第3話 神引きとSR武器
「……痛みは、ないんだな」
そっと首元に手を添える。首を切られたはずなのに、皮膚には傷一つ残っていない。
あれほど恐ろしい目にあったにも関わらず、アキラの心はやけに落ち着いていた。
スマホを見ると、ライブ配信の視聴者数が「3」になり、コメントも増えている。
名無し:【初見です】
名無し:【今のリザードマン、一層で出るやつじゃないぞ? おかしくね?】
ベテラン:【いい死にっぷりでした】
(案外……コメントを貰うのって嬉しいもんなんだな……)
自然と笑みがこぼれた。
フッと息を吐き、装備を確認して、立ち上がろうとした瞬間。
一瞬、自分を殺したリザードマンの姿が脳裏に蘇る。
(動けない……。あいつと戦うのが、怖い……)
喉の奥で、短い悲鳴が漏れ、膝が震えた。
そんな時――
ベテラン:【反対側の道は行かないのか?】
「……反対?」
顔を上げると、目線の先に暗く細い通路が見えた。
(こんな道があったのか……)
アキラは驚き、目を見開く。
その細い通路の先には一体何があるのだろうか。少なくともリザードマンに挑むよりは、アキラにはマシに思えた。
「行ってみるか……!」
立ち上がり、アキラは細い通路の方へと移動する。
名無し:【お?】
ベテラン:【行くのか】
「ああ、アイツと戦わずに済むかもしれないしな!」
アキラはスマホのライトで道の先を照らしながら、慎重に狭い道を進んでいった。
◆ ◆ ◆
しばらく進むと、道は途切れ、目の前を巨大な岩壁が塞いでいる。
「……行き止まりかよ」
アキラは大きくため息を吐き、がっくりと肩を落とす。
「戻るか……」
諦めてふり返った瞬間、コメントが一気に流れた。
名無し:【おいバカ! 壁見ろって!】
ベテラン:【下! ライト当てろ!】
「え?」
促されるまま、スマホのライトを壁の下に向けると――
岩壁のくぼみに、木製の箱が置かれていた。
しゃがみ込み、埃を払いのける。
「これって……宝箱か……!」
切り抜きで見た覚えのあるものを目の前にして、アキラは興奮を隠せなかった。
ベテラン:【開けるな、解析が先だ!】
「解析……あ、D-ナビ!」
アキラは急いでアプリを起動し、宝箱にカメラを向ける。
『解析中』
青い円が回転し、数秒後――
『鍵:なし』
『罠:なし』
「よし……!」
安心したその時、画面下に小さく“限定条件”という文字が浮かび上がった。
「……限定条件? なんだこれ」
タップすると、新しい表示が開く。
『レベル差補正:探索者と番人のレベル差に応じて中身が変動』
「………………え?」
理解した瞬間、背筋が粟立つ。
名無し:【おおおお!! スゲー!!!】
ベテラン:【早く開けてみろよ!】
コメントに促されるまま、アキラは宝箱をゆっくり開いた。
赤い光が、薄暗い洞窟の天井を照らす。
「……っ!」
宝箱の中には、強く光を放つ、ひし形の小さな結晶が一つ入っていた。
「おおっ!」
アキラは喜び、手を伸ばして結晶を取り出す。
ベテラン:【武器結晶だな】
「これが!?」
動画で見たDライバー達が、結晶を壊して中身を実体化させていたのを思い出し。
さっそく中身を確認しようと、アキラが結晶を握りしめたその瞬間。
コメントが爆発した。
名無し:【やばい! 手を離せって!】
名無し:【何やってんだよバカ!】
名無し:【おい! バカやめろ!】
ベテラン:【知らないのか!? 武器結晶は開放済みだと売れなくなるんだぞ!】
「ええっ!? マジか!?」
アキラは結晶を潰す寸前で手を止め、慌てて手のひらを広げた。
ベテラン:【解析! はやく!】
「わ、わかった!」
スマホのカメラを結晶に向ける。
『解析中――』
数秒後、画面の表示にアキラの目が釘付けになった。
名称:ソウルイーター
レアリティ:SR
種類:吸魂の魔剣
効果:殺害した相手の魂を吸収して、武器の威力を強化する。
名無し:【おおお! SR武器!?】
ベテラン:【マジかよ、神引きじゃん! 売れば五百万はするぞ!】
「五、百万……!? 俺の月収の何倍だよ……!」
アキラは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
(これは絶対に持って帰らないと!)
そう決意したアキラだったが、裸のままの結晶は非常に脆い。
ちょっとした衝撃で簡単に壊れてしまうだろう。
「……ポケットに入れて運ぶのは、さすがにまずいよな」
結晶を手に持ったまま、アキラが目を伏せる。
万が一、衝撃で砕けてしまえば、この五百万は水の泡だ。 そのリスクを考えると、安易に決断することは出来なかった。
(どうすればいい……!)
焦ったままポケットを探っていると、指先に硬い感触が触れる。
(ん……? 何だこれ)
アキラは手を止め、ゆっくりとその硬い物体をつまみ出した。
それは、小さな透明のケースだった。
直感のスキルを貰った時に、スキル結晶が入っていた保護ケースだ。
(……これだ!)
胸の奥が一気に熱くなる。
アキラはケースのふたを慎重に開き、赤く光る結晶を落とさないようそっと中に収めた。
ふたがカチリと閉じる。
「よーし。これで安心だ!」
アキラは大きく息を吐き、肩の力を抜いた。
ケース越しに赤い光がきらめく。
「これは……今回の探索は、大成功といっても良いんじゃないか……?」
結晶の入ったケースを目の前に持っていき、赤い光をじっと眺める。
名無し:【まあ、確かに】
名無し:【初配信でこの引きは強い】
名無し:【夢があるな】
だが、その次の一言が、全てを凍りつかせた。
ベテラン:【まあ、あのリザードマンを倒さないと持ち帰れないんだけどな!】
「…………え?」
名無し:【ざまあwww】
名無し:【ねえ、今どんな気持ち? ねえ、今どんな気持ち?】
「………………え?」
アキラの空しい呟きだけが、静かな洞窟に響いていた。
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メモ
ダンジョンで手に入れたアイテムを持って帰るには、特定の場所に設置されている帰還ポータルを使用しなければならない。
緊急でダンジョンから脱出することもできるが、その場合、ダンジョンに入る前の状態にリセットされてしまう。。
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