焔帝レーヴァテイン、顕現!
「アマネ様、
「焔帝」の能力も大分自由且つ応用を利かせて使えるようになりましたね。
そろそろ休憩と致しましょう」
いままで組織 組織と何度も言われたがピンときていなかった。
だけど、ナオトの訪問は、私にとって明確な敵の出現を実感させるに事足りた。
居ても立ってもいられなくなり、ウンリュウさんに頼んで、「神機」の能力を使いこなす訓練をつけてもらっていた。
夕方とまではいかないが、日が大分傾いた頃になってようやく休憩を取ることになった。
神社の裏手の開けた場所は、私が寝たあと、ウンリュウさんの式神によって舗装され、綺麗な石畳となっており、木もある程度伐採され、「焔帝」の炎が燃え移るものはなくなっている。
「能力の行使は問題ないかと思われますので、組織の雑魚程度なら焼き殺せますよ」
相変わらず言い回しが物騒なのに微笑んでいるウンリュウさん。
なんか慣れてきたのは問題かしら?
ウンリュウさんの言葉に苦笑いしつつ、そばに駆け寄ってきたチノちゃんからお茶のペットボトルを受け取る。
「でもそんなすぐ組織が攻めてくるなんて・・・」
ズガアアアァァァァァアアアアアアン!!!!!
私たちから10mほど離れた所の石畳が、轟音とともに盛大に土煙を上げた。
「・・・フラグだったかぁ」
心底自分が吐いた言葉を後悔した。
「うひゃあ!」といいながらチノちゃんは飛び上がった。
続けてチノちゃんの周りの空間が歪み、その歪みに紛れるかの様に、小さな巫女服少女は姿を消した。
チノちゃんが隠れたのを確認しながら、ウンリュウさんは微笑みながら、不思議そうに尋ねてきた。
「フラグ…とは何でしょう?旗でございますか?」
「ウンリュウさん、その説明はすぐには答えられないから後にしてもいい?」
土煙が晴れると、そこにはいかにも「体力で勝負です☆」といった感じの屈強な男が立っていた。
金属光沢のあるグレーに黄緑色のギザギザしたラインの入った奇妙な仮面をつけており、表情は一切わからない。
「何あの仮面、趣味悪・・・」
「あの出で立ちは十中八九組織の人間ですね」
男はコキコキと数回首の骨を鳴らし、こちらへ視線を戻した。
「俺は、「神殺」特殊戦闘員アサギだ。
ヤマブキ様の勅命により、貴様らの排除及び「神機」の回収にはせ参じた」
あ、自分から名乗った。
この人「武人」かなんかなの?
てか「ヤマブキ」って誰?
「「守巫女」の孫よ。お前に恨みはないが、ここで消えてもらう!」
言うが早いか、アサギと名乗った男は両腕を前に突き出した。
すると、その両前腕部を覆うように鎧のようなパーツが現れた。
しかもその鎧の先端…つまりは腕の先からは三本の太い爪がついている。
「な、なにあれ?!」
「はい。
以前お話した「武装化」でございます」
「そうだと思った・・・」
軽く肩を落としため息をつく。
アサギはその屈強な体躯も相まって、とても凶悪な野獣のようなシルエットとなっており、さながら腕だけがドラゴンのように変化したかにも見える。
「行くぞ!!」
「ううぇ!?」
アサギは一気に距離をつめて来た。
寸での所で身を翻し、その地面を抉る様な一撃をよける。
「ウ、ウンリュウさん!あれ当たったら死ぬヤツだよ!!!」
「そうですね、ひき肉になってしまいそうな攻撃です」
「怖いこと言わないでよぉ!!」
やはりウンリュウさんの笑顔は微動だにしない。
更に二撃目、三撃目と繰り出されるアサギの攻撃を、何とか紙一重の所でかわす。
「お望みならばひき肉にしてやろう!」
「望んでないし!!!」
四撃目をかわした後、できるだけアサギと距離をとった。
「こうなったら、やってやるんだからね!!」
右手を突き出しイメージする。
すると手のひらから野球ボール大の火の玉が発射され、まっすぐとアサギに飛んでいった。
だがアサギは、防御も兼ねているその手甲で、いとも容易く火球を払い、打ち消してしまった。
「火力はあるようだが、まだまだ甘い」
再び距離をつめようとアサギは走り出した。
即座に地面に手を当ててイメージする。
次は地面から噴出すように炎が立ち上り、私とアサギの間に業火の壁が立ちはだかった。
しかし、
「迂回できる壁など、無いような物だ!!」
しまったぁぁああ!!!
目の前にしか壁出来てないいい!!
普通に横からこっち側に来れるじゃん!!!
炎の壁を回りこんできたアサギの攻撃を間一髪よける。
危なかった!あとちょっと遅かったら、脚がミンチだった!!
