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6.イケメンたちのバチバチと世界の頂点とのワンナイト

引きこもりハウスの奥に構えたアトリエは、版画のインクの匂いと、油彩の豊かな香りに満ちている。

誰の声も聞こえない静寂の中、私は一人、キャンバスに向かって筆を走らせていた。

最近のマイブームは、最高級の宝石に、私の魔力を編み込むようにして作るアクセサリー制作。

ある日、私が作った「深海色のサファイアをあしらったチョーカー」を身につけ、夫であるエドワードと共に王宮の夜会へ出席した。

そのチョーカーは、ただ美しいだけでなく、身につける者の「大人の色気」を極限まで引き出す魔力が込められている。

会場に入った瞬間、すべての貴族たちの視線が私に釘付けになった。


「アンナ、やはりそのチョーカーは仕舞っておくべきだった。他の男たちが、君を獣のような目で狂おしく見つめている……」

いつもは冷静な騎士団長エドワードが、私の腰を強く抱き寄せ、低く掠れた声で耳元に囁く。彼の大きな手が、嫉妬でわずかに震えていた。

そこへ、ゆったりと歩み寄ってきたのは国王アウグスト陛下だ。


「美しいな、アンナ。そのサファイアは、まるで初めて二人で夜を明かした時の、あの深い夜空のようだ」


公衆の面前で、堂々と私との「過去」を匂わせる国王。


エドワードの目つきが、一瞬で騎士のそれに変わる。


「陛下。アンナは私の妻でございます。あまり不躾な視線は、いくら主君とはいえ容赦いたしかねます」


「ほう、公爵。愛する妻が、世界中の男を狂わせる極上の女であることくらい、最初から分かっていたはずだろう?」


国を動かすトップ二人が、私の作ったアクセサリー一つで、裏でバチバチと火花を散らしている。

私はそんな彼らを遮るように、サファイアのチョーカーを指先で弄びながら、クスッと妖艶に笑ってみせた。

男たちの嫉妬ほど、大人の夜の贅沢なスパイスはない。



そんな夜会の喧騒から離れ、週の後半は、公爵邸でエドワードとの穏やかな結婚生活を送る。

庭園のテラス席。心地よい風がハーブの香りを運ぶ中、私とエドワードは優雅にティータイムを楽しんでいた。

目の前では、私たちが授かった5歳になる男の子が、国最高峰の家庭教師を相手に、チェスと高度な魔術数式で完璧に論破しているところだった。

「先生、その術式の組み方では無駄が多いです。母の通販システムの基盤を見習うべきですよ」

「な、なんと……! 5歳にしてこの論理的思考、まさに天才……!」

頭を抱える家庭教師を見て、私はスコーンにジャムを塗りながら微笑む。

現世での子育ては、毎日が戦場だった。

泥泥のワンオペ、言うことを聞かない子供へのイライラ。

でもここでは、泥臭いお世話や教育はすべて一流の使用人たちがやってくれる。

私はただ、天才に育っていく我が子を「可愛い、賢いわね」と、美味しい紅茶を飲みながら愛でるだけでいい。


「アンナ、君に似て本当に賢い子だ。……だが、少し寂しいな。君がアトリエに帰る日が近づくと、私はいつも、胸が締め付けられるようだ」


エドワードが私の手をとり、手の甲にそっと唇を寄せた。使用人たちが気を利かせて一斉に目を逸らす。


「大丈夫よ、エドワード。離れているからこそ、あなたへの愛おしさも増すの。……今夜は、たっぷりあなたを癒やしてあげるわ」

そう囁くと、最強の騎士団長は、まるで主人の帰りを待っていた従順な犬のように、切なげで、でも熱い瞳で私を見つめ返したのだった。




深夜のログインと、叙情的な大人の夜公爵邸での贅沢な時間を過ごした後、私は再び、私の絶対的な聖域である「引きこもりハウス」へと戻った。

スウェットに着替え、お気に入りのカニチャーハンを念じて呼び出し、深夜にオンラインゲームにログインする。ヘッドセットから聞こえてきたのは、いつも一緒に超難関ダンジョンを攻略している、お馴染みのバディ「アル(ハンドルネーム)」の声だった。

