2.ネットとゲームと美味しいご飯
異世界での生活が始まって数日。
私の家は、神様の粋な計らい(と私の妄想)によって、とんでもない進化を遂げていた。
まず、食事。
キッチンに向かって「今日は、外側がカリカリで中がジューシーな最高級の唐揚げと、炊きたての白米」と念じる。すると、お気に入りの皿の上に、揚げたて湯気ハツラツの唐揚げが、完璧な盛り付けでポンッと現れた。油の片付けも、生ゴミの処理も一切なし。
現世で毎日「今日の献立どうしよう」「早く片付けなきゃ」と頭を悩ませていたのが嘘のようだ。
「はぁ……ビールに合いすぎる……!」
自分のためだけに用意された、完璧な味。誰の好き嫌いも気にしなくていい食卓が、こんなに美味しいなんて。
お腹が満たされたら、リビングの巨大なソファへ。
壁一面のスクリーンに向かって念じると、現世の映画、アニメ、ドラマ、小説に漫画まで、あらゆるエンタメが無限にスクロールされる。
サブスクの月額料金なんて概念はない。もちろん、お金の心配は一生不要だ。さらに、神様は「元・現代人」の私に最高のチートをくれた。
『異世界ネットショッピング』
画面をタップすれば、現世の高級コスメ、ふわふわのパジャマ、欲しかったマッサージ器が、結界の入り口に一瞬で届く。
「これ、現世だと高くて諦めたやつだ……」
値段を見ずに「カートに入れる」を押す快感。これまでの節約生活のご褒美だと思って、遠慮なく買い漁った。そして何より素晴らしいのが、パソコンとゲーム機だ。ここのネット回線は、異世界魔力駆動の超高速。ラグ(遅延)はゼロ。
たまに、ほんの少しだけ「誰かの声が聞きたいな」と思ったら、オンラインゲームを起動する。ボイスチャットを繋げば、画面の向こうには世界中のプレイヤーがいる。でも、お互いに素性も年齢も知らない。
「あ、そこの敵、私が引きつけますね!」
「助かります! ナイスプレイ!」
ただそれだけの、目的を同じくした、利害関係のないライトな繋がり。
ここでは私は「反抗期の子供の母親」でも「疲れた45歳」でもない。ただの、一人の頼れるゲーマーだ。
「じゃ、私そろそろ落ちますね。お疲れ様でしたー」人恋しさが満たされたら、自分のタイミングでさっとログアウト。引き止める人もいなければ、明日会った時の気まずさもない。パートナーがいなくて寂しいなんて、ゲームのチャット欄が賑やかなお陰で、1ミリも思い出す暇がなかった。
夜。現世から取り寄せたシルクのパジャマを着て、ふかふかのベッドに入る。スマホの画面には、もちろん子供からのキツいLINEも、職場からの緊急連絡も入っていない。「自由って、こういうことかぁ……」誰にも縛られず、お金に困らず、好きな時に美味しいものを食べ、好きなだけゲームをして寝る。かつて絶望だと思っていた私の人生は、この異世界の片隅で、間違いなく「世界一贅沢な大人の夏休み」を迎えていた。




