訓練と試作品
「明日の学年サイクリングだが、遅刻するんじゃねぇぞぉ」
いつもの事だが、気だるそうに担任はそう言って帰りのHRを終了とした。
ウスアイの襲撃以来、組織からの刺客が来る事は無く、
比較的平穏な日常が1週間程続いていた。
その1週間は、ぐうたらしていたわけではなく、私なりに危機感も感じていた事から、
ミウミに頼んで戦闘訓練を放課後に行っていたわけで…。
〜〜〜
「ほらアマネ!次行くよ!!」
「ほんと、手加減ないんだから…ッ!」
刃の付いた弓をミウミは振り下ろして来るのに対し、私は「レーヴァテイン」で受け止める。
ミウミの操る「神機」は、「天使剣弓ルシフェル」と言い、
一見、持ち手の両端から刀身が伸びる「双刃刀」の様な造りだが、あくまでそれは近接戦闘時のオプションらしく、本来は弓として扱うもの…
とかなんとか説明されたけど、それ以前に…アーチェリーの選手ってこんなに運動神経いいの?!
10mほどの距離があると思えば、一気に近づいて来て、切り掛かってくる。
かと思えば、いつの間にかこちらの射程外に移動している。
言い方は悪いが、ただ立って的を射るアーチェリーや弓道では絶対にありえない運動量で、こちらを翻弄してくる。
「ほらほらぁ〜、大剣は見掛け倒しなの?」
「ミウミでもあったま来た!「イザナミ」ッ!!」
両手で握っていた大剣「レーヴァテイン」が火の粉となって消える。
同時に両手を包む様に風雪が現れ、次の瞬間には、私の手には青白い強固な鉄扇が握られていた。
私のもう一つの「神機」である「黄泉凍妃イザナミ」の武装だ。
この1週間の訓練で私ができる様になったのは、「略称」での「神機武装化」くらいだったけど、
まぁ戦闘でいちいち相手に「神機武装化」を待ってもらえるわけではないので、かなり重要な技だ。
「取り敢えず動きを止める!!」
周囲の空気が私を中心に渦を巻くイメージを固め、「イザナミ」を構えてその場で一回転する。
特訓でまず鍛えられたのは「イメージ力」だった。
使える能力がどういうものか、そしてその能力をどう使いたいか。
それを理解し、イメージによって具体化し、技として操る。
1週間の内半分くらいイメージ力鍛えさせられて頭がパンクしそうだったわぁ〜。
「凍っちゃえ!!」
1回転し終えると同時に私を中心に半径4〜5m程の地面が凍りつき、その鋭利な結晶が剣山を連想させた。
「ちょ!危ないじゃない、刺さったらどうするの!」
そう言いながらも、ミウミは氷の結晶の上に立っている。
地面が凍る瞬間にジャンプし、出来上がった結晶に着地したのだ。
「刺さらないくせに」
ミウミに向けて扇子を振るい、氷の弾丸を数発放つ。
ひらりひらりと弾丸を避けていくミウミは、なんと言うか…踊っているように軽やかな動きだ。
「もぅ、アマネ〜?訓練なんだよ?」
「本気でかかって来いって言ったのはミウミだもん!!」
「まぁねぇ〜、さぁて、初勝利を取れますかな?」
ドヤ顔がムカつく!
今日ばっかりはやってやる!
ミウミは、私の攻撃を避けつつ、手にする弓…「ルシフェル」で反撃をしてくる。
氷の壁を瞬時に作り上げる事でそれは、防げる。
が、
言ってしまえば、戦況はその状況で動かなくなった。
ミウミは私の攻撃を避け、私はミウミの攻撃を防ぐ。
距離も縮まらず、ダメージもない。
「ちょっと訓練なんだから泥仕合いにしたらダメだよ?」
ミウミもそう言い始めた。
「そろそろかな…」
鍔迫り合いなどと大層なものでもないが、戦況が止まってから約3分ほど経った。
既に結晶化していた氷も、溶けて水になり始めており、大きな結晶が幾つか残る程度である。
「なにがそろそろか分かんないけど…そろそろなのはこっちも同じかな!」
そう言ったミウミだったが、着地した場所が悪かった。
まだ残る大きな氷の結晶を踏み台にした途端、その結晶が割れたのだ。
「きゃっ!」
勝機がそこに生まれたのを感じた。
「今ッ!「レーヴァテイン」!!!」
私は即座に「イザナミ」を手放し、その両手に巨大な炎の化身でもある大剣「焔帝レーヴァテイン」を顕現させた。
「はぁぁあああああ!!!」
掲げた大剣は、その刀身からかなりの熱を放出し始める。
それは周囲に残っていた氷の結晶さえ一瞬で蒸発させるレベルだ。
そんな高温の水蒸気を前に、ミウミは目など開けていられるはずもなかった。
「あっつ!!」
え?私?