低く、どこか気品のある、耳に心地よい声。


「遅かったな、アンナ。君がいない間、レイドボス周回も退屈で仕方がなかった」


「ごめんごめん、ちょっと実家(公爵邸)の用事が長引いちゃって。さあ、今日も荒稼ぎしに行こう!」


画面の向こうのアルとは、お互いの素性を知らない気楽な関係——のはずだった。しかしその翌週、下界の特設ギルドハウスで「ゲーム内バディ限定のオフ会」がシークレットで開催されることになり、私は気まぐれに足を運んだ。指定されたVIPルーム。重厚なドアを開けると、そこに座っていたのは、隣国を治める若き覇王、皇帝アルベルトだった。銀髪の髪に、すべてを見透かすような冷徹な琥珀色の瞳。だが、私の顔を見た瞬間、その瞳が驚きで大きく見開かれた。


「……まさか、君が、あの暴れ馬魔導士の『アンナ』なのか?」


「ふふ、驚いた? 『アル』。画面の向こうの冷酷な重戦士が、まさか皇帝陛下だったなんてね」


お互いに正体を知っても、私たちの間に流れるゲーム仲間の空気は変わらなかった。むしろ、現世のしがらみも、異世界の地位もすべて忘れて繋がれる唯一の理解者だと気づいた瞬間、二人の間の空気が、一気に濃密な熱を帯びていく。その夜、皇帝の私室へと招かれた。部屋には、月光だけが静かに差し込み、シルクのカーテンを青白く揺らしている。アルベルトは、昼間の皇帝としての威厳あるローブを脱ぎ捨て、ただの一人の男として私の前に立った。


「ゲームの中だけでは、足りなくなってしまった。……君に、触れたい」


彼の長い指先が、私の頬に触れる。冷たい外見とは裏腹に、その指先は驚くほど熱を帯びていた。私は拒まない。彼の広い胸に身を委ねると、微かに、高鳴る彼の鼓動が伝わってきた。彼は私をベッドへと誘い、まるで壊れ物を扱うように、丁寧に、かつ激しく求めてきた。月光に照らされた彼の銀髪が、私の肌の上でサラサラと揺れる。唇が重なるたび、お互いの吐息が夜の静寂に溶けていく。彼が私を抱きしめる腕の力強さは、皇帝としての孤独と、私という存在を絶対に離したくないという、狂おしいほどの渇望に満ちていた。言葉はいらなかった。私たちはただ、夜の闇の中で、互いの体温だけを確かめ合う。現世の辛かった記憶も、母親としての責任も、すべてがこの濃厚な快楽と、美しい夜の情景の中に消えていく。私は、ただ愛される快感に身を任せながら、世界を支配する男を、この手で完全に手懐けている全能感に酔いしれていた。


——翌朝。薄暗い朝もやが部屋を包む頃、私はベッドの中で目を覚ました。隣では、アルベルトがまだ、私の残り香を求めるように私の枕を抱きしめて、深く眠っている。私は起こさないよう、そっとシーツを抜け出した。現世の服に着替え、彼の机の上にあった羊皮紙に、羽ペンで一言だけ書き残す。『楽しかったわ、アル。今日の夜、22時にいつものダンジョン前で待ってる。遅れないでね』朝日が昇る前に、私は王宮を脱出し、愛車を走らせて我が家へと帰宅した。

いつものスウェットに着替え、念じて出てきた温かいコーヒーを飲む。

「あー、やっぱりここが一番落ち着く」

スマートフォン(通話石)には、

『アンナ、君のサファイアのチョーカーを買い取りたい。いくらでも払おう(国王)』

『次はいつ公爵邸に帰ってくる? 君の好きなハーブティーを仕入れた(エドワード)』

そして、今起きたであろうアルベルトから、『朝、君がいなくて絶望した。……だが、今夜22時だな。絶対に遅れない(皇帝)』というメッセージが届いていた。


誰にも私の本拠地マイホームは教えない。私は私のルールで、世界のトップたちを手のひらで転がしながら、今日も1人、最高に贅沢で気ままな自由を貪り尽くしている。

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