㷔帝との謁見
神社の裏に位置する開けた空間。
ウンリュウさんに案内され、私はそこにやって来た。
ちなみにチノちゃんはもう眠いとか言って、今はいない。
「「闘巫女」は「神機」を手にした時に、その能力を読み取り自在に操る力を持っております。
ただし、読み取れる能力の上限は、「闘巫女」自身の精神力に依存して変動します」
「えぇっと…」
聞き慣れない言葉が多すぎて、困惑してきそう…。
「つまり、心が強ければ強いほど「神機」の能力を存分に使えると言うことでございます」
とても分かりやすい解説に感謝します…。
「まずは「㷔帝」の基本的な能力である、炎の操作を覚えて貰います」
そう言うと、ウンリュウさんは「ぴー!」っと指笛を吹いた。
途端に、何処からともなく3人の巫女服少女が現れ、私たちから少し離れたところに石灯籠を作り始めた。
「あ、あの子達は…?」
「アレは私の式神でございます」
「式神の式神ですか…」
「まぁ私自身、本来の式神とは違いアマギ様の魂を糧に作られておりますので、特別ということでございます」
そんな話をしている内に、石灯籠は完成していたし、
その式神少女達もかき消えてしまっていた。
てか、こんな短時間で、あんなちゃんとした石灯籠を作るって…やっぱ人じゃないわ。
「それでは、
あの石灯籠に明かりを灯していただけますか?」
「え?明かりを?」
「はい、単純に火をつければいいのです。
「㷔帝」の力を使って、でごさいますが」
今の私の顔、そうとう変な顔だと思う。
でもまぁ、さっきから巻き起こってる非日常な現象の数々から、
なんとなく出来そうな気はしてる。
「いっちょやってやりますか!」
左手を石灯籠に向けて伸ばした。
「明かりよ、灯れ!!」
・・・。
・・・。
・・・。
「…かなり恥ずかしいんですけど」
石灯籠に火は点かないどころか、
マンガみたいな台詞を大声で言った私を、ニコニコと見つめているウンリュウさんの視線が痛い。
「方法も説明していないのに、とりあえずやってみるそのチャレンジ精神は素晴らしいですが、
先ほども同じように先走って「㷔帝」を装着していましたよね」
優しい笑顔が逆に怖いです。
「教えて下さい…」
「はい。
先ほどもお伝えした様に、「神機」の能力は精神力に依存します。
そして、その操作はしっかりとしたイメージを基に形を成します。
つまりは、
石灯籠に火が灯り、明かりが点く事をイメージするのでごさいます」
イメージか…。
再度、左手を石灯籠に向けて伸ばし、目を閉じた。
暗く寂し気な雰囲気の石灯籠。
その中心に火が灯り、辺りが暖かな光が・・・。
「アマネ様!!」
「うぇ?!」
ウンリュウさんの大声でビックリして目を開くと同時に、強烈な熱を感じた。
私の視線の先には石灯籠がある。
それはさっきと変わらないが、
全体が巨大な業火に包まれており、もはや「灯篭」というより「キャンプファイアー」状態になっている。
「こ、これ私がやったの!?」
「はい。
能力の発現は出来たと言っても良いですが、それにしても最初にこの威力の炎というのは…」
確かに、
私のイメージとは全く違う強大な炎の塊。
「ではアマネ様。
あの炎を小さくして下さい」
「え?」
「これも能力を操る一環です。
あの巨大な炎を、少しずつで良いので小さくして、しっかりと石灯籠に収めて下さい」
「わ、わかった」
私は両手を前に伸ばしイメージした。
徐々に小さく。
イメージ通りの小さな炎に。
優しい灯りに。
***
気がつくと、何もない真っ暗…いや真っ黒な空間に立っていた。
体は動かない。
「え!?な、なに!??
ウンリュウさん!?」
声は出るが、返事はない。
視線をキョロキョロさせてもなにも見えない。
不意に声が聞こえた気がした。
【アバレタイ】
実際に聞こえているのか、空耳なのかは分からない。
【ナガネン、ネムラサレタ】
言葉が脳裏に浮かんで来ている、といった方が良いだろうか?
