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第九話 天国

「一生のお願いだ。俺が死んだら、目に布を巻いて埋葬を。必ずだ。頼んだぞ。生まれてくる前に、約束した人に、会いに行くのだ」

「どういう事です、それは罪人の埋葬方法ではありませんか! あなた、そんなことしたら、地獄に落ちてしまいます」


「違う。混乱させて悪いけど、ネフィー。行くのは地獄じゃない、地界だよ。俺にとっての天国だ。優しい場所だ。もう一度会いに行くと約束した。俺は罪人では無いよ。だから頼むのだ。お前にしか頼めない。お願いだ。とても優しいものがたくさんいて、とても安らかに過ごせるんだ・・・だが、秘密にしてくれよ」

「あなた・・・」


「悪人は地獄に落ちてエサになる。喰われる。悪人にならず、目を覆った埋葬を。気が向いたら、お前も来るか・・・? 地界では、決して目を開けてはいけないんだ。約束した。優しい人たちを悲しませるから」


***


「ねぇ、私を埋葬する時は、目を覆ってちょうだい。お願いね」


「ふふ、地獄になんて、落ちないわ。こうすると、天国に行けるのよ。でも、秘密よ。秘密の方法なの。とても暗い場所だから、目は開けてはいけないのよ。とても優しい、いいところ。私、死んだら、そこに行くの」


「あらやだ、心配しないで。私、まだまだ死ぬつもりなんてありませんから。でも、もしもの時は、お願いね。大丈夫、死にたいなんて、思ってないのよ。やりたいことが、たくさんあるのよ」


***


「死なないで。目を開けて、ルブ、起きてよ」


「死なないで、死なないで、あぁ、駄目だ、どうして、駄目だ、お願い、蜘蛛、この子を、連れて行って、お願い、地界に連れて行って、守って、僕の時みたいに」


「ルブ、安心して、天国じゃないけど、天国より楽しい場所に、連れて行ってもらおう。目を覆っていれば良いんだって、目、覆うよ、良いよね。レンガ様に、先に会ってきて。蜘蛛が三匹いるんだよ。すごく楽しいんだ。いろんな話をしてくれるよ、だから、先にいってて、待ってて。ルブ、カルネルブ、」


***


レンガは少女に首を傾げてみせた。

「どうも、最近妙に、地界を願う者が多いようだ」

「思うのですけど、3人、人界に戻ったでしょう。記憶も持ったままなのでしょう?」

「そうだが。たったの3人だぞ」

「レンガ様。たったの3人と言っても、噂とか、広がるものですよ」

「噂?」

「はい。そういうものです」


レンガは黒い翼を広げて、真っ白い翼を広げている少女が見つからないように覆っている。

夜中に行動する事が多いので、真っ白い少女の翼は目立つのだ。


二人は墓地に来ている。地界のものが知らせて、レンガと少女は人界を飛び確認しに来た。

レンガの天界人の権限で持って、墓の蓋が跳ね上がる。

暴かれた墓の中、眠っているのは、目を布で覆って埋葬された老人。

「あの3人では無い。知らない者だ」

「どうぞ、こちらへ」

少女が手を差し伸べると、老人の身体に留まっていた魂がふわりと浮かび、光になってついてくる。

レンガが蓋を開けた保管箱に、老人は収まっていく。


「うーん、こうなると、本当にフィルトレンの予言がシャレにならないな」

レンガが困って呟くと、少女がクスクスと笑って、レンガにすり寄った。

「良いではありませんか。大勢で楽しくて」

「・・・そう、だな」


いきなり大蛇や大グモが行ってはマズイ、気の毒だと地界のものたちは言い、埋葬者に気づいてはレンガたちに迎えに行かせる。

そして地界に連れて来る道中で、よくよく心得を言い含めるようにと言われている。

一つは、そもそも人界が憧れる天国では無いのだと言い聞かせる事。

一つは、決して目を開けぬこと。そもそも真っ暗だが、見えてしまえば恐ろしい場所だと言い聞かせる事。

一つは、罪人では無いのだから、存在はきちんと扱われるから安心するように、という事。


地界は今、呆れながらも、人界のものたちを受け入れている。


***


ヤギのフィルトレンは、レンガに、

『働け、天界人として働け』

と言った。

『女房もできた事だ。揃って働け』

「いや、彼女は、どうしてだか羽根が生えただけで・・・」


天界人を好んで食っているという地界のものが、少女は喰わないと誓った後で教えてくれた。

『確信したが、天界人は、相互の意志の同意に基づき、相手を天界人に変える能力を持つ』

「・・・え」

『天界は、人を天界人に生まれ変わらせる。その能力の一端であろう』


『そもそもお前に性別がある時点で、こうなる事は予想されたが』

フィルトレンが、話を引き取ってこう述べた。

『とにかく、一度に5人も子を産んでおいて、「どうしてだか羽根が生えた」などとは情けない言よ。それもこれも必要だからだ。いいか、聞け。ここに5人も天界人が生まれたのは、それだけの人がこちらに来る前ぶれだ』


まさか、とレンガは思った。人間であった少女も初耳に違いなく、驚いてフィルトレンの言葉を聞いている。

しかし、正しかったのである。

墓に迎えに行く者は、どうしたって、レンガと少女だけでは数が足りなくなっていた。


なお、一度に五人も生まれた子どもたちは、白や灰や黒やまだら色で、早く自分も空を飛びたいと言いながら皆と楽しそうにして育っている。


ちなみに、フィルトレンは予言をしている。

『5人などで足りるものか。恐らく、こちらが天国になるぞ。良いか、お前たち。次々と記憶を保ったままなどとんでもないぞ。ここに来た者全て、お前たちで天界人に生まれ変わらせなければならぬ』


***


人界で、今日も亡くなる。悲しみながら、家族はまず目を布で覆う。

「どうか天国で安らかにお過ごしください」

揃って祈る。


***


夜に、黒や白や灰やまだら色の翼が、墓に舞う。

魂を天国に連れて行く。


***


一方、罪人は、目を覆うことは許されない。

白い光に目を焼かれて裁かれる。連れて行かれるのは、冷酷な地獄。


***


黒い地界に、賑やかさが溢れる。

いつか人界に帰るようにと教えられながら、それまでを安らかに過ごしている。



墓を暴く者  END

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