そもそも、炎の頂点たる「焔帝」を持つ人間が熱に弱いはずがないのであ〜る!
私はまっすぐとミウミを見つめ、一気に間合いを詰めた。
「はっ!?」
「うらぁぁあああ!!!」
寸前でなんとか目を開いたミウミだったが、既に私が振るった大剣は避けられないところまで迫っており、
苦肉の策として「ルシフェル」でその一撃を防いだ。
いや、苦肉とか言いつつ、あの反応速度で攻撃を防げるのはまずありえないはずなんだけどね?
渾身の一撃に弾き飛ばされたミウミは、そのまま数mの距離を吹き飛び、地面に転がった。
「そこまででございます!
アマネ様、やっと白星を挙げられましたね」
私達の勝負を止めたのは、式神のウンリュウさんだった。
そう、
放課後訓練はいつも、神社の裏手で行っていたわけで、
いつも、どんなに壊しても一晩…強いては数時間でウンリュウさんの式神が綺麗にしてしまうこの場所は、本当に戦闘訓練に向いていると思う。
始めて「レーヴァテイン」を振るって作った、地面を抉るような深い斬撃跡も、次の日には綺麗さっぱり無くなっていたくらいだし。
ウンリュウさんは私に歩み寄って来て微笑んだ。
その後ろから現れたチノちゃんや他の式神達が、ミウミに駆け寄っていた。
まぁミウミはアレだけの攻撃を食らってたのに「あ〜やられたわ〜」とか言って無傷だし…。
あの子見かけによらず、本当にタフだわぁ…。
〜〜〜〜〜
「研究はどうだ、ヤマブキ」
見るからに怪しい研究でもしていそうな部屋にて、PCをカタカタといじる女性に、
白地に青いラインが走る仮面を付けた男=ネイビーがら部屋の中に入りながら声をかけた。
女性の方も、白地に金の模様が描かれ左目に羽の様な装飾が付いた仮面を付けている。
「ちょうど、先ほど試作品が出来上がった所よ」
そう言って女性=ヤマブキは、手元のキーボードをカタカタと操作した。
すると、壁だと思っていた部分がゆっくりと展開した。
そこには何本ものコードに繋がれた
人型の何かがあった。
「ほぅコレが…さすがは「神機研究管轄」の総取締だな。
研究員が束になって完成しなかった物を3日で完成させるとは」
「なに言ってるの。これはあくまで試作品。完成じゃないわ。
まだ問題点が細かく残っているし、稼動実験も行わなくてはいけないもの」
「そうか。それなら件の「闘巫女」にぶつけてみるのはどうだろう?」
ヤマブキは少し考えるような素振りを見せた。
「それは構わないけど…コレも壊されるのはちょっと嫌なんだけど?
不眠で作ったのよ?」
「確かにね…しかしあのお坊っちゃまには困ったものだよ」
ネイビーはそうは言っているが、声色自体はどちらかといえば楽しんでいる様に聞こえる。
「お坊っちゃま…ってコクシの事?」
「あぁそうだよ。
あの子はこの組織の中で最も残虐な性格をしているからね?
我々組織の面々がそれぞれに共通の目的を見据えているにも関わらず、彼だけは単に「神機」とゆうオモチャで遊びたいだけだからね?」
「なら、なんであの子は幹部の座に就いているのかしら?」
ヤマブキは怪訝そうに尋ねる。
「別に深い意味は無いさ。
単に彼が最も多く、この組織に投資してくれた財閥のご子息だからってだけさ。
それに、彼の操る「神機」自体が面白いからさ」
ネイビーの言葉を聞いてヤマブキは溜息を吐く。
「本当にお坊っちゃまだったのね…初耳だわ」
「そりゃね。
組織の面々が表でどんな人間なのかは普通喋らないし、根本的に興味が無い。
みんな組織の「目的」のみに興味が有って動いているからね」
そう言うと、ネイビーは踵を返し部屋の扉に向かって行った。
出て行く直前に振り向き、ヤマブキを見た。
「まぁ取り敢えず早めにその「試作品」とやらを完成させたいからね。
明日にでも稼動実験をしておくれ」
「分かったわ。調整しておく」
「ふふ」っと笑った後、ネイビーは部屋を後にした。