【昨日の今日でもう戦いか?今回の「巫女」は忙しないヤツだ】
不意に脳内で声が響いた。
誰かに声をかけられたと言うよりは、頭の中で話をされているような感覚。
聞き覚えがある声。
むしろ忘れることは無いであろう声。
「焔帝のじいちゃん!?」
【じ、じいちゃんだと!?この炎の頂点たる我を近所の老人のように呼びおって!!】
「ちょっと今結構ピンチなの!ミンチになるの!!」
【ピンチだのミンチだのどっちなのだ小娘】
キョロキョロしてみたが、昨日の影はどこにも居ないどころか、あの黒い世界でもない。
現にアサギがいまだに私に向かってその強靭な爪を振り下ろしてきている。
「ごちゃごちゃと誰と話している「守巫女」の孫!!」
やっぱり私にしか「焔帝」の声は聞こえていないようだ。
「べつに!なんか「神機」さんが話しかけてきたからね!」
「神機が話し?気でも狂っているのか?」
ん?
「神機」って・・・喋らないと思ってる?
不意にウンリュウさんが大声をかけてきた。
「アマネ様!「焔帝」が話しかけてきたのですか?」
「話しかけてきたぁ!!」
「ならばその声に従って下さい!!」
「わ、わかった!!」
アサギが大きく振りかぶった隙を突いて全速力で距離をとる。
その一撃で仕留めようと思っていたのか、アサギの爪は大きな音と土煙を上げて地面に深々と刺さる。
「焔帝のじいちゃん!今ならいいよ!」
【その呼び方は解せぬ】
めんどうなじいちゃんだなぁ・・・!
「わかったから「焔帝さん」!」
【・・・まあいいだろう。
先ほどまでの貴様の炎の能力の制御。ギリギリ及第点と言った所だな】
「説教しに来たならあとにしてよぉ!!!」
【わ、わかった。何なのだまったく…。
では、貴様に我が力の更なる一端を与えよう】
急に左手首のリングが赤く発光した。
見る見るうちに、更に濃く、強くリングは光り輝く。
地面から爪を引き抜いたアサギも、その強烈な光を目にし腕で防ぐようなしぐさを見せる。
【さぁ我が名を呼ぶがいい!】
「・・・焔帝?」
【正式名称だ!】
「あ、ごめん」
左腕を前に突き出すと、目には見えていないが何かを手にした感覚があった。
何かの持ち手のようにしっくりと手に馴染む。
私は意を決して両手でその見えない持ち手を握り締めた。
「焔帝…レーヴァテイン!!」
名前を呼んだ瞬間、持っていた何かが強大な炎を吹き出した。
炎はやがて渦を巻くように形を成していく。
不思議なのは一切熱さを感じないことだ。
目の前で渦巻く炎を見つめて数秒。
突然何かがわかったような…パズルのピースがはまるような、そんな感覚を感じ、
一気に炎の渦から持ち手を引き抜いた。
私の手には、見えるようになった持ち手が握られており、その先には炎の意匠が見て取れる鍔。
そして長さで言えば1.5mはありそうな巨大な刀身。
峰は無く両刃で、刃はメタリックとも言える光沢のある紅蓮。
刀身の中央には炎の様な模様が金色で描かれている。
驚くことに、こんなにデカイのに…重くない。
重さはあるが、持っても苦ではないちょうどいい重さ、といった具合。
数メートル先に立っているアサギは、仮面で表情は見えないが、明らかに驚いているのはわかった。
「ぶ、武装化しただと!?組織で調整も受けていない小娘が!?」
なるほど…組織とやらの人間は、なにかしらの「調整」なんてことしてるんだ・・・怖ッ!!
「だが…命令は命令!貴様を排除することに変わりは無い!小娘の次は巫女服だ!!」
アサギは再びその両腕の爪を構えて走りだしてきた。
「こっち来ないで、よ!!!」
とりあえず手にした紅蓮の大剣を全力で振り下ろす。
ズゴァァアアアアアアアアアアン!!!!
とゆう、今までで一番盛大な爆音が鳴り響き、一番激しく土煙が立ち上がった。
「や、やっちゃったんじゃないコレ・・・」
視界が開けると、そこには、先ほどまでアサギが立っていた場所まで深々と斬撃の跡が伸びていた。
アサギ自身はそこから数十センチほどズレたところに膝をついている。
「な、なんだこの威力は・・・!!幹部クラス・・・いやそれ以上!!??」
土煙は既に晴れているが、斬撃の後からは煙が立ち上っており、周辺の瓦礫も煤で黒くなっている。
肝心の刀身からはまだ軽く火の粉が散っている。
「ええい小癪な!!」
こんな威力の攻撃見せられたら退くのが上等だと思うんだけど…。
アサギは尚も果敢に立ち向かってきた。
「ぬああああ!!!」
合計六本の爪を使った強烈な一撃。
私はそれを大剣で受け止める。
・・・あれ?