【スベテ、モヤシツクス】
「さっきから何言ってるのよ!!出てきなさいよ!」
【キサマモ、モヤシテヤロウカ】
暗黒の空間、私の周囲に業火が広がる。
まさか…この声。
【セカイヲモヤシツクセル、ワガ ホノオ!】
「あなた、「㷔帝」…?」
【如何にも、我が名は「㷔帝」。またの名を「レーヴァテイン」】
急に目の前に、巨大な剣を持った人影が現れた。
モヤがかかった様にちゃんと見えないものの、人なのは分かる。
【炎とは、古来より「怖れ」を与えてきたもの。その頂点に君臨する私の名を呼んだのは、貴様か?】
あぁ、なるほど。
「神機」って、意思がある系のヤツだ…。
【炎の恐ろしさも知らぬ痴れ者よ、我が炎に包まれ消し炭となるがいい!】
「さっきから怖いとか恐ろしいとか、そればっかりなのね」
【何?】
「炎は怖いって、なんかアホらしいと思っちゃって」
【貴様ッ!!】
私は、目の前の人影を睨みつけた。
「おばあちゃんが言ってたもん!
火は炎になると怖い事もあるけど、接し方を間違えなきゃ、あたりを照らして、料理が出来て、みんなが暖まれるって!!」
目の前まで迫っていた業火が、止まる。
なおも私は人影を睨みつける。
【ふ、ふははははははははは!!!!
合格だ、小娘よ!
その通り。
炎とは小さな火の集まり。
扱いを違わなければ、人々に恩恵を授ける「温もり」の象徴だ。
名を聞こう、炎を恐れず火を理解する小娘よ】
「神護 アマネ…です」
【カミモリ…なるほど。
あの「守巫女」の…孫にあたるか?】
「おばあちゃんを知ってるの?!」
空間に広がっていた炎が一瞬で引き上げていき、辺りは再び暗闇に包まれていた。
だが、目の前に人影がある事だけは認識できて、とても不思議な感覚だった。
【あの「守巫女」も「火」を理解していたな。
なかなか面白いやつだったぞ。
平然と、この炎の頂点たる我に説教をしてきたくらいだ】
はは、おばあちゃんらしいや。
【「守巫女」の孫…カミモリ アマネ。
貴様が、我が力を使うことを許そう。
如何程に操れるかは貴様自身の問題だ】
その言葉が聞こえた瞬間辺りが真っ白な光に包まれた。
***
「…ネ…マ!
アマ…マ!
アマネ様!」
「うぇ!?」
気がつくと、辺りはさっきと同じ神社の裏の開けた場所に戻っていた。
「アマネ様、炎が!」
ウンリュウさんに言われて、遅ればせながら気づいた。
石灯籠を覆っている業火は変わらないが、
更には地面の草や、その奥の森の木々にも少し飛び火していた。
「このままでは山火事に発展してしまいます!」
さすがのウンリュウさんも慌てている様だ。
でも不思議と、私の中には静かな感情が漂っていた。
「怖がらなくても…大丈夫!」
左手を燃え広がる炎かざした。
私の中で、何かを掴んだ感覚が広がった。
そして、手を払った瞬間、
炎は全て消え去った。
「ほらね!」
ウンリュウさんは、何が起こったのか分からないという様な表情を一瞬見せたが、
さすがは式神。
すぐに現状を理解した様で、優しい笑顔で頷いた。
「それに、ほら」
そう言って私は石灯籠を指差す。
その中心に、柔らかな明かりであたりを照らす、小さな火を灯した、簡素な石灯籠が立っていた。
「まさかとは思いますが、「㷔帝」に認められたのでございますか?」
「んん?どうなんだろ?
でもなんか合格とか言ってたから…そうなのかな?」
「あら…「㷔帝」とお話ししたんですね。
ならば、あまりお伝えする事は無さそうですね」
ウンリュウさんの表情は相変わらずの微笑み顔だけど、
今の微笑みは、ちゃんと優しい感情がこもっている様に感じた。
〜〜〜
降神神社の屋根の上で、事の一連を見ていた人影が2つ。
1人は、特徴的なクチバシ風の意匠が施された、濃い紫のラインが走る仮面を付けている…コクシ。
もう1人は
同じ様なペスト医師風の仮面だが、全体的に鈍色で、走るラインも白となっていた。
体格からして、コクシよりは年上の女性である。
「なぁんかヤバイ反応が有るって聞いたから来てみたらさあ…ホントにヤバイんじゃないの?」
コクシは飄々と言う。
「ですが、あの程度の炎ならば敵では無いかと」
「へぇ〜、スズにはそう見えたんだ…」
「というと…?」
「あの炎、結構ヤバイよ。
なんつぅかさ…火の王様?」
若干笑い混じりにコクシは言った。
「王様…ですか」
スズと呼ばれた女性は、少し不思議そうな声を漏らす。
社務所の方に消えていく2人を見送り、コクシとスズもその場を後にした。




