたくない事でもやらなくちゃいけないんだ、それに反抗すると道に反する者つまり道反者って言われるんだ……ただ自分のやりたい事をしようとしただけなのに……」

 小林は拳を震わせている。おそらく本人にしか分からない苦しみがあるのだろう。


「だが、ほとんどの人間はそれで満足しているんだろ?違うか?」

 少し渇いた試すような声で宇佐美は小林に言った。


「そうだよ、最初は誰だって抵抗があるさ……でも!現にそれで成功してる奴だってたくさんいる!最初は嫌がってた奴も少しすればすぐに結果を出し始める!だからみんな満足そうにしてるんだ!」

 カナは小林の迫力に圧倒されたそれほどまでに強くはっきりとした叫びだった。


「なら、お前もそれに従えばいいだろう?お前も分かってるはずだその方がいいって」

 

「分かってる!でも!俺にはやりたいことがある!遺伝子とか誰かに決められた事じゃなく、自分の意志でやりたいことが!」

 小林はすべての思いを吐き出しうつむいた。

 そんな小林の肩に宇佐美が手を置いた。


「いいか?人は楽な方楽な方に逃げたがる生き物なんだ、お前の周りの奴みたいにな……でもお前は強く自分の意思を持って今日まで耐えてきたんだろ?それは生半可な気持ちじゃできない事だ」

 小林は顔を上げ宇佐美の目をまっすぐに見る。

 

「え……?」

 小林は宇佐美の次の言葉を待った。


「お前は強いよ」

 宇佐美の温かなまなざしが小林に向けられた。


「俺……うっ…うっ……」

 小林の中で何かが緩み目からは大粒の涙がこぼれた。


「さてとそれじゃあやるか」

 

「やるって何を?」

 涙を拭いながら陽太は宇佐美の方を見た。

 

「決まってる、この区を変えるんだよ。おっかないおっさんなりのやり方でな」

 宇佐美は小林に向かって笑いかけながら、手を差し出した。


「なんだよ……聞こえてたのかよ」

 小林は笑いながら宇佐美の手を握り立ち上がった。

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