1.異世界転生の始まり
45歳のシンママが反抗期の子育てと仕事に疲労しつくして、異世界で何にも縛られず生き直すお話です。サクッといいとこ取りでご都合主義でストレスフリーな展開です。今後複数人の男性とのワンナイト描写があります(サクッと)
「うるせえな! ババアに何が分かるんだよ!」激しいドアの閉まる音。
それが、45歳の私が現世で聞いた最後の音だった。
15年間育てた娘。仕事で忙しい中、習い事も子どものレジャーも全ての休日を投げ合って育ててきた。全生活を子供に割り振り、自分のやりたいことを全て我慢してきたお陰で高校大学への学費、その後の社会人生活に進む貯金も貯まった。これからは私の老後の資金をゼロから貯めなくては…
そう思いながら、娘の態度の酷さに深いため息を突きながら向かった夜勤の帰り道、猛スピードのトラックが視界をよぎり——
気づけば私は、真っ白な空間にぽつんと立っていた。
目の前には、申し訳なさそうに手を合わせる神様が。
「手違いで寿命を縮めてしまい、本当に申し訳ありません。お詫びに、どんな願いでも叶えて異世界へ転生させます。聖女として国を救う能力や、イケメン騎士たちとの恋はいかがですか?」
私は食い気味に首を横に振った。
「恋愛も、国の救済も、人間関係も、もう一切お断りです。私はこれまで24時間365日、仕事と子育てと世間の目に縛られて生きてきました。お願いです。誰にも邪魔されない場所で、1人で、ただのんびり自給自足がしたいです」
神様は少し驚いた顔をした後、優しく微笑んだ。
「分かりました。では、あなたの第二の人生が、究極に安らかなものになる力を授けましょう」
目を覚ますと、そこは美しい緑に囲まれた静かな森の中だった。目の前には、こぢんまりとした、でも清潔で居心地の良さそうな木造の平屋が建っている。
神様がくれたチート能力は2つ。
1つ目は『絶対不可侵の全自動結界』。
この家の敷地内には、私に敵意や下心を持つ者は一切入れない。それどころか、私が「会いたくない」と思えば、人間はおろか虫一匹すら視界に入らない。さらに、結界内は常に適温が保たれ、掃除や洗濯は念じるだけで勝手に終わる。
2つ目は『創造の菜園』。裏庭の畑に植えれば、どんな野菜や果物も一晩で、瑞々しく最高に美味しく育つ。水やりも不要だ。
「……静かだ」鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音しか聞こえない。
「お母さん、ご飯まだ?」
「これ買って」
「なんで私の気持ち分かってくれないの?」
という責め立てる声は、もうどこにもない。
「シフト代わって」
「有給取りすぎじゃない?」
という職場の視線もない。
私は深く息を吸い込んだ。
胸の奥のモヤモヤが、すうっと消えていくようだった。
さっそく裏庭に出て、もぎたてのトマトをかじる。
「うわっ……おいしい……!」
信じられないほど甘く、濃厚な味が口いっぱいに広がった。
自分のためだけに用意した、誰にも邪魔されない食事。これだけで、涙が出そうになるほど幸せだった。
昼下がり、お気に入りのロッキングチェアに腰掛け、ハーブティーを飲む。
現世ではいつも、子供の予定や仕事の締め切りに追われ、時計ばかり見ていた。
でもここには、時間を気にする必要なんてどこにもない。
ふと、「もう男の人はいいや」と思う。パートナーが欲しいと思った時期もあったけれど、結局は誰かに合わせたり、期待して傷ついたりするだけだった。
今の私には、この圧倒的な「孤独という名の自由」が、何よりも贅沢で、心地いい。
夕方になれば、お風呂に浸かる。ボタン一つで、結界が自動で薪を割り、お湯を沸かしてくれた。
湯船の中で手足を伸ばす。45年間で一番、身体が軽い。夜は、ふかふかのベッドに潜り込む。明日も、明後日も、誰のために起きる必要もない。ただ、私が私のためだけに生きる日々が続いていく。
「がんばったよ、私。もう、お休みしていいよね」
誰の母親でもない、誰の部下でもない、ただの「私」に戻った私は、満ち足りた静寂の中で、深い眠りに落ちていった。