受け止めたよね?
カララン!という音がして、足元を見ると、先ほどまでアサギの手甲についていた爪が六本全て、爪だけの状態で転がっていた。
とっさに後ろへ3歩ほど下がる。
自分の腕…というより手甲を見つめているアサギ。
数秒の後、その手甲は地面に転がる爪と一緒に、細かな光の粒となって消えてしまった。
アサギの腕自体は無傷のようだ。
びっくりした。腕ごと切り落としたんじゃないかと思った。
・・・まあ切れ味的に、ちょっとズレてたらありえたかも。
「ね、「ネメアレオン」が斬られただと・・・なんだあの切れ味は!?」
アサギはなにかをぼそぼそとつぶやいた後、こちらに顔を向けた。
「貴様・・・次はこうもうまくいくと思うなよ!!」
わぁ・・・雑魚っぽい・・・。
捨て台詞を吐いたアサギは、人間とは思えないジャンプで飛び上がると、そのまま森の中に消えていった。
それを見送ると、ウンリュウさんが軽く拍手をしながら歩み寄ってきた。
「アマネ様、これで「武装化」もできましたね。
「組織」との戦いに向けてはコレで心配ないかと思われます」
ウンリュウさんは常に微笑んでいるが、なんとなくそれが感情を伴った微笑なのか、意図的に作って貼り付けた微笑なのかわかってきた。
今の微笑みは、紛れも無く前者だ。
~~~~~
「なんなのだあの「神機」は!」
森の中をグレーに黄緑のラインが入った仮面をつけた男は荒々しく歩いていた。
道らしい道ではないが、一直線に歩いており、目的地は明確にわかっているようだ。
途中、川の中流に出た。
自然の川であり、魚影もいくつか見て取れる。
仮面の男=アサギは一息つこうと、その川辺に歩み寄った。
「ダァメダメじゃん、アサギぃ」
不意にかけられた声に、アサギはとっさに構えた。
が、そこに居た人物を認識すると、すぐに肩膝を突いて頭を下げた。
「も、申し訳ありません、コクシ様…」
少し離れたところにある大岩の上に、ペスト医師のような奇妙な仮面をつけた少年が、足を組んで座っていた。
そのそばには、同じくペスト医師のような鈍色の仮面をつけた女性も立っている。
「一応離れたとこから見てたんだけどねぇ?どうだったあの「神機」は」
少年=コクシは意地悪な声色でアサギに問いかけた。
「はい…私の「凶獣ネメアレオン」が…いとも容易、やられました…」
ばつが悪そうにアサギは報告する。
「それは知ってるって。戦って感じた事をきいてるの」
兆章混じりにコクシは再度問いかける。
「は、はい・・・化け物・・・でした」
「へぇ~・・・化け物か」
仮面に隠れて見えないはずにも関わらず、アサギには、コクシがニヤァ~っと笑ったように思えた。
「なるほどねぇ~。
偏屈ばあさんの孫は「化け物」か・・・はは!おもしろいねぇ!」
コクシは、そのクチバシのように飛び出た仮面を指でなぞった。
「おっけ~!ありがとさん…えっとアサギだったっけ?もう行っていいよ」
コクシは手をひらひらと振った。
「は、はい」
アサギは立ち上がった瞬間、胸に嫌な違和感を感じた。
目線を下ろすと、そこには自分の胸から生える、血で真っ赤に染まった腕が、まだ鼓動を脈打つ心臓を持っている異様な光景があった。
「あ・・・え・・・?」
アサギの後ろにはいつの間に移動してきたのか、コクシのそばにいた女性=スズが立っていた。
アサギの胸から生える腕はスズのものだったことが状況から見て取れる。
腕がゆっくりと引き抜かれると、ポッカリと穴が開いたアサギの体が、人形のようにその場に崩れ落ちた。
「ちゃんと行けたかな?あの世に」
スズは手にしていたアサギの心臓を川に投げ込んだ。
餌か何かと勘違いしたのか、何匹かの魚が投げ込まれた心臓を勢いよく啄ばみ、バシャバシャと水しぶきが上がった。
「さてと、帰ろっか」
ピョンっと岩から飛び降りると、無邪気な少年のように鼻歌を歌いながらスズのもとに歩いてきた。
地面に転がるアサギの体を、まるで見えていないかのように踏みつけながらスズの横を通り過ぎる。
鈍色の仮面で表情は見えないものの、スズは数秒アサギの遺体を見つめ、すぐにコクシのほうを向いた。
振り向く際、仮面が日の光の反射で、一瞬涙のようなラインを描いたが、杞憂かどうか、そんな素振りは一切なく、ロボットのようにつかつかとスズは歩き始めた。




