3.気まぐれに人助けとイケメンワンナイト
引きこもり生活を始めて数ヶ月。
映画もゲームもやり尽くし、ほんの少し「外の空気が吸いたいな」と思った私は、おめかしをして下界へ出かけることにした。
もちろん、移動もチート。
現世の最高級外車を魔力仕様にカスタマイズし、お気に入りの音楽を爆音で流しながら、結界の外の異世界へと車を走らせる。
訪れたのは、何やら物々しい雰囲気の大きな街。聞けば、凶悪なモンスターの出現と、腐敗した貴族による重税のせいで、街の経済も治安も崩壊寸前らしい。
現世のブラック企業を彷彿とさせるギスギス感に、私は小さくため息をついた。
「よし、ちょっとスカッとさせてもらおうかな」
まずは、街を脅かす巨大なドラゴン。
冒険者たちが絶望する中、私は車の窓から指をパチンと鳴らした。
チート能力『創造・消去』。
一瞬でドラゴンは光のチリとなり、ついでに腐敗した貴族の隠し資産をすべてネットバンク(異世界版)にハッキングして、街の救済基金へと強制送金してやった。
裏で何が起きたか分からず、呆然とする街の人々。
「ふぅ、いい運動になった」
社会の理不尽を、権力も暴力も使わず、ただ指先一つで粉砕する。この全能感、現世のストレスが一気に吹き飛ぶほど気持ちがいい。
そして夜。街の最高級ホテルのバーで、私は1人、カクテルを傾けていた。
街を救った「謎の美女」として噂が広まる中、私の前に一人の男が声をかけてきた。
「隣、いいかい? 綺麗な人」
振り返ると、眩しいほどの超絶イケメン。
この街の若き若爵で、騎士団長でもあるらしい。
引き締まった体に、知的な瞳。
現世には絶対に生息していないレベルの極上物件だ。
彼は私の、どこか世俗を達観した大人の色気と、底知れない雰囲気に一瞬で一目惚れしたようだった。
甘い言葉、熱い視線。
現世での「母親としての私」なら、絶対に理性を働かせて一線を引いただろう。
でも、今の私は自由。
誰の目も気にする必要はない。
「いいわよ。今夜だけなら、付き合ってあげる」
彼の手を取り、ホテルの最上階の部屋へ。
久しぶりの、狂おしいほど情熱的な夜。
かつての結婚生活のような「生活感」や「義務感」は一切ない。ただ純粋に、互いの肌の温もりと、快楽だけを貪り合う時間。
——翌朝。「……ん」横でまだ愛おしそうに私を抱きしめて眠る彼を、私はベッドの中から冷めた目で見つめた。可愛いし、最高に気持ちよかったけれど、私の本拠地に連れて行く気はさらさらない。彼の「日常」に私が組み込まれるのも、私の「自由」に彼が踏み込んでくるのも、絶対に嫌だ。私は彼の額にキスを落とし、そっとベッドを抜け出した。
枕元には、私の連絡先(魔力式の通話石)と、一枚の手紙を残して。
『楽しかったわ。また私が、あなたに会いたくなったら連絡する。私から連絡するまでは、探さないでね』
高級車に乗り込み、アクセルを踏み込む。バックミラーに映る街が小さくなっていくのを見ながら、私はふっと笑った。
数時間後、我が家の結界に戻り、速攻でスウェットに着替える。
「あー! やっぱり我が家が一番!」
念じて出てきたお茶を飲みながら、さっそくパソコンを起動してオンラインゲームにログインする。
「あ、ネトゲの皆さんお疲れ様ですー。ちょっと遠出してて遅くなりました」
「おかえりー! 寂しかったよ!」
昨夜はイケメンの腕の中にいた私が、今はスウェット姿で画面の向こうの仲間と笑っている。寂しくなったら、下界で世界を救って、イケメンとワンナイトを楽しめばいい。満たされたら、この無敵の城に帰って、1人でダラダラすればいい。「この人生、本当に最高」誰にも私の領域を侵させない。私は私の欲望のままに、この異世界を100%支配して生きている。




